118 ぬりかべ令嬢、再び。
ハルと一緒に飛竜さん達を見学した次の日、お義母様とグリンダ達がそれぞれ収容される施設へと移送される事になったと聞いた。
私はどうしても二人を見送りたいとお父様にお願いし、渋々ながらも許可を貰う事に成功する。
二人を見送る為には再び王宮へ行く事になるけれど、今回は前回のような可愛い装いではなく、今ではもう昔懐かし「ぬりかべ」の装いで登城する事にした。
そして私は現在、マリアンヌやアメリ達に頼み込んでぬりかべメイクを施して貰っているけれど、二人はすごーく不満そう。
「思いっきり粧し込んで、あのお二人にユーフェミア様の美しさを見せつければいいのに!」
「そうですよ! もうこんなメイクの必要なんて無いのに! 私はユーフェミア様の美しさを国中にもっと知らしめるべきだと思いますよ!!」
二人が言うように、もうこんなメイクはしなくていいのだろうけれど、結構自分でも気に入っているので、時と場合によって使い分けたいなあと思っている……なんて言うと怒られそうだけれど。
「今度の舞踏会には普通のメイクで我慢するから……」
「「当たり前ですっ!!」」
苦しい言い訳をしてみれば案の定、マリアンヌ達に怒られてしまった。怒ったマリアンヌは結構怖いのだ。
マリアンヌと言えば、先日私に言いかけていた話を王宮から帰った後に聞いてみたのだけれど、その話しの内容がマリアンヌも帝国に行きたいと言う事だったので驚いた。
「私、ずっと前から帝国に行ってみたかったんです! だから、ユーフェミア様さえ宜しければ、私を専属の侍女として連れて行っていただけないでしょうか?」
──まさかマリアンヌがそんな事を考えていたなんて。
「えっと、正直私は大歓迎だよ。マリアンヌが一緒にいてくれるととても嬉しい。気心も知れている間柄だし、なんて言ったってマリアンヌは優秀だから、とても助かるよ」
私の言葉にマリアンヌは嬉しそうに頬を染めながら「良かったです」と微笑んでいた。もともとキレイ系なマリアンヌだけど、笑顔は少し幼く見えて凄く可愛い。
「……でも、お屋敷の皆んなと離れ離れになってしまうけど、大丈夫?」
「今生のお別れではありませんし……それに、生きてさえいれば会えますから」
そう言ったマリアンヌの顔は、少し寂しげで、儚く見えた。
何となく訳ありな気がしなくもないけれど……それは私が詮索するべき事ではないと判断し、口を閉ざす。
私はもう貴族じゃ無くなるし平民になるけれど、ランベルト商会から頂いたお給金がかなりあるし、しばらく……と言うか、一生マリアンヌを雇う事が出来るだろう。
それに、何となくだけどマリアンヌを帝国に連れて行くのはとても良い事の様な気がしたのだ。……本当に何となくだけれど。
そう思い出している間にぬりかべメイクも完成し、お父様と一緒に王宮へ向かうべく、荷物を持って貰って玄関へと向かう。
お父様はすでに準備を終えていた様で、私が来るのを待ってくれていた。
そしてお父様にエスコートして貰い馬車に乗り込み、皆んなに見送られながら侯爵邸を出発する。
侯爵家の馬車に揺られながら、やっぱり帝国製とは違うなぁ……なんて思ってしまう。この馬車だってとても良い作りの筈なのに。
私がハルの馬車のことを思い出していると、お父様がじっとこちらを見ているのに気が付いた。
「お父様、どうかされましたか?」
「……いや、話には聞いていたけれど、その化粧だとミアの可愛さが全くわからなくて勿体無いなって思ってね。もうそんな化粧をする必要はないんじゃないかな?」
お父様がマリアンヌやアメリと同じ様な事を言うので、思わず笑ってしまう。
「ふふっ、お父様もそう仰るのですね。私、結構この化粧を気に入っているのですよ。舞踏会にこの化粧で行くと声を掛けられずに済むので楽なのです」
「うーん、ミアも舞踏会は苦手なのか……そんな所までリアにそっくりだなぁ。もしかして今度の舞踏会もその化粧で行く気かい?」
「いいえ。ハルも参加する舞踏会なので、普通にお願いしようと思っています」
皆んなにも怒られるし……なんて思いながら私がそう言うと、お父様は「ああ、良かった……」と、とても安堵した表情を浮かべている。
……そんなにぬりかべメイク駄目かなあ? 私的にはとても快適なのだけれど。
目立たないように意識して壁際にいたらまず誰にも気づかれないし。皆様私に気付かず色々おしゃべりしてくれるので、意外と私は情報通だったりする。
ぬりかべメイクの有用性について考えていると、白く輝く王宮が見えてきた。そう言えば何だか最近よく登城しているなぁ。
いつもは正面から入城するけれど、今日は正式な登城ではないので裏門から入城する。
裏門には騎士さんや衛兵さんが物々しい雰囲気で警備に当たっている。重罪人の中には元老院の貴族もいたそうだから、厳重な警備になるのも仕方がないのだろう。
裏門付近には沢山の馬車と、手に枷を付けられ、平民の服を着せられた元貴族らしい人が何人もいた。その中で尊大な態度をした何人かが、衛兵さんに罵声を浴びせながら馬車に乗せられている光景が目に入る。
結構手荒いと言うか、強引に乗せられている様子を見て、元貴族でも罪人への扱いって荒っぽいんだなと驚いた。それが当然の事なのだろうけど。
お義母様とグリンダは何処だろう……? あんな風に手荒に扱われていないかな……?
