閑話 遅すぎた初恋1(エリーアス視点)

前話の予告と内容が違います。すみません!

帝国と王国の関係や現状説明みたいなお話です。

ミアが寝ている間もハルは頑張ってたよー。みたいな。


* * * * * * * * *


 現在の王国は重要な分岐点に差し掛かっている。

 その原因となるのは、王国が二十年にも及ぶ長い時間抱えていた問題だ。


 王国が二十年間抱えていた問題──それは、国教としてのアルムストレイム教の指定取消だ。それは即ち、アルムストレイム神聖王国との決別を意味する。

 

 古より王国は国王によるアルムストレイム教の信仰や、国内における信徒の多さ等からアルムストレイム教を国教に指定していたが、ここ百年程前より法国からの内政干渉が酷く、まるで王国を属国の様に扱うその有り様に、予てより法国を危険視していた前国王は二十年前にアルムストレイム教からの分離を宣言しようと秘密裏に動いていたという。


 ──結局、アルムストレイム教の国教指定取消は前国王の崩御と共に消え去ってしまったが。


 そして国王暗殺事件の真相は明かされないまま二十年もの歳月が流れてしまった。

 タイミング的に国王が国教指定取消を画策していた時期と被るので、この暗殺は法国の仕業ではないかと一時期社交界で噂されたものの、同席していたウォーレン大司教も巻き添えを受けていた事、法国が関与を否定した事で事件の首謀者は王国に恨みを持つ人間の凶行だろうと決定付けられた。


 そうして犯人は見つからず、国王暗殺事件の真相は不明のまま終わってしまったのだった。


 国王暗殺の巻き添えを受けたウォーレン大司教は一命は取り留めたものの重傷を負い、体調が戻らぬままに、事件が起こった二年後に亡くなられたそうだ。


 当時皇太子だった現国王カーティス陛下は、突然の国王の死に大変苦労されたと聞く。

 陛下は前国王暗殺は法国の仕業だと確信し、法国に悟られないように時間を掛けて、憲法において政治とアルムストレイム教と国家を分離し、信教の自由を認める方向に向かおうと準備していた、その矢先──今回のアードラー伯爵事件が起こったのだった。


 この事件は王国にとって追い風となった。王国内で法国に対する不信感が膨らみ、宗旨変えするものが急増したのだ。

 更に、三大国であるバルドゥル帝国の協力を得る事が出来、王国が切望していた世俗国家への転機が訪れた──そう判断した陛下達は、遂に法国へ国教指定取消の意を伝える決断を下したのだ。

 

 ──そして発表の準備が整い次第、王国はアルムストレイム神聖王国と袂を分かつ事になる。


 そのように王国が国として自立する事が出来るのは、ひとえにバルドゥル帝国皇太子、レオンハルト殿下の力添えのおかげだろう。

 偶然とは云え、殿下がユーフェミア嬢を捜索する事でアードラー伯爵や元老院の膿を出すことが出来た。

 しかも本来であればユーフェミア嬢を発見出来た時点で、レオンハルト殿下は王国から手を引いても良かったのに、事後処理の為に王国に残り、裁判時にはその力を以ってしてアードラー伯爵や元老院の連中達を断罪してくれたのだ。

 正直、レオンハルト殿下の協力がなければ、たとえ国王陛下であったとしても、かなり強い権力を握っていた元老院の貴族達を断罪する事は出来なかっただろう。

 

 それ程までに王国の為に尽力してくれたレオンハルト殿下へ、何を謝礼として贈るべきか王宮内で議論が行われた。

 国としての品格や面子もあるので、流石に無償と云う訳にはいかない。

 貿易の関税を優遇する、国宝の中から幾つか選んで贈呈するなど、幾つか案は出されたものの、王国より余程豊かな帝国の皇太子が望む物が王国に有るとは思えない。

 結局、何を贈るか決まらなかったので、レオンハルト殿下に直接希望を聞く事になったのは情け無い限りであるが。


 そして今回の見返りに何を要求されるのか恐る恐る聞いてみると、意外な事にレオンハルト殿下から出された要求はたったの二つ──アードラー伯爵の身柄引き渡しと、ユーフェミア・ウォード・アールグレーン侯爵令嬢との婚姻許可であった。

 

 その内容を聞いた国王陛下や我が父である宰相閣下達は驚いた。場合によっては最悪、王国は帝国の属国になる可能性があったからだ。

 

 ──例えレオンハルト殿下に属国になれと言われたとしても、王国は諸手を挙げて賛成していただろうが……いや、むしろ属国にして欲しいと言い出していたかもしれない。


 国王陛下はレオンハルト殿下が今回の貴族粛清の力添えを破格の条件で譲歩してくれた事に大変喜び、そして深く感謝した。

 そうしてレオンハルト殿下と会談し、彼の物事の本質を見抜く洞察力や、将来を見通す能力に感服した陛下を筆頭として王族達は皆、懐が広いレオンハルト殿下に心酔してしまったのだった。 


 バルドゥル帝国は複数の民族・種族を支配下に置いてはいるものの、差別する訳でも弾圧する訳でもなく、皆を平等に扱っており、貴族平民などの階級も関係なく、優秀な者であれば孤児だろうと何だろうと重要職に抜擢するという、この世界ではかなり珍しい国だ。

 法国や魔導国のように、このナゼール王国も歴史だけはあるのだが国力はそう高い方では無い。そんな王国が帝国の発展を目の当たりにし、レオンハルト殿下の人柄を知れば、帝国に取り込まれたいと思うのは仕方が無い事なのだろう。

 ……残念ながらその件に関してはやんわりと断られてしまったが。


 そんなレオンハルト殿下が王国よりも欲したもの……それがユーフェミア・ウォード・アールグレーン侯爵令嬢だと知らされた時、胸の奥が傷んだのは何故か──その答えを、私はずっと見つけられないでいる。






* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございました。


中々気付かないエリーアスさんです。


こちらのお話はもう少し後の公開でしたが時系列的にこの辺りになるな、と思い変更させていただきました。


次のお話は

「121 ぬりかべ令嬢、司教と会う。」のエリーアス視点です。引き続きの閑話となります。


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「ぬりかべ令嬢」共々、どうぞよろしくお願いいたします。

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