128 飛竜師団テント内にて2(ハル視点)

 今回、ミアと再会出来たのは勿論、ディルクとマリカという貴重な人材を確保出来たのは僥倖だった。

 ディルクはランベルト商会の次期会頭となる身だから、帝国が本拠地になるだろうし、これから長い付き合いになりそうだ。

 それにディルクにはミアの件でお世話になったし、何かと優秀だからこれからも仲良くしたいと思う。

 マリカは言わずもがな、魔道具開発に関しては天才的だ。ミアとは親友らしいし、彼女が一緒に帝国に来てくれるのでミアも心強いだろう。

 それに彼女がいれば始祖の残した『トラノマキ』に書かれている魔道具達の再現も進むかもしれない、と云う期待もあるけれど。


 『トラノマキ』再現で一番の問題はあの難解な異世界の言語体系の解読だ。

 

 一つの国の言語の筈なのに三つの文字が混ざり合っているので、我が国の言語学の権威ですら頭を抱えてしまっている。どうやら一つの文字に何通りかの意味があるらしい。しかも最近、更にもう一つの文字形態を発見したとか言ってたし。


 始祖が居た異世界ってどれだけ文明が進んでいたのだろう……。この世界と違って魔法が存在しないのに、「カガク」が人々の暮らしが豊かにしていたと聞いた事がある。


 俺はその「カガク」というものを再現し、帝国をもっと豊かな国にするのが夢だ。その為にはどうしても『トラノマキ』を解読しなければならないのだが……。


「殿下、どうしたんです? 急に黙り込んで」


「……ああ、お前が大好きな『トラノマキ』についてちょっとな。異世界の技術を再現するには、どうしてもあの言語を解読する必要があるのはわかってるけど……それが中々難しいからさ」


 俺がその名前を出すと、途端にマリウスの目がイキイキとする。……普段は氷のように冷めた目をしているクセに。


 実はこのマリウス、帝国の宮殿奥深くに所蔵されている異世界の知識をまとめた書物──「禁書:トラノマキ」に、並々ならぬ興味を持っている。

 

 興味というか、執着……? 崇拝かな? 下手すると聖書扱いかもしれない。

 

 とにかく昔っから『トラノマキ』に書かれている内容に興味津々で、解読しようと一番やっ気になっているのは俺じゃなくてコイツだ。

 マリウスの頭の中は『トラノマキ』で一杯だから、執務以外でコイツが他に興味を向ける事は無いだろう。

 

 だからコイツと『トラノマキ』の事について話しているところを誰かに見られると非常に困る。普段クールな人間が目を輝かせ、やや頬を染めて熱い眼差しで『トラノマキ』の素晴らしさを語るその姿が、どうも人にあらぬ誤解を招いているらしいのだ。

 それが貴族達格好の暇つぶしである噂話として、一部のご令嬢方に広まっているから質が悪い。

 

 ……何だか母上にも誤解されているっぽいし。


 俺が『トラノマキ』の事を口にして、マリウスの顔がぱあっと明るくなったかと思うと、何かを思い出したような顔に変わる。何だか珍しい反応だ。


「殿下、その件に関して念の為確認させていただきますが」


「ん? 何だ?」


 いつものマリウスらしからぬ雰囲気に、何か問題でもあったのかと警戒する。


「殿下はミアさんに『軍服』と言う名称を教えましたか?」


「いや? 帝国で人気の制服で、始祖がデザインした事ぐらいしか教えていないぞ?」


 俺がそう言うと何やら考えているみたいで、一向に話し出す気配がない。焦れた俺はマリウスに説明を促す。


「それがどうかしたのか? めっちゃ気になるんだけど」


「いえ、俺はてっきり殿下が『軍服』だとミアさんに教えたものだとばかり思っていたのですが……殿下でないとすれば誰が……」


 マリウスの言葉で思い出した。ああ、そう云えばミアがマリウスと再会した時、確かに『軍服』って言ってたっけ。俺はその名称を知っていたからスルーしてしまったけど、良く考えたらおかしいのだ。

 王国には軍隊はないので、そもそも『軍服』と云う言葉自体が無い。

 あの軍服は俺とマリウスが始祖の姿絵を見て、あまりの格好良さに着てみたいと思い再現したものだ。だから帝国で「軍服」が認知されたのはここ五年程の事なので、帝国と国交が盛んではない王国で「軍服」を知っている人間は多くない筈だ。

 社交界にろくに出ていないミアが「軍服」を知る可能性は極めて低いのに……。


「明日ミアと会った時に聞いてみるか」


「まさかミアさんが『転生者』だなんて事は……無いですよね」


「おいおい、これ以上ミアに変な属性つけんなよな」


 ただでさえ四属性と聖属性を持ってて、無詠唱の創造魔法の使い手の上に、下手すると「聖女」や「大魔導師」だったかもしれないのに、更に「転生者」……って、どんだけー。属性てんこ盛り過ぎんだろ。


 ミアにこれ以上属性なんて要らない。むしろ今の四属性だって本当は無い方が良いぐらいなのに。俺はただ「ミア」だから欲しいのだ。……彼女の力で生き存えた癖にとは思うけれど。


 ──だけどそのうち俺と同じ様に、ミアを想う人間が現れるだろうと云う確信がある。

 そんな奴がこれから何人現れてたとしても、ミアが俺を選んでくれるような人間になりたい──何者からもミアを守れるように強くありたい、なりたい……いや、なってみせる! と、俺は強く心に誓った。






* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございました。


結局最後はイチャイチャじゃなくとも甘くなる不思議。( ゚д゚)、ペッ


次のお話は

「129 ぬりかべ令嬢、舞踏会に参加する。」です。


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