第4話 当面の資金
工作艦SII-001より報告。
――ハイパーレーンゲート建設中。完成まで五日。
<アギラカナ・コア>
S2145星系をこれよりSOL星系と呼称。
一個雷撃戦隊休眠状態解除シーケンス開始。
――関連乗組員の休眠状態解除。
――関連支援要員の休眠状態解除。
――S2級巡洋艦 一隻 休眠解除完了。
――P2級駆逐艦 六隻 休眠解除完了。
円盤を降りて、いったん俺の部屋に二人で戻ることになった。知らぬ間に、アインさん(アギラカナさんというのはなんか違うような気がして)がやや大きめのビジネスカバンを
今はうちのダイニングテーブルで二人で向き合って座り、俺はアインさんの話を聞いている。
「正式に、艦長に就任していただくためには、一度アギラカナにお越しいただき、コアに生体登録を行っていただく必要があります。コアというのは、アギラカナの中枢機能が集約されたAIのようなものと考えてください。山田さんのご都合もお有りでしょうから、一週間後の出発でいかがでしょうか?」
「ええ、その予定で結構です。それでアギラカナまで片道どのくらいかかるんですか?」
「地球とアギラカナとの距離は、約2光年です。現在、アギラカナへ通じるハイパーレーンゲートを木星近傍に建設中です。これは五日後には完成しますので、地球からハイパーレーンゲート近くまで、先ほどの連絡艇で約半日。そこで迎えの艦船に移乗していただきアギラカナへ向かいます。ハイパーレーン通過中の時間経過はありません。アギラカナ側のゲートからアギラカナまでは、約三時間です。アギラカナ接近時、アギラカナの全貌がご覧になれます。アギラカナでは、艦内の第1宇宙港に向かい、そこの第1桟橋に接舷します。
従って今回の場合は、地球からアギラカナまで片道一五時間程度といったところです」
「2光年を半日ですか?」2光年というのは思ったよりも近いんだ。
「はい。では七日後。午前九時にお迎えに上がります」
「お願いします。それと、アギラカナに行くにあたって、私が用意して持って行くようなものはありますか?」
「アギラカナでは 各種登録、艦長着任式等の式典を行う予定です。必要と考えられるものは、こちらで用意しますので、何も山田さんが用意する必要は有りません。アギラカナでは、地球同様の環境を用意しますので食事、バス、トイレなどは当然ですが、地球のインターネットもリアルタイムで使える環境になります。
出発前に一点、お願いがあるのですが」
「お願いとは?」
「われわれが、今後日本国で活動するにあたり、日本国通貨がどうしても必要になると思われます。戸籍やパスポートを持たないないわれわれでは、銀行口座も作れませんし、商品の売買もできません。
それで、お願いというのは、当方で『
そういいながら、アインさんは床に置いたビジネスカバンを左手で
「これ一つが、10キロになるように作っています」
三個目を置いたところで、テーブルがたわんできた。アインさんもたわみに気づいたようで、三個目を持ち上げ直し床の上に。先の二つも同じく床の上に置きなおした。
全部で十個の金の延べ棒がフローリングの床の上にピラミッド状に積み重ねられた。床板が少したわんでいるように見える。これ、床が抜けないよな。
目の前の金のピラミッド、10キロ×十個で100キロだよ。いま金っていくらくらいしてるんだ? 確か1グラム五千円くらいか? それで計算したら、10キロだと1万グラム それに五千を掛けると五千万円! それが十個だと五億円だよ。
あれ、さっき円盤に乗って地球一周して来たからか、五億円くらいじゃあんまり驚かないな。
俺もプーちゃんのくせに、ビッグになったもんだ。
しかし、アインさんの腕の力はどうなってるんだ。カバンを持っているとき楽々だったよな。こっちの方がびっくりだよ『バイオノイド』ぱねーな。
「わかりました。出発までに現金化して、適当な口座を作ってそこに入れておきます」
「ありがとうございます。当面、われわれには一億円ほどあれば十分ですので。一億円を超えた分は、ご自由にしてください。あとこのカードをお持ちください」
「カード?」
そういって渡されたのは、クレジットカードくらいの銀色のカード。
「お渡ししたカードは私への直通の通話機になっています。私の方に何か御用がありましたら、カードに向かって『アイン』と呼んでください。それでは、私は一度連絡艇に戻って待機しております」
「あの連絡艇はずっと屋上にいるんですか?」
「いえ、今回だけこのマンションの屋上をお借りしました。通常は、ここの上空40キロほどの成層圏にステルスモードで滞空しています。滞空中の連絡艇への出入りは、連絡艇の短距離転送機を使っています。それでは失礼します」
アインさんは空の上か。
手元のクレジットカードもどきと、金の延べ棒でできたピラミッドを見ながらぼーとしてしまう。
時計を見るとまだ午前中。
『金、売ってくるか』
通勤に使っていたカバンを持ち出し、その中に金の延べ棒を入れようと一本持ち上げた。なんだ金にしては軽くないか? まさか金メッキしたアルミじゃないだろうな? そう思って風呂場の前の体重計の上に乗せたら10キロちょうどだった。
『あれ? 俺がおかしくなったのか?』
延べ棒は偽物ではないようだが違和感が半端ない。
アインさんは一億円でいいと言っていたが多い分には構わないだろうと思い、金の延べ棒をカバンに入るだけ入れたら四個入った。そのカバンを持ち上げたら持ち手がちぎれてしまった。いつも使ってたカバンだがそんなに弱ってたかな? 40キロも入れたら小柄な女性を持ち上げるのと同じだし仕方ないか。
壊れてしまった通勤カバンから取り出した金の延べ棒を、風呂敷を敷いた上に載せて、くるくる包んで持って行くことにした。
偽物でなければ二億の風呂敷包みだからな。丁重に運ばねば。それにしても軽い。
残った六個の延べ棒をベッドの横に運んで並べて置き、ベッドから引っぺがした毛布を掛けておく。
スマホで、金の売却時に必要なものを確認すると、免許証のほかマイナンバーが必要らしい。買い取ってくれる店は、市内に何カ所もあるようだ。この近所にもある。
ポケットに、必要そうなものを突っ込んで準備OK。ふう。
まず、駅前の銀行に行って新しく口座を作るとするか。そうだ! ハンコもいるじゃないか。
愛車の軽を銀行近くの駐車場に停め、風呂敷包みを抱えて銀行に入り、口座開設手続きをした。
三十分ほどで、新しい通帳をもらう。抱えた風呂敷包みが不審に思われたら嫌だったが、車に金の延べ棒を置いておくのは心配だから大事に抱えて手続きしたわけだ。二億円だぞ。
次は、
〇〇貴金属。大手の貴金属専門店のほうが安心だろうと思い近所でもあるこの店を選んだ。風呂敷包みを大事に抱えて入店。
店の人は、10キロもある金の延べ棒が四本も持ち込まれ、その四本が鑑定の結果純金だったことに驚いていたが、つつがなく売却は終了した。
車に戻り、しばらく待っていると、二億八百万ほどの振り込みが確認できたので一安心。税務申告を確実にするよう店の人に念を押されたが、来年の三月までの話だから、まあ何とかなるだろう。
車に戻ってきたらもう良い時間になっていたので、すこし距離はあったが国道沿いのドライブスルーの〇ックでハンバーガーセットを買って自宅に戻った。
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