第37話 遭遇


 エリダヌス座イプシロンI星系、太陽系からの距離は約10光年。アギラカナから11光年。


 S3級探査艦EP-0011が星系外周部に点在する小惑星や外惑星イプシロンIbなどの詳細探査を行っている。


 S3級探査艦は直径1キロを超える巡洋艦並みの大きさを持つ球型艦で、攻撃力は持たない代わりに戦艦並みの大型重力スラスターを搭載しているため駆逐艦並みの加速度を出すことが可能だ。長期の行動を可能とするため乗組員の生活環境は戦闘艦艇と比べ整っている。内部に小型工作設備を持ち各種資材を備蓄している。探査艦EP-0011は最寄りのハイパーレーンゲートのあるエリダヌス座イプシロンⅡ星系より、十年の歳月をかけ、このイプシロンI星系に到着した。



――探査艦EP-0011より報告。


――外周アステロイドベルトの探査により、有力重金属小惑星を多数発見。


――ガス惑星イプシロンIbの内部探査を開始します。ガス資源賦存量を調査後、惑星核の精密探査を実施します。


――探査ドローン射出。


 ……




 探査艦EP-0011の艦長席に座るライナ・フランテは自動ログ装置から流れる単調な報告音声を聞きながら、中央指令室の中で立ち働く探査部の面々を見ていた。ログは、そのままアギラカナの探査部本部に超空間通信で送られている。


「天頂方向、距離20天文単位(AU)、多数の高速飛翔体を発見」


  オペレーターの声が指令室に響く。


 20AUは空間走査機の全天モードでの捕捉レンジの限界だ。オペレーターの腕がいいのだろう。さらに報告は続く。


「飛翔体の速度は光速の15パーセント、内惑星イプシロンIaを目指している模様」


「イプシロンIbの惑星探査は直ちに中止する。イプシロンIbに撃ち込んだ探査ドローンは廃棄。観測対象を高速飛翔体およびイプシロンIaとする。観測を開始せよ」




「……現在飛翔体の数は二万、なおも増加中」


「……現在飛翔体の数は四万五千、なおも増加中」


「飛翔体の質量分布出ました。質量分布はゼノの質量分布に合致しています。飛翔体がゼノである蓋然性は現時点で98パーセント以上」


 指令室の中が静まり返る。


――ゼノと思われる飛翔体を発見。観測開始します。


 自動ログ装置の声だけが指令室の中に響く。


「……現在飛翔体の数は二十五万、二十六万……」




「……現在飛翔体の数は七十万」


「……現在飛翔体の数は七十五万。増加止まりました」


 指令室の中で立ち働く探査部の面々が慌てることなく淡々と自分の仕事をこなしている。


 対象の速度と距離からすると飛翔体群は約十八時間で内惑星イプシロンIaに到着する。


 百六十分後


「光学観測結果出ました。飛翔体総数七十五万二千。速度は光速の15パーセントで変化なし。単体の形状は紡錘型。全長40メートル、最大径10メートル。側面から中性子線を放射して進行方向を変えているようです。……飛翔体をゼノと断定。徐々にゼノ集団の空間分布が収束しています」


――飛翔体をゼノと断定。総数七十五万二千、観測継続します。


 七十五万全てのゼノが内惑星イプシロンIaに光速の15パーセントを維持したまま突入するようだ。惑星は粉々に砕かれるだろうが、これでゼノが生命活動を停止するかは不明だ。ゼノの生命活動停止時にばらまかれるという高強度中性子線を観測する必要がある。今のこの位置からイプシロンIaまで6AUしか離れていない。二群三群とゼノの集団が現れる可能性があるので撤収したいが状況を見定める義務がある。もう少し、イプシロンIaより離れて観測を続けるとしよう。


「本艦は、一度イプシロンIaより距離を取る。係留ビーム解除、発進!」


「係留ビーム解除。発進します」




【補足説明】

 エリダヌス座イプシロンI星系

 太陽系から10光年ほど離れたエリダヌス座イプシロンI星系には、二個の惑星と小惑星帯があり、内側の岩石型内惑星がイプシロンIa、外側のガス巨星がイプシロンIbと呼ばれている。


 星間生命体ゼノ

 非常に硬質の外殻で鎧われた宇宙生物。特に前面はアギラカナの有する船殻相当の強度を持つ。成体は全長40メートル最大径10メートルほどの紡錘形。質量は100万トンから400万トンと幅がある。 

 中性子線を後部より放射し宇宙空間を高速で移動。最高速度は光速の15パーセントほどである。推進剤である中性子を放射するには内部物質を消費しており、宇宙空間での行動により質量は減少する。

 集団を作る習性があり、集団は数十万個体から数百万個体で形成される。その集団がさらに数十から数百集まった大集団を形成することもある。アーセンが滅亡した第二次ゼノ戦争は比較的大型の大集団が複数個アーセン領域を襲ったものと考えられている。

 岩石型惑星に高速で突入し惑星を崩壊させる習性がある。この行動はゼノの捕食および繁殖行動と考えられている。岩石型惑星内の重金属元素を吸収し、繁殖する。

 星系内の岩石型惑星内の重金属元素を食べつくす消費すると、最も近い星系の恒星を目標に直線的に移動する。

 何らかの手段で質量を感知している。宇宙空間で艦船がゼノと遭遇した場合、大質量である船殻を小惑星と誤認し突入してくるのでないかと考えられている。

 外殻側面に六カ所ある噴出口より中性子線を放射し方向転換する。またこの中性子線により接近するものを攻撃することもある。

 生命活動が停止すると、高強度中性子線を周囲にまき散らす。死骸、残骸は残らない。

 中性子星またはそれに類する星で進化した生物が進化の過程で外殻と宇宙空間の移動能力を得たものと考えられている。ゼノ本体は100万トン近い質量を持つとされるものの、体積は1立方ミリ以下であると推定されている。




[あとがき]

エリダヌス座イプシロンI、Ⅱ星系は架空の星系です。イプシロンIのモデルはエリダヌス座イプシロンです。

宣伝:SF

『銀河をこの手に!-試製事象蓋然性演算装置X-PC17-』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054898406318 よろしくお願いします

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