第21話 対日交渉

[まえがき]

本作は読者の皆さまと作者の私の娯楽を目的とした小説ですので、そういったものだとご理解していただければ幸いです。

◇◇◇◇◇◇



 総理官邸の玄関前で待つ跡辺首相と井出官房長官に各々握手を交わした。良く見知った顔だがもちろんこちらがテレビで見ていただけだ。


「宇宙船国家アギラカナを代表します山田と申します。後ろの四人は私の秘書を務めています」


「日本国総理大臣を務めます跡辺です」


「官房長官を務めます井出です。ようこそおいでくださいました。後ろの皆さんもようこそ」


 秘書室の四人もそれに合わせて一礼する。


「それでは、さっそくですが、会議室の方へお越しください。こちらです」


 二人に連れられ首相官邸の中に入っていく。


 初めて入った場所だが非常に豪華な造りをしている。中でも驚いたのは、建物の中に吹き抜けで広めの庭があり竹が茂っていて、かなり上の方の階まで伸びている。これは無駄な空間を作ることで、容積率を下げる手法じゃないか。首相官邸でも容積率に縛られてるのかと妙に官僚主義的なところに感心した。


 案内された会議室は、それほど大きな会議室ではなかったが、テレビで見知った三名の大臣がすでに座っていた。


 われわれが会議室に入ると、座っていた三人の大臣も立ち上がり頭を下げたので、こちらも下げておいた。取りあえず自己紹介は省略でいいか。


 そのまま席に着き、交渉を始めることにする。


「みなさん、私どもの要望を聞いていただきありがとうございます。また、昨日突然東京の上空に現れた宇宙船でさぞ驚かれたことでしょう。おびさせていただきます」


「お気になさらずとも結構です。こうしてアギラカナの山田さんと平和裏にお話しできるようになったわけですから」


「ありがとうございます。さっそくですが、朝のテレビでも申しましたように、われわれは日本国と国交を樹立し、有償で土地をお借りしたうえ大使館を日本国内に設けたいと考えております」


「土地の租借ですか?」


「はい、できればそのように考えています。日本国からわが国への渡航は現状不可能ですので、日本国からのわが国への大使館の開設は今後の課題ということで考えています」


「国交の樹立後はどのようにお考えなのですか?」


「お互い納得したうえでの正当な対価を伴う物品のやり取り、すなわち貿易を行なっていきたいと考えています。例えば、われわれはエネルギー、金属資源そういったものを無尽蔵といえるだけ所有しておりますが、食に代表されるような文化が有りません。映画もしかり、ドラマもしかり、アニメもしかりです。


 そういった文化を日本国から輸入する対価として、われわれは、まずは日本国へのクリーンなエネルギーの安定的供給を考えています。


 それとわれわれアギラカナは通貨を持ちません。従って決済は全て日本円を介して行いたいと考えています。両国にとって利益のある関係だと思いますがいかがでしょうか?


 いまは、こちらから提供できるものは具体的にはエネルギー、それも電力だけですが、ご要望とあればどのような金属でもご用立て可能です。もちろん希少金属も含みます。そういった取引を行うための窓口としてアギラカナの施設を日本国に置きたいわけです。それがわれわれの考える大使館の主な役割になります」


「なぜ、決済通貨がドルではなく日本円なのですか?」


「それは、われわれアギラカナは、日本国とのみ国交を樹立し交易をしようと考えているからです。要するに円以外の通貨は不要なわけです」


 今の言葉で、日本側の出席者が一様いちように驚いている。そうかもしれないが、へたな国とお付き合いしたくはないのは本音だ。


「わが国をかなり買っていただいているようですが、どうしてでしょうか?」 


「われわれは、日本国とお付き合いできれば、当方のほとんどのニーズが満たされると考えています。けさのテレビでも申しましたが、わたしは日本人です。日本人であることを誇りに思ってますから当然です。そういうことで、その他の国とのお付き合いは考えておりません」


