エピローグ
諒輔が意識を回復したのは東神坐島の診療所のベッドの上であった。ずっと付き添っていてくれた理紗の話によれば一昼夜眠り続けていたらしい。気力と体力を限界まで使い果たしたので意識が戻るのに時間を要したのであろう。それでもまだ回復は充分と言うわけではなく、更に一週間程度の休養が必要との正剛の診立てである。理紗も一週間休暇を延長して、諒輔と一緒に東京に帰る予定になっていた。
神崎は相変わらず元気で、警察に協力して、現場立会など精力的に動き廻っていたが、日野に要請されて石垣島の八重山署に赴いた。
至道とその一味は逮捕され、八重山署に身柄を移されて厳しい取り調べを受けている最中である。サリン防止法の他いくつもの法律違反容疑で起訴され、重い刑罰が科せられる見込みである。
穂来とその秘書の掛川は、ラビリンスの地下施設で監禁されている状態で警察当局に発見された。シュラ・コンサルタンツの関係者であることから、至道一味との共謀が疑われたが、その後の調べで事件への関与性が薄いことが判明し、自由の身となって既に帰京している。
カムザリゾートの開発・運営会社の株式会社KAMZAは倒産し清算される見込みである。しかし意外なことに内外の投資ファンドがカムザリゾートに関心を寄せており、新事業主が現れて事業が引き継がれる可能性が高まっているとのことである。
ところで不思議なのはサイの遺体が見つからないことであった。正剛はじめ関係者の証言で、警察当局は植物人間状態のサイがたらちねの間のベッドに寝かされていたことを把握していた。しかしラビリンスの施設や迷路、ホテル棟の内部は言うに及ばず、周辺の密林まで徹底的な捜査が行われたが、その遺体は遂に発見することが出来なかったのである。
道真神威教の残存信者の間では、サイは死んではおらず蘇り、本当の神になったとの風説が早くも流れているとのことであった。サイが神格化されることは、今後に禍根を残すと日野は言うが、“なんくるないさー”それほど心配することもないだろう。
諒輔と理紗が東京に帰る日、東神坐島の北港は大勢の人で溢れかえっていた。三線を弾く者、指笛を吹く者、カチャーシーを踊り者、そんな人々に混じって、正剛、富紀、真俊、拓馬、結衣それにユタのおばぁの姿もある。
高速連絡船が動き出す。デッキに立った諒輔と理紗は人々に手を振った。見送りの人々から喚声があがる。コバルトブルーとエメラルドグリーンで彩られたサンゴ礁の海を白い航跡を残して船は進んで行く。島影が遠ざかる。今日も八重山地方は快晴だ。
第二話 完
裏土御門シリーズ 第二話ジャングルリゾート「KAMZA」の秘密 虹岡思惟造(にじおか しいぞう) @nijioka
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