第20話 対日交渉開始
翌日午前七時、日本国内の全テレビ電波をジャックした。
宇宙空間で青白く輝くH3級強襲揚陸艦AA-0001を斜め前から写した大パネルを背にちょっと豪華な造りの机を前にして日本国民に向けて話を始めた。
「みなさんおはようございます。みなさんの大事な電波をお借りして申し訳ありません。
私は、宇宙船国家アギラカナの代表を務めます山田と申します。いまみなさんの上空100キロメートルの宇宙船の中から放送しています」
突然の電波ジャックにNKHをはじめ東京キー局、地方の放送局まで国内の放送局のスタッフは慌てた。しかし世界の脅威と思われた宇宙船からの放送で、しかも日本語で朝の
「われわれアギラカナは、日本国に対し国交樹立の申し入れを行います。日本国のしかるべき方と交渉させていただくため、日本時間の本日午前十時に、連絡艇で日本国総理大臣官邸前に
われわれは、日本国と国交を結び、相互に利益のある関係を築きたいと思っています。安心してください。われわれは侵略者ではありません。私の名前は最初に述べましたように山田といいます。生まれは日本ですし、ご覧の通り日本人です。
国交樹立がかなった後も、われわれは幕末日本が列強各国に押し付けられた不平等条約のような条約を日本国に迫ることは決してありません。われわれアギラカナと日本国はあくまで対等です。いわゆるWIN-WINの関係を築いていきましょう。
それと、重要なことですが、われわれアギラカナは細菌、ウィルス等の微生物を含め一切の有害生物を地球に持ち込みませんので、検疫等の措置は不要です。ご安心ください。それでは、よろしくお願いします」
前日、デジタル放送に対し電波ジャックが可能なのかとの俺の質問に、アインが、
「無駄に暗号化までして複雑化した放送システムですので、少し手間がかかりますが可能です」
と言ってくれたので、テレビ放送をすることにした。テレビ放送が出来なければ、難易度の格段に下がるラジオ放送でもしようと思っていたのだが、うまくいったようだ。
この放送で、日本国内でやれCGだの、悪質ないたずらなどと
一条佐江はきのうの宇宙船騒動のおかげで、きょうの休日出勤もなくなり、久しぶりの休みだ。きのうはバスが間引き運転をしていたせいで会社から自宅に帰るのが遅くなったが、今日は休みの日にしては珍しく早めに起きてテレビを点けたところ、ちょうど朝の天気予報が終わり、時報が七時を告げた。
「みなさんおはようございます」
七時のニュースが始まる時間だが、急に黒い服を着た若い男がしゃべりだした。いつものアナウンサーではないし、オープニングも流れなかった。
「……私は、宇宙船国家アギラカナの代表を務めます山田と申します。いま皆さんの上空100キロメートルの宇宙船の中から放送しています」
あれ? あれれ? あれれれ? 先輩じゃん、山田先輩がテレビに出てるよ。えーーーーー!!!
落ち着きを取り戻したかに見えた日本国民の中でただ一人、大声で叫ぶ女がいた。
秘書室の四人と軽武装の陸戦隊員六名、自分も含め計十一名で強襲揚陸艦幹部の見送りの中、連絡艇に乗り込んだ。軽武装といっても、陸戦隊員の着ている装甲服は、120ミリの戦車砲の砲弾程度では無傷だそうだ。実際は、着弾する前に、装備に組み込まれた自動迎撃システムで砲弾を破壊するそうだ。もちろん俺に向かってくる砲弾や銃弾があった場合も自動迎撃してくれるそうだ。
午前十時十分前に、連絡艇は強襲揚陸艦から発艦し、首相官邸の前庭に降下して行く。護衛として平べったい矢じり型をした大気圏作戦可能艦載機一個中隊十二機が随伴している。無人支援機はさすがに出していない。五分後には官邸前の広場に到着した。着陸してしまうと、石畳っぽい舗装を壊す可能性があるため、連絡艇は20センチほど浮いて停止している。
依頼した通り、官邸前の広場には誰もいなかったが、離れたところに警察の規制線が張られ、詰めかけた一般人に交じって報道陣と思われる人たちが大型のテレビカメラを構えたりマイクに向かって何かを喋ったりしている。ここに詰めかけた人たちの中には、俺の秘書室に属する日本駐在員十一名がいるはずだがどこにいるのかはわからない。ヘリコプターの
「こちらは首相官邸前から中継しています、中山です。
後ろは物凄い人だかりです。
われわれが駆け付けた八時にもかなりの人たちが官邸前に詰めかけていました。
すぐに警察により規制線が張られまして、われわれを含め一般の方々はかなり後ろの方へ移動させられました。その後、アギラカナからの連絡艇の邪魔になりそうな玄関前の自然石が大型クレーン車で持ち上げられ運び去られています。
官邸側より事前にフラッシュはたかないよう通達が有りましたが、通達を破ってフラッシュをたいた方を、警察が注意をしています。現在の時刻は九時五十三分です」
「あっ! いま、上空から音もなく宇宙船が降りてきました。カメラさん捉らえてますか? 下から見上げますと少し青みがかった金属で出来ているように見えます。
その周辺を10機ほどの三角形をしたやや小型の宇宙船が飛び回っているようです。中央の宇宙船を護衛しているように見受けられます」
「いま、宇宙船が官邸前に着陸しました。えっ、少し宇宙船は浮き上がっています。20センチほど浮き上がったまま停止しています。これは宇宙船国家アギラカナの超技術なのでしょうか?」
「どうやら、宇宙船のこちら側の扉が開くようです。今われわれは、人類の歴史の中で初めて宇宙人と対面するのです。まさに歴史的瞬間です!」
「山田と名乗る人物は自身を日本人であると言っていましたが、果たしてどうなのでしょうか。アギラカナ人はわれわれと同じ人類なのでしょうか?」
「扉が開きました、今開きました。銀色の服を着た人たちが宇宙船の中から走り出て扉の前で整列しています。ヘルメットを着けているようですが見た目は全くの地球人です。左右三人ずつ並んでいます。どうやら銃のような武器は持っていないようです。
あっ! 中から今度は黒い服を着た人物が現れました。ミスター山田です。後ろに四人ほど続いているようです。後ろの四人は女性のようです。私から見ても四人ともすごい美人です。 しかも顔立ちは日本人に見えます。これはいったいどういうことなのでしょうか?」
「ミスター山田と四人の美女が、総理官邸の玄関に向かって歩いていきます。それを両脇から護るように銀色の服を着た六名が一糸乱れず進んでいきます。いま、官邸の玄関前に立っているのは跡辺首相と井出官房長官でしょうか? いま、ミスター山田と跡辺首相が握手を交わしました」
ここで、一斉にカメラのフラッシュがたかれた。この歴史的瞬間に際し官邸の通達は無視されたようである。
「続いて井出官房長官とも握手です。首相と官房長官、それにミスター山田と四人の美女が連れだって総理官邸に入っていきます。ミスター山田の護衛と思われる六人は官邸玄関前で、横一列で整列しています」
「今気づきましたが、今まで上空を飛び回っていた三角形の小型宇宙船が首相官邸上空で停止しています。その数は十二機でした」
[あとがき]
2020年6月7日、おかげさまで、SFジャンル週間1位になれました。ありがとうございます。
本作は娯楽を目的とした小説ですので、そういったものだとご理解していただければ幸いです。
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