二人が心配でキョロキョロ見渡していると、お父様が「こっちだよ」と言って案内してくれた。
そうして案内してくれた先には、手に枷をはめられた簡素なドレス姿のお義母様? らしき人の姿が。
……え? あの人がお義母様……? 皆んなから話は聞いていたけれど、予想以上に雰囲気が……あれれー?
「ほら、あそこにいるのがジュディだよ。僕はここで待っているから行っておいで」
「え……お父様は? 一緒に行かないのですか?」
「向こうが僕に会いたくないと思うよ。僕は彼女を監獄に送る張本人だしね」
お父様に促され、お義母様がいる所へ歩き出す。
自分の方へ向かって来る人影に気付いたのか、俯いていたお義母様がこちらに顔を向け、私の姿を視界に入れると、その顔が驚愕に歪み、ポツリと私の名を呟いた。
「ユーフェミア……」
その弱々しい声に、この人が本当にお義母様なのかと、あまりにも別人の様で驚いた。
私が最後に見たお義母様は、傲慢で横柄で──それでも美しい人だった。
それなのに、私が見たお義母様は艶のないボサボサの髪で、目の下には黒い隈が出来ており、肌は荒れ放題で以前の様な若々しい美しさはすっかり失われている。
ほんの三ヶ月の間にこれほど様変わりしていたなんて……。
お義母様は私に気付いた後、更にその向こうにいるお父様にも気付いた様で、その姿を視界に捉えた瞬間、淀んでいた瞳が微かに揺れたのが見て取れた。
──もしかしてお義母様は、お父様をまだ──……?
私は踵を返し、お父様の方へ戻ると、私が戻って来た事に驚くお父様にお願いする。
「お父様、お願い! 私と一緒にお義母様の所へ来て欲しいの!」
「ミア。だけど僕は……」
「お願い、お父様」
私が引かないことを悟ったお父様は「わかったよ」と言ってお義母様の所へ向かってくれた。私を甘やかす約束を叶えてくれて嬉しくなる。
「テレンス様……」
お義母様はお父様が来るとは思っていなかったらしく、酷く戸惑っている様で先程より更に瞳が揺れ動いている。
しかしお義母様はその瞳の揺れを隠し、強い視線を私達に向ける。
「こんな所まで来て何の御用? 私のみっともない姿を見にわざわざお越しになられたのかしら?」
お義母様は気丈に振る舞っているけれど、やはり昔のような覇気は鳴りを潜め、何だか無理矢理自分を奮い立たせているかの様に見えた。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございました。
というわけで次のお話は
「119 ぬりかべ令嬢、義母とお別れをする。」
義母のドナドナ回です。(ちょ)
そして近況ノートにも書かせていただいておりますが、
何とこの「ぬりかべ令嬢」が書籍化することになりました!(∩´∀`)∩ワーイ
これもお読み下さった皆様のおかげです!本当に有難うございます!
まだまだ終わりませんので、これからもお付き合いいただけたら嬉しいです!
次回更新は未定ですが、更新する時は近況ノートかTwitterでお知らせしますので、どうぞよろしくお願いいたします!
短編の宣伝です。
「5分で読書」参加作品です。時間つぶしに是非どうぞ!
色々と間違っているシンデレラ
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「ぬりかべ令嬢」共々、どうぞよろしくお願いいたします。
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