125 王宮での逢瀬1(ハル視点)

 明日の舞踏会が終われば俺たち飛竜師団は帝国に戻らなければならない。そのために忙しく準備をしていたら、王宮の方から精霊達が飛んできて、ミアが王宮に来た事を教えてくれた。


 この精霊達はランベルト商会のバラ園にいた奴らで、どういう訳か俺に付いて来たのだ。

 

 ミアが近くにいるという事に喜んだ反面、法国の人間が彷徨く王宮内が危険なのもまた事実で。

 特に聖属性持ちのミアが、法国の人間に見付かってしまうとかなりやばい事になるのは目に見えている。

 今の王国と法国の関係からして、法国からミアの身柄を要求されてしまえば、王国が断るのは不可能に近いだろう。

 

 今のミアは聖属性を失っているとはいえ、何からバレるかわからない以上、あの司教とミアが会わない様にと、急いでミアの元へ向かったのだが、どうやら一足遅かった様だ。

 ミアを見付けたと思ったら、反対方向から司教がやって来て、ミア達に声を掛けているところだった。

 

 俺は精霊に司教達に見つからないよう、ミア達の傍まで飛んで貰った。そして精霊と同期を取り、司教の様子を探ってみる。

 

 すると、司教の奴がミアに<解析>魔法をかけていることに気が付いてドキリとする。

 その<解析>が何処までの精度を誇るかわからなかったが、もしミアから聖属性を感じ取ったのなら何か反応を起こすだろう。


「……なるほど、なるほど。……確かに。貴女が四属性の魔力を持つと云われているウォード侯爵令嬢でしたか。お会い出来て光栄です。では、本日エルヴァスティ修道院へ入院されるご令嬢は……」


 司教が話を続けようとしたところを、エリーアスが遮った。

 

「司教、申し訳ありませんが宰相に呼ばれていますのでこの辺で失礼します」


 よしっ! よく言った! 流石だぞエリーアス! マジ有能だな!

 マリウスとキャラ被りしてなければなー。ホント、惜しい人材だ。でもこれからの王国には必要な人材だからな。帝国へ引き抜くのはやめておこう。


「……ああ、これはこれは。引き止めてしまい申し訳ありませんでした。では、皆様に至上神のご加護がありますように」


 司教はそう言うと侍者を連れて去って行ったので、ミアの事はバレずに済んだと分かって胸を撫でおろす。

 

 それからミアの方はどうするのだろうと様子を窺っていると、何やら張り切っている侯爵が顔を赤くしたエリーアスを引き摺って何処かへ去っていった。


 おいコラエリーアス! 何ミアに見惚れてんだ!! あぁん!? 此処が帝国だったら血の海に沈めてたぞゴルァ!!

 

 そんな事を思っていると、侯爵やエリーアスと別れた後、一人で歩いているミアを見てギョッとする。


 ──おいおいマジかー!

 

 一人でのんびり歩いてるけど、何かあったらどうするんだよ! ミアは相変わらず危機感が無いなぁ。

 

 俺はそんなミアが危機感を持ってくれたらと、わざと脅かすように空き部屋へ連れ込んだ。


 ミアは始め、かなり驚いていた様子だったけどすぐ冷静になり、反撃しようと体が動いたのを察知した俺は、慌てて後ろへ飛び退いた。

 

「ミア! ストップストップ!! 驚かせてごめん! オレオレ! 俺だよ!」


 あの大聖アムレアン騎士団に所属していた母君から直接護身術を教わった事があると言っていた通り、令嬢のそれでは無いミアの動きに驚いた。

 

「ハル……っ!? どうしてこんなところに!? って、もうっ! 私すっごく驚いたよっ!!」


 犯人が俺だと気付いたミアはホッとした表情を浮かべたものの、やり過ぎたようで少し怒っていた。


「今日ミアが王宮に来るって小耳に挟んでさ、ちょっと抜けてきたんだ」


「ええ! そんな事して大丈夫なの?」


 ミアにはあの司教の事は言わない方がいいだろうと判断する。もしミアに「あの司教に気をつけろ」なんて言った日には、露骨に避けてしまうかもしれない。ミアは素直で真っ直ぐだからすぐ表情に出てしまうしな。


「あまり時間はないけど、どうしてもミアに一目会いたくて。さっきは乱暴な事をしてごめんな。俺、王国ではミアと一緒に居るところを見られる訳には行かないんだ。何処に敵の目があるかわからないから」


 少し物騒なワードを出して、ミアの危機感を少し煽ってみる。


「敵……」


 ミアが真面目な顔をして考え込んでいる。察しのいいミアなら理解してくれるとは思うけど……何となく、変な方向へ考えていそうな気もするけど……。

 

「わかった! 私もハルが困らないように気を付けるよ!」


 ミアが両手をぐっと握り、キリッとした表情で俺を見上げてくる様子が可愛すぎて、思わず笑みが溢れる。

 

 あ、いかんいかん。ここは笑ったら駄目なとこだった。

 

「ミア、ありがとな。ホントは俺、世界中にミアの事自慢したいけど、今はまだ出来なくて……」


「ハル……!」


 俺が少し悲しげな顔をすると、ミアはすぐ心配して気遣ってくれる。その純粋な様と、俺への想いを素直に表現するミアが愛おしくて堪らない。


「ああ、このままミアを帝国に連れ去って結婚したい……」


 想いが溢れてきて、思わずミアをぎゅっと抱きしめ、肩口に顔を埋める。

 ミアの柔らかくてしなやかな身体の感触と、香水じゃ無い良い香りに煽られて理性がクラっとする。

 頭を振って必死に煩悩を追い払うけれど、それが頭を擦り付ける形になってしまい、ミアをくすぐる事になってしまった。

 

「ひゃっ……! ハ、ハル! 大丈夫?」


 ミアがあげた可愛い声に、もうちょっとで理性が崩壊しそうになったけど、頭に術式を浮かべて何とかやり過ごす。






* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございました。


やっぱりイチャイチャ話でした。( ゚д゚)、ペッ ( ゚д゚)、ペッ


次のお話は

「126 王宮での逢瀬2(ハル視点)」です。


引き続きのハル視点です。


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