123 ぬりかべ令嬢、連れ込まれる。1

 法国のイグナート司教という人が帰った後、お父様とエリーアス様はそのまま宰相の執務室まで一緒に行く事になった。

  

「もうこのまま一緒にアーベルの所へ行こうよ。そこでお茶とお菓子を出して貰おう」


お父様にはそう提案されたけれど、宰相様とお会いするなんてとんでもない私は、途中で分かれて庭園でも散策させて貰う事にした。


「お父様は良くても、私のような部外者が宰相様の執務室へ入るなど、恐れ多くてとてもじゃないけど無理です。私は庭園でお花を眺めながらお待ちしておりますので、お父様はどうぞ行ってらっしゃいませ」


「えー、でもミア一人で放っては置けないよ。誰か護衛を一人付けられないかアーベルに確認するから、それまで待っていてくれるかな?」


「お父様、そこまでされなくても大丈夫ですから。王宮内はしっかり警備されていますし、そんな事でお手を煩わせる必要はありません」


「え、でも……」


 実際ここは王宮内でも重要区域なので見回りの衛兵さんもいるし、問題は無いはず。それでも心配なのか、お父様が納得しないようなのでお試しにおねだりしてみる事にした。

 

「お父様、私早くお父様と王都でお買い物がしたいのです。だから早く戻ってきて下さいね?」


 胸の前に組んだ手を持ってきて上目遣いで相手を見上げる……だったっけ? 確かアメリアさんはそう言っていた筈だけど。

 

「よし! 行ってくる! ぱぱっと終わらせるから、ちゃんと待っているんだよ! ほらエリーアス君行くよ!」


 ……効果覿面でした。

 

 お父様はサッと身を翻し、颯爽と宰相の執務室へと向かって行った。エリーアス様を引きずって行く勢いで。

 

 やる気が出てくれた様で良かったけれど、エリーアス様が顔を赤くしているのを見て気が付いた。

 

 あ、そう言えば今はぬりかべメイクだったんだ。この顔で上目遣いは怖かったかも。きっとホラーだったよね。お父様はともかく、エリーアス様には変なもの見せちゃって悪い事したな。

 

 反省しながら先程見かけた庭園があった場所へ向かっている途中、曲がり角に差し掛かろうとした所で、突然後ろから口を塞がれ、どこかの部屋へ引きずり込まれる。

 

「────っ!!」

 

 ええ!! まさか本当に!? さっきお父様に大丈夫って言ったところだったのに!!

 こんな王宮の奥にまで狼藉者が侵入していたなんて……!?

 

 でも、ここで重要なのは一旦冷静になる事だ。パニックを起こしたままでは状況が悪化したまま何も変わらない。下手すると取り返しがつかないことになるかもしれない。

 

 ──そして私は一瞬で頭を切り替える。周りの気配を探ると、狼藉者は一人しかいないみたいだった。

 

 どうやらお母様仕込みの護身術を役立てる時が来たようね……!! よーし、行くぞーっ!

 

 私が反撃に出ようとしたのを察したのか、狼藉者が口を塞いでいた手を離し、慌てて後ろへ下がる。その俊敏な動きには無駄がなく、荒事に慣れていそうな気配がした。


 ……むむ! この動き、かなりの手練かも……!!


 そして私が振り向きざま、狼藉者へ攻撃をしようとしたその時──、

 

「ミア! ストップストップ!! 驚かせてごめん! オレオレ! 俺だよ!」


 どこぞの詐欺師が言いそうな台詞を言ったのは、何とびっくり仰天のハルだった。

 

「ハル……っ!? どうしてこんなところに!? って、もうっ! 私すっごく驚いたよっ!!」


 ハルはてっきり王宮の裏の騎士団演習場に居ると思っていたので、まさかここで会えるとは思っていなかった。


「今日ミアが王宮に来るって小耳に挟んでさ、ちょっと抜けてきたんだ」


「ええ! そんな事して大丈夫なの?」


「あまり時間はないけど、どうしてもミアに一目会いたくて。さっきは乱暴な事をしてごめんな。俺、王国ではミアと一緒に居るところを見られる訳には行かないんだ。何処に敵の目があるかわからないから」


「敵……」


 その一言にハッとした。

 

 ──そうか、ハルは違う国の人だものね。下手な事をすると外交関係に発展する可能性もあるんだ。

 だから王国の、それも王宮内で帝国皇太子のハルと仲良くするのはとても危険な事なのだ。有る事無い事変な噂をたてられて、無実のハルが追い詰められたりしちゃうかも! もしかしたら帝国を追放されてしまうかもしれない……! それならそれで私はハルと一緒について行くつもりだけど、生まれ育った国を追い出されるなんて……! もしかすると帝国を追い出された私達はお尋ね者になって、身を隠しながら生きるために闇の世界に足を踏み込んでしまうかも……?! そんな……! ハルをそんな辛い目に合わせる訳には行かないっ!!

 

「わかった! 私もハルが困らないように気を付けるよ!」


 私が両手をぐっと握り、覚悟を決めて宣言するかのように言うと、ハルは一瞬笑った後、少し悲しげに眉を下げた。

 

「ミア、ありがとな。ホントは俺、世界中にミアの事自慢したいけど、今はまだ出来なくて……」


「ハル……!」


 ハルの頭に何故かしょんぼりと垂れた犬耳の幻覚が見えた気がする……! あ、これはキケンだわ……!! 破壊力強すぎ……っ!!


「ああ、このままミアを帝国に連れ去って結婚したい……」


 ハルはそう言って私をぎゅっと抱きしめると、肩口に顔を埋める。そしてすりすりと頭を擦り付けるので、首や頬にハルの柔らかい髪の毛が触れて、少しくすぐったい。それに何だかゾクゾクして、思わず変な声が出てしまう。

 

「ひゃっ……! ハ、ハル! 大丈夫?」


 何時になく元気が無いハルの様子に何だか心配になる。何かあったのかな……?






* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございました。


連れ込んだのはハルでしたー!

またしばらく(?)イチャイチャ話です。(失笑)

ちなみにこの話のハル視点もありますのでお付き合い下さいね!(ゲス顔)


次のお話は

「124 ぬりかべ令嬢、連れ込まれる。2」です。


どうぞよろしくお願い致します。


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「ぬりかべ令嬢」共々、どうぞよろしくお願いいたします。

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