閑話 とある団員のつぶやき2(モブ視点)
まず中から出てきたのは我らがレオンハルト殿下で、完璧に制服を着こなすその姿は、男の俺でも惚れ惚れするぐらいに似合っていた。
その殿下が開いた扉に向かい、優しげな表情を浮かべ、中の人間に手を伸ばす。
────────はあっ!? あの殿下が優しげ……だとっ!?
訓練の時は容赦なく団員を叩きのめし、屍の山を築き上げながらも平然としているあの殿下が!?
並み居る美女、美少女に囲まれ、争うように行われる情熱的なお誘いの数々にも全くの無反応なあの殿下が??
ウッソだぁー! またまたご冗談を! これは俺たちの精神性を試す訓練だったとか言われた方がまだ信じられるわっ!!
すると馬車の中から、今まで見たことがないぐらい美しい少女が現れた。
──あれ? もしかして女神様降臨しちゃった……? ……うん、あの殿下ならあり得る!
飛竜種の中でも特に気難しいと言われる変異種をいとも簡単に操り、人見知りの精霊に好かれていつも纏わりつかれている殿下なら……! 「人外ホイホイ」と影で噂されている殿下なら……っ!
俺だけでなく、師団員全員が同じ気持ちのはずだ。今、ここに飛竜師団の心は一つになったのだ!!
「ミア様、お久しぶりでございます。再びお会い出来、大変嬉しく存じます」
……あれ? 今度はマリウス様まで優しげな微笑みを? いやいやいやいや!
レオンハルト殿下と同じく、女に全く興味を示さないマリウス様が!?
ご令嬢方からのアプローチを冷笑一つで吹き飛ばす、別の意味で女泣かせのマリウス様が!?
まっさかー! そんな訳あるはず……無いよね……? あれれー?
そんな俺達の心境を知らない女神様が、光り輝かんばかりの笑顔をお二人に向ける。
「マリウスさんお久しぶりです! うわぁ……! 軍服が凄く似合ってますね! それに髪が長くなっていて驚きました! とても格好良いです!」
────────────っ!!!!!
……笑顔が眩しすぎて言葉が出ない。
え? めっちゃ可愛くない? こんな可愛い存在がこんな下界にいてもいいの? 早く天界に返してあげないとダメなやつじゃない?
「勿体無いお言葉有難うございます。ミア様はとてもお美しくなられましたね。レオンハルト殿下が良いところを見せようと躍起になる気持ちが良くわかります。殿下はミア様を横から掻っ攫われないように気を付けないといけませんね」
「おいコラ! 余計なことを言うな!!」
……え? 何? 何だコレ?? 一体ナニが起こってるの?
「えへへ。ハルはそのままでも十分格好良いよ! むしろ格好良すぎるぐらいだから、これ以上格好良くなられたら困るかな」
──────何これ何コレナニコレーーーー!!!
あまりの展開について行けない俺たちを置いて、女神様はその花の
……その女神様の少し照れたような微笑みにノックアウトされた団員数知れず。
しかし恋に落ちた瞬間、失恋するのは既に決定事項なのだ。誰も殿下に敵わないのだから、団員が受ける精神ダメージは計り知れない。
……と言うのに、殿下は更に追い打ちをかける。
「え? そ、そうかな……ミアがそう言ってくれると嬉しいな」
殿下がデレたぞーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
まさか生きている間に殿下の照れた御尊顔をこの目で見る事が出来るとは……!!
流石の精鋭部隊である我が飛竜師団の連中も、デレた殿下には衝撃を受けたようでザワザワと騒ぎ出す。ある意味非常事態だ。
しかしそこは側近筆頭マリウス様である。彼が「ゴホンッ」と一つ咳払いするだけで、その刹那、波が引いていくかのように静かになる。
ここに居る皆んなはマリウス様を怒らせていはいけないと言う事を十分理解しているので、協調性はバッチリだ!
「ミア、取り敢えず飛竜の処へ行こうか」
殿下がそう言ってミアと呼ばれる令嬢を伴い、マリウス様と一緒に飛竜達がいる天幕までエスコートしていった。
俺たちはその姿が見えなくなるまで何とか耐える。かつてこれ程忍耐力が要求されたことがあっただろうか。いや、無い。
我々は誉れある帝国の飛竜騎士団、団員だ! あのときの苦労を思い出せ……!!
──そして殿下達の姿が見えなくなった途端、それは爆発した。
「「「「ええええええええええぇぇーーーーーーーーーっっ!!!」」」」
「嘘だろーーーーーーーっ!!」
「女に微笑んだっ!? あの殿下がっ!?」
「何だよアレ!! 俺たちは何を見せつけられてんだよっ!!」
「殿下はノーマルだったのか……」
「っざっけんな!! どうやったらあんな女神とラブラブ出来んだよっ!!」
「ああ……! ヤバイっ! アレはヤバイっ!!」
「姉上、ショックだろうな……」
「まさかあの殿下と釣り合うような女性がこの世に存在していたとは……!!」
団員たちが絶叫する。先程まで目の前で繰り広げられた光景が未だに信じられないのだ……俺もだけど。
膝を折って項垂れる者、天に向かって祈りを捧げだす者、号泣する者……団員が思い思いのリアクションを取っている様は正に阿鼻叫喚だ。
普段なら城の若い侍女たちから「師団の方たちはいつもキリッとしていて格好良いわ!」と熱い眼差しで見られる様な、勇敢な姿はここには存在しない。
ここが遠く離れた王国で良かった……! 団員のこんな姿、侍女どころか他の騎士団の人間にも見せられない。
それでも、何だかんだ騒いでいる団員たちだけど、心の底から思っている事はただ一つ。
──……ああ、本当に良かった……!
いつも完璧すぎて、どんな事でも難なくこなしてしまう殿下だったけど、ふとした拍子に寂しげな表情をする事があった。
何もかも持っていて、恵まれているはずなのに、唯一の欲しいものだけが手に入らない、そんな孤独を感じさせる雰囲気に団員たち……いや、宮殿の人間全員が心の底で心配に思っていただろう。
でも、やっと殿下はその唯一を手に入れたのだ。それを嬉しく思わない筈がない。
初めて見る、年相応の殿下の表情や態度に「ああ、この人も人間だったんだ」と安堵する。
そんな人間臭い一面を見せられると、今まで神のように手の届かない存在だと思っていた殿下を身近に感じ、逆に信奉者が増えるかもしれないけれど。
今の殿下なら、我が帝国を更に発展させるべく、我々を導いてくれるだろう……そんな確信を持つ。
──願わくば、殿下の唯一であるあの少女が、殿下と共に手を取り合い寄り添う人生を歩まん事を。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございました。
団員視点でした。結局帝国のみんなはハルが好きって事で。
そして帝国にも貴腐人はたくさんいるのです。(笑)
次回更新は未定です。近況ノートかTwitterでお知らせしますので、
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「ぬりかべ令嬢」共々、どうぞよろしくお願いいたします。
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