116 ぬりかべ令嬢、飛竜に会いに行く。

 迎えに来てくれたハルにエスコートされ、帝国製の馬車に乗り込む。

 前回乗った時も思ったけれど、動き出してもガタッと大きく揺れないし、静かだから本当に快適で、もう他の馬車には乗れないかもしれないと真剣に悩んでしまう。


 そんな快適な馬車に揺られ、目指すのは王国自慢の白亜のお城、「白雪城」だ。

 お昼に行くのはグリンダも一緒だったマティアス殿下とのお茶会以来かもしれない。そう思うと、この三ヶ月は本当に濃厚な三ヶ月だったなあと実感する。


 前回の失敗から、今回はハルの正面では無く斜めの席に座ろうと思ったけれど、逃げちゃ駄目だと思い直し、覚悟を決めてハルの正面に座った……けどっ!


 軍服姿のハルはいつもより更に格好良くて、笑顔じゃなくても目がっ! 目がーっ!


 ……ああ、ハルが格好良すぎて見るのが辛い……でもっ! 頑張って慣れないとこれからが大変なのだ! お母様、どうか私に力をっ!!

 ハルが何か言う前に私から声を掛ける。先手必勝よね!


「今日のハルの服装、とても格好良いね! 思わず見惚れてしまったよ!」


 改めて近くで見ると本当に格好良い。着丈が長い縦長シルエットの上着に、ハイウエストの位置にベルトをしている為か、ただでさえ長い脚が更に長く見える。


「本当? なら着て来た甲斐があったよ。これは帝国の制服なんだけど、始祖がデザインして好んで着ていたんだって」


 私の言葉に、ハルが嬉しそうに軍服の説明をしてくれたけど、その内容に驚いた。これを始祖様が……!? ……うん、確かに威厳と迫力を醸し出しているものね! 納得!


「始祖様って何でも出来るんだね。すごいなあ……!」


 この服も以前聞いた異世界の服なのだろうか。もしかして異世界の人は皆んなこの服を着ているのかな?


「始祖は『オタク』だったらしいけど……どういう意味だろうな? 何かの技術職だったのかも知れないな。 ちなみにこの制服、結構人気があるんだぞ? この制服を着たいが為に入団する人間もいるからな」


 制服目当てで……。でも分かる気がするなあ。キリッとして格好良いもの! それで士気が上がるのなら良い事よね。


「制服のことはともかく、今日のミアは本当に綺麗だな。いつも綺麗だけど、髪型が違うだけでずいぶん印象が変わると言うか……うん、凄く可愛い。また新しいミアの魅力が見ることが出来て嬉しいよ。何だか奴らに見せるのが勿体無くなってきた。ミアの可愛さは俺だけが知っていればいいのに……」


 ハルの言動に惑わされないように意気込んでいたというのに、ハルが熱のこもった眼差しをこちらに向けてそんな事を言うものだから、必死の努力も虚しく、またもや私の心は撃沈されてしまった……。そうれはもう呆気なく。くうっ! ハルに勝てる気がしない……っ!


 そんな感じでハルに翻弄されつつ話しながら馬車に揺られていると、白雪城が見えてきた。青空の下、太陽の光を受けて輝く白亜のお城は相変わらず美しい。


 飛竜達はお城の裏にある王国騎士団の演習場で待機しているらしく、そのまま馬車で演習場まで連れて行って貰う。馬車の外からは騎士団が演習しているのか、結構な数の声が聞こえて来てかなり賑やかだ。


 しばらくすると馬車が停まったので、目的地に着いた事がわかった。賑やかだった馬車の外が静かになったので、私達が降りるのを待ってくれているのかもしれない。そう思うと急に緊張してきて、馬車の中から出たくない欲が湧いてくる。


 ど、どうしよう……! 何だか外にいる人達も緊張しているような気がするんだけど……!!


 そんな私の心配を他所に、ハルが馬車の扉を開けて先に降りると、開いた扉から光が差し込み、薄暗い馬車の中を照らし出す。ハルは光の中、私に向かって笑顔で「ミア」と名前を呼ぶと、手を差し出してくれた。


 ──それはまるで、私を暗い場所から光のある場所へ導いてくれている様で……。


 私は躊躇うのをやめ、ハルの手を取り、ハルが待つ光の中へと一歩踏み出した。


 外の明るさに一瞬目が眩んだけれど、ハルがしっかりと手を握ってくれていたからバランスを崩すこと無く、無事降りることが出来た。


 馬車から降りて周りを見渡すと、ハルと同じ軍服を着た人達が整列しており、私達を認めると、一斉に礼をとって迎え入れてくれた。

 一糸乱れぬ統率されたその動きは圧巻で、思わずポカーンとしてしまいそうになり、慌てて顔を戻す。


 うわぁ……! 帝国の人達って凄く訓練されているんだなあ……! どの人も隙が無いと言うか何と言うか……キリッとしていて表情からして違うもんなあ……練度が高いってこういう事を言うのね!