「わかりました」


「そういえば、私は今はアギラカナの国民なのですが、日本国は二重国籍は認めないんですよね?」


「いえ、山田さんさえよければ、そのまま日本国籍を持っていただいても構いませんよ。このような特殊な状況ですので緊急措置でいくらでも対処できますから」


 官房長官の井出があわててフォローする。


「ありがとうございます。日本国政府としても、いきなり宇宙から来たわれわれアギラカナと国交を結ぶというのは国民の皆さんへの説明が難しいでしょうから、アギラカナの具体的な誠意を国民の皆さんにお見せした方がいいと思います。その成果を踏まえて、わが国との国交の樹立を検討していただいて構いません」


「具体的な誠意とおっしゃいますと?」


「はい、現在、有害放射性物質の除染作業を行っている地域をわれわれが代わって除染作業を行いましょう。その跡地にわれわれのエネルギープラントを立ててしまえば、周辺の送電設備もある程度は健在でしょうから一石二鳥、いや日本の国民の皆様に対するわれわれの信用も大きくなる一石三鳥の手ではありませんか?」


「そのようなことが可能ならぜひお願いさせていただきます」


「分かりました。アイン、後は頼む」


 跡辺総理の言葉に頷き、アインに話を振る。


「はい。私は山田代表の秘書を務めるアインと申します。よろしくお願いします。

 まず、除染対象区域は旧原発敷地およびその周辺ということでよろしいでしょうか?」


 アインは総理が頷くのを確認し話を続ける。


「分かりました。作業に支障をきたしますし、事故等の危険もありますので、作業開始前までに対象区域内の人、必要な機材は退去させてください」


 そこで、アインが持参したカバンの中からカード型通信機を取り出して机の上に置いた。


「このカードは、われわれと直接通話ができる電話のようなものです。この装置に直接話しかけていただければ、担当のものが対応しますので、対象区域からの退去が完了したらお知らせください。除染作業開始は、連絡を受け取った六時間以内には開始されます。作業完了は、対象区域の面積と状況によりますが、長くとも七十二時間、三日もあれば完了できると思います」


「そういうことでしたら、直ちに作業区画から作業員と機材を退去させます。確認等ありますが本日中には必ず退去は完了させます」


「分かりました。敷地内での人の有無は当方でも確認を行います。問題がないようでしたら、明日の朝八時にこちらの作業班を現地に派遣しますので、付近への接近はお控えください。地上、および海上からなら、対象区域から一キロ以上の距離をとっていただければ問題ありません。ただし、作業班は上空から接近し、空中から作業を行いますので、ヘリコプターなどによる上空からの接近はお控えください。


 なお、現在地上、地下を含めた対象区域内のすべての核廃棄物などは未使用核燃料等も含め、こちらで処分いたしますのでご了承願います」





「政府の発表によりますと、本日午前、首相をはじめ五名の主要閣僚がアギラカナの代表使節団と会談を行った結果、明日午前八時より、被災原発の敷地を含むその周辺地域の除染をアギラカナの派遣する作業班が行うとのことです。

 アギラカナ側の説明によりますと、作業は七二時間以内に完了するとのことです。政府はその結果を踏まえ、アギラカナとの正式な国交樹立を検討するとしています。なお、アギラカナ関連のニュースは番組の途中でも入り次第お伝えします」


「次のニュースです。警視庁の発表によりますと、本日アギラカナの代表使節団が首相官邸前に降り立った際、刃物を持った複数の暴漢が、使節団に対し何らかの妨害を試みようとしたところを、近くにいた一般人の方が取り押さえ大事には至らなかったそうです。

 暴漢を取り押さえた一般人の方はそのまま立ち去ったため身元は確認されていません。警察に逮捕された暴漢は五名で、氏名は……、現在、経緯を含め背後関係などを取り調べ中とのことです」



 昨日より、日本政府に対し各国から宇宙船に関する問い合わせが相次いでいたが、日本政府は状況を整理中であるとして問い合わせに対する明確な回答を避けている。




[あとがき]

2020年6月8日、おかげさまで、今日もSFジャンル週間1位でした。ありがとうございます。

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