127 飛竜師団テント内にて1(ハル視点)

 ミアと別れてから飛竜師団が逗留させて貰っているテント内に戻ると、マリウスから声を掛けられる。

 

「ミアさんとお会い出来ましたか?」


「……まあ、な」


 俺の返事にマリウスは満足そうにすると、俺にお茶を差し出してきた。

 

「……それで、如何でしたか?」


「思った通り、例の司教がミアと接触した」


 俺の答えにマリウスがすうっと目を細め、少し責めるような眼差しを向けてくる。……そんな目で見られても……。これでも頑張って駆けつけたのになぁ。

 

「出来ればミアさんをあの司教と接触させたくは無かったのですが……まあ、仕方がないでしょうね。……で、大丈夫でしたか?」


「……ああ、ミアの事には気付かなかったな。運が良いというか何と言うか……法国の人間と会ったのが聖属性を失しなったタイミングで良かったよ」


 法国が聖属性の人間を躍起になって探しているというのは知っていた。

 法国の司教レベルになると<解析>やディルクのように<鑑定>スキル持ちがいるから厄介だ。奴らは片っ端からその人間が持つ属性を調べまくっているからな。

 

 俺も鉢合わせないように気を付けないと、俺の能力を視られたらかなりマズイ。


 だから聖属性を失ったミアが司教に<解析>されてしまい、聖属性の痕跡でも見つけられてしまったら……きっと有無を言わさず、本人の意志を無視されて強制的に法国へ送られていただろう。

 

 ──もしそんな事になっていたら、帝国と法国は全面戦争に突入していたかもしれない。


「本当、神に愛されていますよね、ミアさん」


「全くだ」


 ミアを愛している神と云うものが、アルムストレイム教の神じゃない事を望む。

 昔はもっと清廉・清貧で、富への欲求や所有欲なんて信仰の足枷になるとか言っていたのに、いつの間にか繁栄と幸福は神の祝福であるって逆の事を言い出し始めるし。

 最近と云うか、ここ数百年程の法国は何かがおかしい。一体あの国で何が起こっているんだか……。調べたくてもあの国には中々手が出せないんだよなー。


 それにつけてもミアは今までよく奴らに見つからなかったな、と本当に思う。あの義母達がミアを滅多に社交界へ連れ出さなかったのがこういう結果になるとは……。何が功を成すかわからないものだ。


──しかし、司教が王宮の深部を彷徨いているのをどうにか出来ないものか。


 アルムストレイム教を国教にしているせいで、ナゼール王国の王宮内にはアルムストレイム神聖王国の息が掛かった者が大勢潜んでいる。

 

 俺がアードラー伯爵の一件で王国に関与して来た事は、奴らにとってかなりイレギュラーであったと思う。

 今回は帝国筆頭宮廷魔道具師が拐われた、と云う大義名分を立てて何とかやり過ごしたが、もし同じような事が有っても二度は使えないかもしれない。

 法国はアードラー伯爵──ヴァシレフの身柄を未だに王国に要求しているらしいから、奴が帝国の手に渡るのを何とかして阻止してこようとするだろう。

 

 ──そして恐らく、ヴァシレフ奪還のついでに俺の命も狙ってくる。


 だから俺とミアが恋人同士なんて云うのが法国に知られたら、奴らは必ずミアを狙う筈だ。そうなるとミアの身に危険が及ぶのは間違いない。

 本当は堂々とミアと逢いたいのに、コソコソしないといけないのもストレスだし……ミアを帝国の宮殿に連れて行く事が出来ればそんな事をせずに済むのになぁ。

 

 ミアに飛竜を見せたあの日、何処の誰かはわからないけどこの逗留地はずっと監視されていた。──いや、あの日だけじゃない。俺達が此処に逗留したその日からずっと現在も監視され続けている。


 ……そんな事をするのは法国か、もしかすると魔導国の可能性もある。きっと<遠視>か何かの魔法で覗いているんだろう。

 

 だから俺はこの逗留地全体に光魔法の<光折>をかけ、演習風景や飛竜達を視覚的にも魔術的にも見られないようにしている。帝国を敵対している国なんかに、みすみすこちらの情報を渡してやるもんか。

 

 ミアを乗せた馬車にも勿論、認識阻害の魔法をかけているから、ウォード侯爵家に出入りしているのは気付かれていないだろうとは思うけど……。

 それでも油断は禁物だ。奴らはやることがセコいからな。アルムストレイム教の教義ってどうなってんだ。魔導国のプライドはどうした。お前らそれでいいのかと問い詰めたい。

 

 法国や魔導国の事を考えるといつも溜息が漏れる。きっとそれはお互い様だろうけど……。

 あまりグダグダ考えるのも良くないので、俺は思考を切り替える事にした。

 

「ランベルト商会に頼んでいる例のモノはどうなっている?」


「納期には間に合うそうですよ」


 俺はマリカに「あるモノ」の制作を依頼している。無事に帝国へ帰るための保険のようなものだ。


「さすが優秀だな。わが帝国筆頭宮廷魔道具師殿は」


「……全く。よくあんなモノを思い付きますよね。一体脳内はどうなっているんだか」


「あんなモノとは失礼な! かなり画期的なアイデアだろーがっ!?」


「まあ、そうですけど。しかしその画期的なアイデアを再現出来る彼女も大概ですね」


「それなー! マジすげぇよな。実物見るのが楽しみだわ」






* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございました。


たまには甘くないお話でもないとやってられませんわー。( ゚д゚)、ペッ


次のお話は

「128 飛竜師団テント内にて2(ハル視点)」です。


引き続きのハル視点です。


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