 よーしっ! 私も頑張って表情を引き締めるぞ! 顔面の筋肉をフル活用だ! 私が間抜け顔を晒したらハルが恥をかいちゃうものね!


 私が一生懸命表情を作っていると、前方の列の中央から人が一人こちらに向かって来た。その人は灰色の髪と目をした、懐かしい人──マリウスさんだ。


「ミア様、お久しぶりでございます。再びお会い出来、大変嬉しく存じます」


 七年振りに再会したマリウスさんは背が高くスラッとした体型に、これまた軍服がとても良く似合っている。銀縁の眼鏡に緩く編んだ三つ編みを前に垂らしているその様は、ハルとはまた違った格好良さ! クールビューティーとは正にマリウスさんの為の言葉かも。


「マリウスさんお久しぶりです! うわぁ……! 軍服が凄く似合ってますね! それに髪が長くなっていて驚きました! とても格好良いです!」


 私の言葉に、マリウスさんは驚いた様に目を見開いた後、ふわっと微笑んだ。


「勿体無いお言葉有難うございます。ミア様はとてもお美しくなられましたね。レオンハルト殿下が良いところを見せようと躍起になる気持ちが良くわかります。殿下はミア様を横から掻っ攫われないように気を付けないといけませんね」


「おいコラ! 余計なことを言うな!!」


 マリウスさんの暴露にハルが慌てて黙らせようとしたけれど、私の耳にはしっかり聞こえてしまい、その意味にとても嬉しくなる。


 ハルの方を見ると、暴露されたのが恥ずかしかったのか、マリウスさんをキッと睨みつけていた。


 何だかその光景が七年前の光景と重なって懐かしくなる。


「えへへ。ハルはそのままでも十分格好良いよ! むしろ格好良すぎるぐらいだから、これ以上格好良くなられたら困るかな」


 私は表情を引き締めるのを忘れ、ハルへとにっこり微笑んだ。


「え? そ、そうかな……ミアがそう言ってくれると嬉しいな」


 二人でニコニコ微笑みあっていると、先程まで静かだった騎士さん達がザワザワと騒ぎ出したので、あれ? と思ったら、マリウスさんが「ゴホンッ」と咳払いした瞬間、波が引いていくかのように静かになった。


 ……おおぅ! マリウスさん凄い……! 咳払い一つで統率していらっしゃる!


「ミア、取り敢えず飛竜の処へ行こうか」


 ハルに促され、飛竜さんの元へ! うわぁ……何だかドキドキするなあ。


 広い演習場の奥の方に大きな天幕が張ってある一角が見える。どうやらそこに飛竜さん達がいるらしい。

 天幕の方へ移動すると、先程までいた演習場から物凄い怒声……と言うか、叫び声みたいなのが聞こえてきてビクッとなる。何かあったのかな?

 

「……チッ、あいつら……!」


 ハルには心当たりがあるらしく、お行儀悪く舌打ちをしているけれど、マリウスさんが「アレはまあ……仕方ないかと思いますよ」と言ってハルを宥めている。

 ハルの方は「……まあ、予想の範囲内だけどな」とか何とか呟いていて、その話の内容がよく分からずきょとんとする。

 ハルはそんな私に「ほらほら、飛竜達だぞ!」と言って天幕をめくり、中に案内してくれた。

 

 すると中には身体を横たえ、気持ちよさそうに眠っている飛竜さん達が。


 わあ……! 本当に飛竜さんだ! 格好良い……!


 ハルと一緒に近づくと、私達に気付いた黒い鱗の飛竜さんがこちらに向けて顔を上げた。


 竜種の目は瞳孔が縦長なイメージだったけど、飛竜さんの瞳孔は丸くてクリっとしていてとっても可愛い! 怖いと思っていたイメージがすっかり無くなっちゃった。


「コイツは俺の相棒なんだ。飛竜種は緑系の色をした個体が多い中、コイツは珍しい黒色でさ。一目見て気に入ったんだ。きっと親近感が湧いたんだろうな」


 うん、さすがハルの相棒さん! 堂々とした佇まいが格好良い! 王者の風格って感じ!





* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


☆や♡、フォローに感想、とても嬉しいです。感謝です!


次回のお話は閑話になります。今回の話の団員目線です。

ハルへの愛(笑)や、ミアを見た感想、雄叫びの理由などがわかります。

明日2話、12時と18時に投稿しますので、どうぞよろしくお願いいたします!




短編アップしました。「5分で読書」参加作品です。

時間つぶしに是非どうぞ!5分で読めますよ?(えびす顔)


色々と間違っているシンデレラ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054934173337


メン×コイ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054934011585


「ぬりかべ令嬢」共々、どうぞよろしくお願いいたします。

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