第47話 ジャンプドライブ


 いつものように俺はまったり大使館の執務室の自席で、コーヒーを飲みながら、秘書室のみんなが、オペレーションデスクでなにやら作業しているところを眺めていた。順風満帆な会社のお偉いさんモードだ。ゼノの撃退必殺技?が見つかりだいぶ肩の荷が下りた気がしているのも事実だ。


 アギラカナでは、これまでアーセン憲章の制約により、それまで手の付けられていなかった実験設備や、研究施設の整備が新憲章のもと探査部主導で徐々に進んできていた。



「艦長、探査部のドーラ少将より通信が入っています」


「つないでくれ」


 机の上のモニターにドーラ少将の顔が映る。


「司令長官閣下。おはようございます」


「おはようございます。ドーラ少将、何かありましたか?」


「閣下、さっそくですが朗報です。ジャンプドライブの実証実験が成功しました。アギラカナが実験段階中のジャンプドライブを使用した結果、ジャンプドライブ機関を破損喪失して以来、多くの技術も同時に喪失していたジャンプドライブですが、先ほどテスト機による実証実験が成功しました。

 現行技術では、ジャンプドライブの能力が小質量の非船殻船までしか対応できませんが、船殻艦への対応のための技術的問題点はあらかた解決していますので後は時間の問題だけです。小型の探査機ならばすでにいつでも指定した座標に送り込むことが可能です。

 ただ、今回の実証実験でのジャンプは、アーセンで研究していたジャンプドライブのいわば劣化版です。理想ですと、ジャンプインからアウトまでの実空間での所要時間はほぼゼロなのですが、今回の実証実験では0.1パーセントの遅れが生じています」


「遅れというのは?」


「たとえば、1000光年先にジャンプしますと、目の前で消えた宇宙船は本来ならば一瞬で1000光年先に現れるのですが、われわれのジャンプドライブですと一年後に宇宙船が1000光年先に現れることになります」


「1000光年で一年ですか。それでも無人機なら問題ないですよね」


「今回の実証実験は、ジャンプ中の宇宙船内で生物が生命活動を維持できることを考慮した物でしたので、それを無視しますと、時間の遅れを四十分の一まで短縮できます」


「思っていたジャンプドライブとは違うので驚きましたが、そのジャンプドライブを搭載した無人機なら実質、光の速さの四万倍の速度を持つと考えればいいわけですね」


「はい、その通りです。現在ゼノの発生元はっせいもとの可能性のある対象天体は百二十ほどありますので、そのジャンプドライブを搭載した無人機でそれらを片端から調査し、ゼノが発生したと思われる天体を特定します。その発生元の天体を破壊できれば、現時点で存在しているゼノがどれほどいようと最終的には各個体の寿命はいずれがき、ゼノは消滅します」


「ジャンプドライブを搭載した探査機はいつ頃できそうですか?」


「探査機の機体は既に六十機分用意していますので、ジャンプドライブの製造、搭載、調整を含め十日以内に最初の探査機にジャンプドライブを搭載できます。その後、順次搭載していきます」


「ゼノが発生したと思われる天体が特定できたとして、それは中性子星または、それに準じた星なんですよね。そんなものを破壊できるんですか?」


「今のところ、中性子星の破壊方法は模索中です。何か方法はあるはずですし必ず見つけます」


「そうだ、先日の会議で複数の重力スラスターを使った重力井戸の話が有りましたが、この重力スラスターを応用して、ブラックホールになるまで中性子星をつぶせませんか? 中性子星はブラックホールになり切れなかった星なんですよね」


「おっしゃる通り、可能性は十分あります。中性子星の中心部に新たに重力井戸を作り出し、圧壊するまで重力を高めてやれば、中性子星は中心部から崩壊してブラックホールになり、周りの物質はそのままブラックホールに飲み込まれて行きます。

 ただ、ブラックホール用の重力スラスターを積んだ宇宙船は中性子星から距離を取る必要がありますから、重力井戸の発生位置がかなり離れます。重力井戸の深さも相当なものが必要でしょうから、ブラックホール用の重力スラスターは大型高出力ものが必要になると思われます。

 それと、破壊しようとする中性子星と、重力井戸による引力を相殺するため、反対方向に同程度の重力井戸を別の重力スラスターで作る必要もありますから、それらを一式詰め込んだ上、中性子星に接近できる宇宙船も必要になります」


「相当大がかりで大きなものになりそうですね」


「中性子星の質量に依存する部分もありますから何とも言えませんが、最悪でもアギラカナにジャンプドライブと中性子星の圧壊装置を一緒に実装してしまえば何とでもなります。次の報告を期待しててください。今回の報告は以上です。失礼します」


「ドーラ少将、ご苦労様でした」



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