第7話 一条佐江
今日もダイニングテーブルにハンバーガーセットを広げてポテトをつまんでいると、スマホの着信音が鳴った。
一条からか。
『今日、早めに上がれそうなんで、喜八に行きません?』
喜八は会社の連中とよく行った居酒屋の名前だ。
『了解。時間を決めてくれ。俺の方はいつでもOK』
送信。無職の俺には無限の時間があるのだ。
ピロリン。ピロリン。
おっ! もう返事が来た。
『七時、お店で』
俺の返信を待ってたようだ。それじゃ
『了解』送信。
夕方の七時まで時間があるので、まずシャワーを浴びて、ビデオでも見ていようか。
さして面白くもないビデオを見ながらぼーとしていると、いい時間になったようだ。
ジャケットを羽織って、さあ飲み屋。
午後七時十分前。喜八に到着。
店の
「センパーイ! こっち、こっち」
奥の方のテーブルから、手を振りながら俺を呼ぶ一条が目に入った。
高校生じゃないんだから、あんまり大きな声を上げるなよ。目立ちすぎるだろ。
こいつ、早めに来た俺の来る前から、飲み始めてるのかよ。いつものことだけど。
で、食べてるのは枝豆か?
「待ったか?」
「十分ほど前に来たところ」
「それにしちゃ、もうずいぶん飲んでるじゃないか」
「嫌だなー、まだ一杯目ですよ」
「そうか。いつもなら、二杯目行ってるもんな」
「そういうことです」
もう、ほとんど空のくせに良く言うよ。
俺も、
「お姉さーん!
「あっ! ちょっと待って、今飲み終わりますから。ゴクゴク、プファー! お姉さん、大生二つでお願いしまーす」
まるでおやじだな。
「一条は、今日も元気だなー」
「イヤー。呑まなきゃやってられませんよ。ほんとに。これというのも先輩のせいですからね」
「何で俺のせいなんだ?」
「そりゃ、先輩が会社を辞めて、もう忙しくて、忙しくて、残業の嵐ですよ。男子社員なんかは夜の九時、十時当たり前。私は女子社員なんでそこまでではないけど、それでも八時ですよ。今日は、体調不良とか言って六時前に上がりましたけどね」
「俺も、辞めたくて辞めたんじゃなくて、実質首になったわけだからな」
「それですよ、何だかわからない理由で突然異動になったのに。聞けば、降格人事なんて! 先輩のことだから、会社に抗議はしてないんでしょ。すぐ退職願を出したそうですし。今じゃ、検査偽装の犯人扱いじゃないですか。おかしいでしょ!」
「落ち着けよ。なんか、どうでもよくなったんだよ」
「先輩、会社に
「そうかもしれないな。だとしたらなおさら、そんな会社に未練はないだろ?」
「そうかもしれないけど、それでいいんですか? 先輩!」
「いいんだよ。別に」
「大生二つお待ち! ご注文はお決まりですか?」
「じゃあ、これとこれとこれ。後、刺身の三点盛りかな。それでとりあえず。一条はなんかあるか?」
「私は、
先輩、会社を辞めてから何だか若返ってません? そういえば眼鏡もかけてないし、おなかの出っ張りも少し引っ込んだような。うちの会社は辞めると若返るような会社なんですかね?」
「そうかもしれんな」
俺が超人になっちゃったって一条に言えれば面白いだろうがさすがに言えんな。
「それで先輩、これから先どうするんです?」
「仕事のことか? そうだな。おまえならいいか。海外に
一応宇宙も海外だよな。うそは言ってない。
「えっ? えーー! 海外? ヘッドハンティングですか? 先輩、すっごーい!」
「ヘッドハンティングだったのかなあ? やっぱり、そうだったんだろうなあ」
「何ですか、それ。ヘッドハンティングなら支度金とか契約金みたいなものはなかったんですか?」
「うーん! あれってやっぱり支度金だったのかなー?」
「い、いくらだったんですか? その支度金!」
「一条、落ち着け。まー、三億くらい? 税込みで」
「三おくーーー!」
「こら、声がでかい。静かに、静かに」
「すみません。興奮してしまいました。先輩、詳しく」
適当に、一条に話していると、
「先輩、その海外の会社にわたしも入れてくれませんかね。別に支度金はいいですから。でも、くれるっていうんならもらいますよ」
「そこは、会社ってわけではないようなんだ」
「何だか、はっきりしませんね。大丈夫なんですか? そこ」
「多分、大丈夫と思うよ。 もうすぐそこを見に行くことになってるんだ」
朝っぱらから、地球を一周りしてくるくらいすごいんだぞとか言えないもんな。
「ふーん。いいなー」
一軒目は自分も払うという一条を、まあここはいいよと言い、約束通り俺が払った。三億で気も大きくなっていたのかもしれないな。
「せんぱーい。ごちそうさまでしたー。次行っきましょー、次!」
それから、二軒目で日本酒を飲み、半分意識の飛んでいた一条に払わせるわけにもいかずここも俺が払うことになってしまった。一条はタクシーで帰して、自分は歩きで帰った。
やっぱり都会の夜空には星が少ない。俺の行くのは、あの星空の中なんだ。秋の夜風を冷たく感じて、体がブルッと震えた。
翌朝、あれだけ飲んだにもかかわらず二日酔いにもならずにすっきり目が覚めた。超人、バンザイ!
一条はあの調子だと、今日は有給休暇だな。仕事は立て込んでるんだろうけど。
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SF短編『我、奇襲ニ成功セリ』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894691547
よろしくお願いします。
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