第38話 緊急会議1


 光速の15パーセントの速度を維持したまま降り注ぐゼノにより、イプシロンIaが閃光を発しながら崩壊して行く。惑星から舞い上がった巨大な破片は小惑星となり惑星をめぐるリングを形成しつつある。すべてのゼノがイプシロンIaに激突し終わった後に残ったものはリングをまとい白熱した光球のイプシロンIaの姿だった。その間、ゼノの活動停止に伴う高強度中性子線は観測されていない。


 イプシロンIaから8天文単位(AU)離れた位置から惑星が崩壊する様子を観測する探査艦EP-0011の指令室。指令室内の探査部員は声も立てず、中央スクリーンに映し出される惑星の死を見守っている。


 艦長ライナ・フランテは考える。


 これがゼノの繁殖行動なのか? 一つの星があっという間に崩壊してしまった。繁殖を終え、いつゼノが活動を再開するのか見守る必要がある。何にしても、迅速な対応をするためには、当艦の資材を利用し早急にハイパーレーンゲートを建設する必要がある。建設だけなら工作艦をアギラカナから派遣してもらえば早いのだが、この星系に最も近いハイパーレーンゲートのあるイプシロンⅡは3光年先だ。そこからこの星系まで10年かかる。当艦の資材だけでは小型のハイパーレーンゲートしかできないが工作艦が通れる大きさなら、何とでもなる。やるしかない。


「イプシロンIaに観測衛星を射出」


「本艦は、外惑星イプシロンIbに再び進出し、小型ハイパーレーンゲートを建設する」


――イプシロンIaに観測衛星を四基射出。……完了。



――……EP-0011、小型ハイパーレーンゲートを建設開始します。





 一条が月の露天風呂風大浴場で頭上の半月状の青い地球を見上げながらぼーとしていたころ。



 重大な問題が発生したため幹部による緊急会議を行いたいとコアのアバター、マリアさんから緊急通信が入り俺はLC-0001-フーリンカに乗って急いでアギラカナに戻った。今回俺に同行したのはアイン一人だ。



 アギラカナコア内、艦長公室に隣接する作戦会議室。


 ゼノ発見の報告を受け招集された作戦会議だ。アギラカナ艦長である俺のほかの参加者は、管理AI、コアを代表するマリアさん。航宙軍アマンダ中将、探査部ドーラ少将、兵站部フローリス少将の三人の宇宙軍揮下の各部門トップと俺の秘書のアインの五名。俺は正式な会議と言うことなので、襟の三個の金ボタンを付けた大将服を着ている。今日の俺の肩書はアギラカナ宇宙軍司令長官だ。


 アイン以外の五人は既に会議室で俺を待っており、俺が部屋に入ると全員が席を立ち上がり、


「司令長官閣下に敬礼!」


 アマンダ中将の掛け声で、三人の高級将官が例の敬礼をするので、恥ずかしながら俺も答礼した。もう、そういうのいいから。マリアさんは軍属扱いなので俺に敬礼する必要はない。


「……ここまでが、探査艦EP-0011からの報告です。現在探査艦EP-0011はエリダヌス座イプシロンIaの観測を継続しつつガス巨星であるイプシロンIb近傍で小型のハイパーレーンゲートを建設中です。何分なにぶん工作艦でない探査艦のため完成目途は今のところ不明ですが一年以内には完成させると報告を受けています」


 探査部のドーラ少将が光球と化した惑星を映し出したスクリーンの前で説明を終えた。


 ハイパーレーンゲートの話が出たので、それを受けた兵站部のフローリス少将が、


「この探査艦による小型ハイパーレーンゲートが完成し次第、こちら側に対になるハイパーレーンゲートを建造し、速やかに工作艦を送り込む予定です」


 その発言に俺は頷き、


「ゼノの再活動時期がわからないかな?」


 誰にともなく尋ねるとマリアさんが答えてくれた。


「正確な再活動時期は分かりませんが、記録にある通りなら二年は活動を再開しないとみてよいでしょう。

 活動再開後の個体数はイプシロンIaの重金属元素の推定賦存量から、おそらく四倍の三百万程度に増加すると思われます。

 探査艦EP-0011の精密調査前でしたので正確な予測は出来ません。活動を再開したゼノは、おそらくイプシロンI星系に最も近いイプシロンⅡ星系に移動すると思われます」


「今回のゼノ以外にゼノがどこかに潜んでいる可能性は有りませんか?」


「可能性は大いにあります。恒星間空間の索敵が必要です。索敵だけですから無人探査機で十分です」


「索敵についてはそれで頼みます。あと、惑星の中に潜り込んでいるいまの状態のゼノを攻撃する手段はありませんか?」


「ゼノが潜り込んでいる惑星自体が邪魔で、超大型の対消滅弾を撃ち込むことで惑星自体は吹き飛ばせてもゼノに対する効果は限定的です。通常弾での攻撃ですと、溶融して液化してしまっている現在の惑星がさらに熱くなるだけで効果はないと思います」


「いま攻撃できないということは、ゼノの活動再開を待ちつつ、我々は戦力を強化していくということですね。前に聞いた話だと、有人攻撃機とゼノのキルレシオが30対1、無人だと10対1でしたか」


 みんなが頷く。


「それと、有人攻撃機一機に対して六機の無人攻撃機が随伴出来るとも聞いています。言い方を変えれば、無人攻撃機をフルに随伴させた攻撃機一単位のキルレシオは90対1と考えていいわけですね?」


 航宙軍のアマンダ中将の方を向いて尋ねと。


「いいえ、先ほどのキルレシオですが、対ゼノ戦闘の戦闘方式が確立されていないゼノ戦争最初期のものです。説明は省きますが正規の攻撃機パイロットが上限である随伴無人攻撃機六機で出撃した場合、おそらく今の数字の90対1が150対1以上になるかと思います」


「そうなんですか」


 頷くアマンダ中将。


『三百万のゼノの撃破には、その百五十分の一、二万の有人攻撃機と十二万の無人攻撃機があればいいということか。しかし、それだと三百万のゼノは全滅できるけど、こちらも全滅してしまう。

 戦力比を少なくともゼノの二倍以上に出来なければまずいんじゃないか? 消耗を極力避けるためには五倍は欲しい。五倍なら十万の攻撃機単位か。宇宙生物相手にランチェスターの法則が効くかはわからないけど、だいぶこちらの消耗は防げるはずだ』


 何にせよ、今回の対ゼノ作戦のかなめは攻撃機のようだ。




[あとがき]

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