126 王宮での逢瀬2(ハル視点)

「……ごめん、困らせたい訳じゃないんだ。明日の晩餐会が終わったらしばらくミアに会えないんだなーって思うと、つい……」


 あーヤバかった。

 もうちょっとでミアを困らせるところだった。

 

 俺はいつでもミアを自分のモノにしたいのを我慢していると言うのに──


「私も凄く寂しいけど……っ! 本当は一緒に行きたいけど、頑張って我慢する! そうしたらその分、会えた時の嬉しさも倍増するだろうし!」


 ──そんな風に、ミアはその無自覚さで、俺が苦労してガチガチに固めた理性を一瞬で溶かしてしまう。


「……うん、そうだな。じゃあ俺も頑張って我慢するよ」


 だけど、ミアに嫌われたく無い、ただそれだけで、俺はどんな事にも耐えられる……いや、耐えてみせる……!!


 いつまでもこうしていたいけど、流石にそろそろ帰らないとマリウスが怒りそうなので、仕方無くミアの肩から顔を上げる。ああ、もっとミアを堪能したかった……。

 

 そうして改めてミアの顔を見ると、いつものミアと違う事に気が付いて、じっとミアの顔を見る。


「な、何かな?」


 ……化粧でミアの素顔が全くわからない。なるほど、これが報告書にあった魔物に似ているという奴か。でもやっぱり魔物と言うよりは妖精の類だな、と思う。


「いや、これが例の『ぬりかべ』なんだと思って。俺、初めて見るからさ」


 顔だけで判断すると確かに印象が薄いかもしれないけれど、でもそんなのはとても些細な事で。


「あっ! そうだった! 皆にはハルに見せちゃ駄目って言われてたのに!」


「え、なんで? ぬりかべなミアも可愛いけど?」


 ミアも俺にその姿を見せたくなかったようだけど、俺はどんなミアだって知りたいし、この目で見てみたい。


「えぇ〜……?」


 なのにミアは俺の言葉を疑っているようだ。……また何か変なことを考えているな。


「あれ? 何でそんな疑うような目をするの?」


「だって、こんなに厚塗りしているのに、可愛いとか……」


 本当に可愛いと思っているんだけどなぁ。ミアの可愛さはそんな化粧では隠しきれない程なのに。

 だから俺の気持ちを正直に言ってみた。


「え? このつぶらな瞳とか可愛いけど? そう云えば、こうやって見るとミアの瞳の色って紫だけじゃなく青も少し入っているんだな。グラデーションになっててすごく綺麗だ。何だか不思議な色だよな。宵焼け色って云うのかな? それにミアの髪の色も、月華のように……」

 

 星々が瞬き始める宵闇の色をした瞳に、天空で銀色に輝く月の光のような髪の、まるで夜を人の形にした様な美しさ。


 ──こうして改めてミアを見ると、まるで夜の女神みたいだな、と思う。

 

 夜と言っても暗いイメージじゃなくて、誰にでも同じ様に平等で、全ての命ある者の上に、夜の帳を下ろして包み込むような……そんな優しい夜だ。

 

 本気で褒める俺の言葉に居た堪れなくなったミアが、慌てて俺の言葉を遮る。


「わ、わかったから! もういい! もういいから!」


 化粧でわからないけれど、耳は真っ赤になっているから、きっと顔をも真っ赤にしているんだろうな、と思うと笑みが溢れる。

  

「ははっ、良かった、わかってくれて。ミアは可愛いから、誰かに奪われないかといつも心配しているんだ」

 

「えっ! そんな事は……」


 ミアはどこまでも自覚がないから、本当に心配だ。どうしたらミアはもっと危機感を持ってくれるんだろう。

 この「ぬりかべ」の化粧はミアを不埒な輩から守ってくれていた反面、ミアの自己評価を著しく下げてしまっているのかもしれない。

 

「──あるよ。ミアはとても魅力的だから、自覚してもっと警戒心を持って欲しい」


「うん、わかった」


 俺が真剣に言ったから、実際にミアは俺を心配させまいと警戒はしてくれるだろう。本当は自覚して欲しいけど、今日のところはこれで良しとしておくか。

 でもこれからはしつこいぐらいに褒めまくって、ミアに自分の魅力を理解して貰おう。


「有難う、ミア。……俺、そろそろ行くけどミアはこの後どうするんだ?」


「えっと、そこの庭園でお父様を待っていようかな、って」


「……ミア一人で? 俺に簡単に連れ込まれているのに?」


「うぅ、そ、そう言われると反論のしようがないけれど……」


 そりゃそうか。今から誰か護衛と言っても俺は勿論の事、帝国の師団員は使えない。何かミアを守れるものがあれば……よし!

 

 ミアを守る術を思いついた俺は、光魔法の<光幕>を応用した魔法を口の中で詠唱し、ミアの形良い額に口づける。

 

「ミアが危険な目に合わないおまじない。侯爵が来るまでは効果があると思う」


 即興で作ったので効果は短いけど、ミアが気を許す相手と接触すれば解除されるようにした簡易的光学迷彩だ。

 完全に姿を消す訳ではないけれど、視覚的に対象の認識をずらす効果が有るので何もないよりはマシだろう。

 

「じゃあ、俺は行くけど、本当に気を付けて? おまじないはしたけど、絶対じゃないから」


 ミアがコクコクと頷いたのを確認して逗留先へ急いで戻る。

 

 もっとミアと一緒にいたかったけど、明日も会えるからと自分に言い聞かせて我慢した俺はとってもエライと思う……マジで。






* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございました。


引き続きイチャイチャ話でした。( ゚д゚)、ペッ ( ゚д゚)、ペッ ( ゚д゚)、ペッ


次のお話は

「127 飛竜師団テント内にて1(ハル視点)」です。


引き続きのハル視点です。甘くないよ!


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「ぬりかべ令嬢」共々、どうぞよろしくお願いいたします。

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