第46話 殲滅戦レビュー


 俺にとってのゼノとの初戦を完全勝利で終えることができたのだが、いずれ襲来するであろうゼノの大集団に対しては、今のままの戦い方では必ずじり貧になり最終的には破綻はたんする。アギラカナの位置は恒星同士を結ぶ最短パス上にないからといって億を超えるゼノの大集団が近くの星系に押し寄せてきた場合安全であるとは言いきれない。何か決定的な打開策が必要だ。


 ゼノ殲滅作戦が無事終了し、艦隊はアギラカナに撤収を終えていた。俺は現在、今回の作戦のレビューを作戦会議室で行っているところだ。


 探査部のドーラ少将が作戦会議室の前面にあるスクリーンの前に立ち、今回の作戦でのゼノの動きについて報告を始めた。この会議への出席者は、緊急作戦会議の時のメンバーと同じだ。


「今回の作戦で、ゼノは船殻のような超高密度物質を好むことは確認できましたが、それだけでは決め手に欠けます。


 探査部として、まず報告させていただくのは、今回の戦闘でのゼノの動きです。こちらのスクリーンをご覧ください。これはイプシロンIa上空の観測衛星からの映像です。機雷艦に群がるゼノが、船殻に突っ込んでいるのが良くわかります。ここでは、ゼノの速度がかなり低かったため、機雷艦はよく耐えています。


 こちらは正規母艦から発艦した観測機からの映像で、特殊作戦機が特殊弾をゼノの集団に撃ち込んだ時のゼノの挙動です。特殊弾がゼノの集団を後方から通過していくにつれ、ゼノの集団が細長く収束していったのはご承知のことと思います。

 ここで注目したいのは、特殊弾は四基が一単位となり、重力スラスターの作る重力井戸を重ね合わせてより強力な推力を得てゼノの集団の中を突き抜けて行けたわけですが、でき上がった大型の重力井戸、いわば擬似ブラックホールがゼノに近づくと、ご覧のようにゼノが回避行動をとっています。


 最後の映像は、特殊弾の作り出した擬似ブラックホールから逃げ遅れたゼノの様子です。高速機の最大速度を超える光速の35パーセントを得るための重力井戸ですから光速の15パーセントしか出せないゼノではその影響範囲に取り込まれた場合脱出不能になります。


 映像では重力井戸に取り込まれた複数のゼノが、重力井戸からの脱出を試みているのか、やみくもにかなり高い強度の中性子線を放出しながら回転し、衝突を繰り返したあげく活動を停止して高強度中性子線を放ち崩壊しています……少し映像を戻してみます。この個体に注目してください。右上に出ている数字が、この個体の質量を示しています。今表示されている数値は270、単位は万トンです」


 一体のゼノがスクリーンの中で拡大された。色は青みがかった灰色で半透明、やみくもに回転しながら紡錘型の体のいたるところから強い白色の光が放たれている。それが中性子線なのだろう。スクリーンの上の数字は一秒ごとに5から10減少している。そして、とうとう数字が100を切り、80を切ったところで、スクリーンは真っ白になった。


「ゼノが崩壊しました。今お見せした映像は、実時間にして三秒ほどを引き延ばしたものです。強い重力井戸の中から、全力で脱出しようとした結果、推進剤である自身の体を一気に使い果たし崩壊したものと考えられます」


「さらにもう一点、重要な情報があります。二年前、ゼノがエリダヌス座イプシロンI星系に現れた時のゼノの質量分布と、イプシロンIaで繁殖を終えた後のゼノの質量分布を比較したところ、繁殖前に比べ繁殖後の質量分布はどちらも下限は100万トンですが、その他の部分は25パーセントほど、軽い方へシフトしていました。

 ゼノは繁殖を重ねるたびに軽くなっていくようです。その軽量化が進み、質量が100万トンを下回ればゼノは崩壊すると考えられます。ゼノには寿命が有り無限に増殖していくものではないようです。少なくとも、八千年前アーセンを滅ぼしたゼノの大集団は今は存在していないと思われます」


「ドーラ少将説明ありがとう」



 ゼノを撃退できる強力な手段が見つかった。さらなる朗報としてゼノは無限に増えていくのではなくいつかは死んでいくことが分かった。


 会議の後、例のごとく俺の私邸で次の戦いに備え、みんな揃って英気を養ったどんちゃん騒ぎのはいうまでもない。




 私邸で英気を養った俺は、翌日早々に地球に戻り、今は大使館の八階の面々に今回のゼノ殲滅作戦の結果について説明を終えたところだ。既に結果は知っていたのだろうが、みんなの笑顔が嬉しい。改めて俺から説明を受けるとやはり違うのだろう。



 いつものごとく、自席に座ってマグカップに入ったインスタントコーヒーを息を吹きかけ冷ましながら飲んでいると、一条が騒ぎながら執務室に入って来た。ばたばたと俺の机の横にやって来くるのだが、執務室に詰めている秘書室のみんなはいつものことなので気にも留めず自分の仕事を進めている。


「わーい。せんぱーい。見てください、ほれ、これ。この雑誌!」。机の上に雑誌を広げて俺に見せつける一条。


「ここに出てる写真、これ一条じゃないか? 何々? ……ファービス・ジャパン? 『世界で最も影響力のある人物 四十七位、日本、一条佐江』」


 一条がにんまり笑っていた。こいつには何光年も先の宇宙での戦いは無関係だものな。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る