124 ぬりかべ令嬢、連れ込まれる。2

 私がどうしようかと思っていると、ハルが顔を上げて申し訳なさそうに言った。


「……ごめん、困らせたい訳じゃないんだ。明日の晩餐会が終わったらしばらくミアに会えないんだなーって思うと、つい……」


 そうだよね。晩餐会が終わったらすぐ帰らないといけないんだもんね。こうやってハルに会えるのもしばらくお預けかぁ……。

 ついハルと一緒にしょんぼりしそうになったけど、自分を奮い立たせて考えを変えてみた。


「私も凄く寂しいけど……っ! 本当は一緒に行きたいけど、頑張って我慢する! そうしたらその分、会えた時の嬉しさも倍増するだろうし!」


 そうだ! 我慢した後はお楽しみが待っているのだ! スイーツだって我慢した分、美味しさ倍増になるものね!


「……うん、そうだな。じゃあ俺も頑張って我慢するよ」


 ハルも私と同じ様に思ってくれたらしい。えへへ、嬉しいな。


 私の肩から顔を上げたハルが、今度はじっと私の顔を覗いてきた。あまりの距離の近さにドキッとする。

 そして、じーっと私の顔を見つめ続けるハルに、何か顔についているのかな、と段々不安になってきた。


「な、何かな?」


「いや、これが例の『ぬりかべ』なんだと思って。俺、初めて見るからさ」


 ハルの言葉で、自分がぬりかべメイクをしていたことを思い出す。もうすっかり馴染んでいたから気付かなかったよ……!


「あっ! そうだった! 皆にはハルに見せちゃ駄目って言われてたのに!」


 マリアンヌ達には「百年の恋も冷めるから」なんて言われて、ハルにはこの姿で会わないようにって注意されていたんだった……!

 

 どうしよう……! ハルに嫌われちゃう……!


 そんな私の心配を他所に、ハルが予想外の言葉を言うものだから驚いた。


「え、なんで? ぬりかべなミアも可愛いけど?」


「えぇ〜……?」


 ハルはきょとんとした顔でそんなふうに言ってくれるけど、実際このメイクで誰かに褒められた事なんてないのに……って言うか、存在に気付かれていないのに。

 だからついハルの視力を心配をしてしまうけど、視力は悪くなさそうなんだよね。


 ──ひょっとして、ハルの趣味悪すぎ……!?


「あれ? 何でそんな疑うような目をするの?」


「だって、こんなに厚塗りしているのに、可愛いとか……」


 元の顔がわからないレベルで塗り込められているのに、可愛いって……。

 でも、ハルが見た目で人を判断する人じゃないのが証明された事になるからいいのかな? なんて思っていると、ハルは更に私を褒めてくる。


「え? このつぶらな瞳とか可愛いけど? そう云えば、こうやって見るとミアの瞳の色って紫だけじゃなく青も少し入っているんだな。グラデーションになっててすごく綺麗だ。何だか不思議な色だよな。宵焼け色って云うのかな? それにミアの髪の色も、月華のように……」


 いやーっ! やーめーてーぇーっ!!


 私は流石にこれ以上は聞いていられなくなって、ハルの言葉を慌てて遮る。


「わ、わかったから! もういい! もういいから……!」


 ……ああっ……! もう恥ずかしさでいたたまれない……っ!

 

 そんな私を見てハルは楽しそうに笑っている。

 ハルが笑顔になってくれて嬉しいけど、やっぱりハルは意地悪だ!!

 

「ははっ、良かった、わかってくれて。ミアは可愛いから、誰かに奪われないかといつも心配しているんだ」

 

「えっ! そんな事は……」


 いやいや、いくら何でもそれは心配し過ぎだよね。私を奪いたいと思うような奇特な人間はハルだけだと思う。

 

「──あるよ。ミアはとても魅力的だから、自覚してもっと警戒心を持って欲しい」


 だけど、ハルが本当に真剣な顔で言うものだから、私の考えはともかく、ハルのために気を付けることにしよう。


「うん、わかった」


 真面目な顔でしっかり頷くと、ハルはホッとしたのか笑みを零す。

 

 ──くっ! その笑顔不意打ち……っ! ハルの笑顔にはだいぶ慣れてきたと思ったのに! ……まだまだ修行は必要なようね……!


「有難う、ミア。……俺、そろそろ行くけどミアはこの後どうするんだ?」


「えっと、そこの庭園でお父様を待っていようかな、って」


「……ミア一人で? 俺に簡単に連れ込まれているのに?」


「うぅ、そ、そう言われると反論のしようがないけれど……」


 でも今から誰かに警備して貰う訳にはいかないし、ハルだって一緒に居るところを見られると困るだろうし。

 

 私が考えていると、何かを呟いていたハルが不意に両手で肩を掴み、正面から向き合う体勢にさせられる。

 

 ……ん? と思ってハルの顔を見上がると、ハルの綺麗な顔が近づいて、額に柔らかい感触が降ってきた。

 

「ミアが危険な目に合わないおまじない。侯爵が来るまでは効果があると思う」


 ──────────────!?

 

「じゃあ、俺は行くけど、本当に気を付けて? おまじないはしたけど、絶対じゃないから」


 ──私はろくに返事も出来ず、ただコクコクと頷くことしか出来なかった……。

 

 





 ハルと別れてからどうやって庭園に辿り着けたのかわからないまま、ぼーっとしていると、先程のハルとの事を思い出す。


 ……うわー!!  ハ、ハルが……っ!! わ、わた、私に……っ!!

 

 まだおでこにハルの唇の感触が残っているような気がして悶絶する。顔が熱くなるのが止められない……!!

 

「うぅ……っ 明日までに顔の熱が下がればいいけど……」


 落ち着いたと思っても、ハルの顔を思い出すと顔が赤くなって、心臓もドキドキしっぱなしだったけど、こんな幸せなドキドキだったらいいかな、なんて思ってしまった。






* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございました。


ただのイチャイチャ話でした。( ゚д゚)、ペッ


次のお話は

「125 王宮での逢瀬1(ハル視点)」です。


今回のお話のハル視点です。


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「ぬりかべ令嬢」共々、どうぞよろしくお願いいたします。

 

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