閑話 とある団員のつぶやき1(モブ視点)
俺は栄えあるバルドゥル帝国飛竜師団に所属しているモブだ。モブというのは俺の名前なので、決して端役キャラや、無名キャラの“モブ”ではない。
そんな俺が所属する飛竜師団は、帝国で子どもが将来なりたい職業TOP3に常駐する程の人気を誇る、帝国民憧れの職業なのだ。
かく言う俺も、この飛竜師団に入るのにそれはもう苦労した。
元々出来は良い方だと自負していた俺は、自分の実力なら確実に飛竜師団へ入団できるだろうと軽く考えていたのだ。
しかし、そんな自負なんて簡単に木っ端微塵となって吹き飛んで行くぐらいに優秀な人間を目の当たりにした俺は、すっかりその存在──レオンハルト殿下に心酔してしまった。
そしてそれからというもの、とにかく俺は頑張った。その人の近くに行きたくてそれはもう頑張った。マジで血反吐を吐くぐらいには頑張ったのだ。
その苦労と努力の末、飛竜師団に入団出来た時はもう死んでもいいって思ったものだ。矛盾しているだろうが、それぐらい嬉しかったのだ。
──帝国飛竜師団は世界最高戦力と称される程の存在だ。
飛竜種自体が希少で、しかもそれを手懐けるなんて不可能だろうと言うのが一般常識だった。しかしその常識を覆したのが現在の皇帝陛下と皇太子であるレオンハルト殿下だ。
その方法は帝国皇室最重要機密項目の一つに数えられているので、俺のような下っ端が知る由もない。っていうか、知ろうとする事すら烏滸がましい。
帝国民にとって皇族はある意味神にも等しい存在だ。なんて言ったって帝国の守護神である「天帝」の血を受け継ぐ一族なのだ。そんな高貴な方々の意に沿わない事をしようとする人間は帝国にはほぼいない。……まあ、流石に全くのゼロとは行かないだろうけど。
皇帝陛下のおかげで帝国民は安心して生活出来ている。多少の貧富の差はあるけれど、最低限の生活が保証されているのは世界中を探してもこのバルドゥル帝国ぐらいだろう。
だから皇族であり、将来の皇帝となられるであろうレオンハルト殿下への期待と信頼する声は帝国中でもかなり高い──いや、高過ぎる。
「天帝」と同じ髪の色に魔眼を持ち、皇族歴代最高の魔力量を誇る魔法の天才、その上破天荒なのに何故か憎めない性格で、頑固者が多い貴族院の爺さん方にも可愛がられているとか。
しかも類を見ないほどの美形で帝国中の女性は誰しも憧れてるし、近隣諸国の王女や令嬢からはもちろんの事、普段あまり国交が無い国の王女からも熱烈に求愛されているらしい……って、羨ましすぎんだろ!!
前世どんだけ善行積んだらそんな風に生まれて来る事が出来んだよ!! 世の中不公平過ぎんだろが!! マジで神様問い詰めたいわ!! ……っと、ヤバイヤバイ。つい興奮してしまった。
まあ、そんな感じで妬むのも馬鹿らしいほど恵まれた殿下なのだが、不思議な事に浮いた噂が一つもない。「帝国の妖精姫」と名高いイメドエフ大公の娘、ヴィルヘルミーナ様もレオンハルト殿下に夢中だと言うのに、だ。
世界中から来る婚約の打診や申込みは一切スルーしていると言う徹底ぶり。
そんな訳で、殿下には既に想い人がいるけれど、ある事情で添い遂げることが出来ないが為に、せめてもの意思表示として縁談を断っている──と言う噂が飛び交い、独り歩きしてしまっているのだ。……主にご令嬢達の間で。
それがどんな噂なのかは詳しくは知らない方が身の為らしいので、俺も内容はよくわからない。
だけど、顔が良くてモテるからと言って、女を取っ替え引っ替えするような下衆い貴族が多い中、レオンハルト殿下にそんな様子は全く無く、想い人に操を立てるその姿勢にはとても好感が持てる。騎士団や師団では俺と同じ様に思っている連中が大半だろう。
女好きの上司なんて、よほど優秀じゃなければ百害あって一利無しだからな。ハニトラに引っかかって死ぬのは俺たち下っ端なんだから。
そんな下っ端の俺が飛竜の世話をしたり訓練したりと毎日の日課をこなしていたある日、急遽ナゼール王国へ飛竜師団を派遣する事になった。
初めての緊急出動でややパニックになりながらも、何とか準備を終え王国へ向かう。
レオンハルト殿下を筆頭に側近の四人がそれぞれの飛竜に騎乗し先頭を切る。
殿下の側近は四人共優秀なのはもちろんの事、顔も良くて殿下の次に大人気だ。だから飛竜に騎乗している姿はとても格好良い。
──ああ、俺も早く出世して自分の飛竜を賜りたいなぁ。
余程急ぐのか、休憩をろくに取らず王国へ向かうその様子に、師団の間では何事かと色々な憶測が飛び交っていた。中には、殿下が想い人を迎えに行くのではないか? なんて噂もあり、そんなまさかと皆んなで一笑に付していたのだが……。
まさかそれが本当の事だったと知ったのは、殿下がとある令嬢に飛竜を見せる為に、王国から借りているこの演習場にその令嬢と共にやって来るという連絡を受けた時だった。
殿下の側近筆頭であるマリウス様からは、公務用の制服を着るよう指示を受け、更に決して粗相しないよう、厳重に注意された。
ちなみに公務用の制服は諸外国の騎士服とは違い動きやすくて高性能で、とにかく格好良い。この制服を着ると自分が五割増し男前に見える。
そんな制服は大人気で、この制服を着たいが為に毎年かなりの人間が入団試験を受けに来るという。
まあ、この制服を着ているとご令嬢方からチヤホヤされるしな!
しかし皇帝陛下が見学に来る時でもここまで気を使わなかったのに、一体殿下が連れてくる令嬢とは一体……!? 正直王国にそこまで権力を持っている人物がいるとは思えない。王国の王女か誰かかと思ったが、王国に王女はいないと気が付いた。
誉れあるはずの飛竜師団の全員が戦々恐々と準備をし、整列して待っていると、遂にその令嬢と殿下を乗せた馬車が到着したらしく、その知らせを聞いた師団中に緊張が走った。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございました。
次話も引き続き団員視点です。
本日18時に投稿しますので、どうぞよろしくお願いいたします!
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「ぬりかべ令嬢」共々、どうぞよろしくお願いいたします。
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