115 ぬりかべ令嬢、王宮へ行く準備をする。

 私が屋敷に戻った翌日、マリアンヌ達が部屋にやって来て、寝ている私を起こした後、あれよあれよという間に身支度を整えてくれた。


 今まで自分でやって来たので、自分で着替えると言って断ったけど、「昔からずっとユーフェミア様のお世話がしたかったんです!」と言われてしまえば断れる訳もなく。

 結局言われるがまま、されるがままにお世話されてしまいました。


 身支度している途中に、カリーナが王宮からの手紙を持って来てくれた。内容を確認してもらうと、ハルからのお誘いのお手紙だったようで、思わず胸が高鳴ってしまう。


「レオンハルト様より飛竜見学のお誘いが来ておりますが、いかが致しますか?」


 昨日約束したばかりだったけどもう準備してくれたんだ! 仕事が早いなあ。


「もちろん行きます!」


 ハルがあんなに自慢する飛竜たちだもんね! 楽しみだなー!


 午後にハルが迎えに来てくれるとの事なので、朝食を食べてから準備する事に。

 ダイニングへ行くと、昨日と同じ様にお父様が既に居て、私を待っていてくれた。


「お父様、おはようございます」


「ミア、おはよう。今日は帝国の飛竜師団の見学へ行くんだって?」


 お父様は当然見学のことを知っていて、その飛竜師団の事を教えてくれた。


「飛竜はとても数が少ない上に中々人に懐かないから、頭数を揃えて調教するのは至難の業とされているんだ。だから帝国の飛竜師団は他の国からの羨望の的なんだよ。しかも世界有数の軍事力を持つと言われていて、帝国がその気になれば王国なんて一瞬で制圧されるだろうね。帝国が好戦的な国じゃなくて本当に良かったよ」


 王国が瞬殺されるほどの……こ、怖! でもすごいなあ。ハルはそんなすごい師団を率いているんだ!


「それは大聖アムレアン騎士団や冥闇魔法騎士団と同じぐらい強いと言う事ですか?」


 世界有数と言えば真っ先に名前が上がりそうだものね。


「恐らくそうだろうね。でも帝国には飛竜師団とは別に裏の特務機関が存在すると言う噂があってね、伝説の『竜』レベルの強さを誇るらしいんだ。もしそれが本当なら世界最強だろうね」


 えぇ!? 伝説の竜……!! ハルに聞いたら教えてくれるかな? でもこういうのって最高機密だよね。 私が興味本位で知っていい事じゃ無さそうだから黙っておこう。うん。


 飛竜の話を聞いたその後は、お父様と一緒に朝食をいただき、ハルと会うための準備を始める。

 王宮へ行く事になるので、普段着では無く貴族令嬢に相応しい装いで登城しないといけないから大変だ。マリアンヌやアメリに手伝ってもらい、身支度が完了する。


 本当はぬりかべメイクが良かったんだけど、皆んなにやんわりと止められてしまった。

 でも自分で身支度するのとは雲泥の差な仕上がりに、さすが侯爵家の使用人達だと感心する。

 マリアンヌが編み込んでくれた髪の毛は、上品な中に可愛らしさもあり、彼女のセンスの良さがよく分かる仕上がりになった。


「うわぁ〜! スゴく可愛い髪型だね! これ、今の流行なの? 初めて見たよ!」


 社交界にはしばらく参加していないから今の流行は全くわからないけど、令嬢たちが見たら喜びそうなぐらい可愛い。


「……いいえ、昔見た髪型を思い出しながら編んでみました。うろ覚えでしたが上手くいって良かったです」


 へぇ〜。昔見たって割には目新しい気がするけれど、きっとマリアンヌがアレンジしたんだろうな。


「これならそのまま舞踏会にも行けそうだね! あ、今度開かれる舞踏会の時もこんな風に編んでくれる?」


 この髪型がとても気に入った私がマリアンヌにそう言ってお願いしてみると、「はい! もちろんです!」と元気な返事が返ってきた。

 舞踏会ではハルと踊る約束をしているし、かなり身支度を頑張らないといけないだろうから、マリアンヌがやる気になってくれてよかったよ。


 身支度が済んだので、ハルが来るまでの間にと思って軽食をつまんでいると、マリアンヌが私に何かを言いたそうにもじもじしている。


「マリアンヌ、どうしたの?」


「ユ、ユーフェミア様……あの、私ユーフェミア様にお話があって……」


 何時もハキハキと元気が良いマリアンヌが珍しく言い淀んでいる。その様子に、かなり真剣な話だろうと思った私はマリアンヌに話してくれるように促した。


「うん、大丈夫だよ。遠慮せずに話してくれる? 一体どうしたの?」


「あの、私、実は……」


 マリアンヌが話そうとしたそのタイミングで、ハルが到着したとダニエラさんが知らせに来てくれた。


「ダニエラさん、ハルにはちょっと待って欲しいと「駄目です!!」」


 ハルには悪いけどちょっと待って欲しい、と伝えて貰おうとダニエラさんに声を掛けたら、マリアンヌが大きな声で遮った。


「レオンハルト様をお待たせしては駄目です! 私の話はユーフェミア様が戻られてからでも大丈夫ですので、どうぞ楽しんでいらっしゃいませ」


 マリアンヌはそう言って「でも……」と戸惑う私の背中を、「いいからいいから」と言ってぐいぐい押して来る。

 結局マリアンヌに押し切られる形で、帰ってきてから話を聞く事になった。


 何となく気になりながらもハルの待つ玄関ホールへ向かうと、黒を基調とした騎士服の様な、何かの制服のようなものに身を包んだハルが立っていて、あまりの格好良さにポーッと見惚れてしまう。


 うわー!! どうしよう……っ! すっごく格好良い……っ!! こんな格好良い人がこの世に存在していて、しかも私を迎えに来てくれるなんて……まるで夢みたい……! ……って、あれ? これはもしかして私の想像から生まれた理想の産物……? 私はまだ夢を見ているとか? ええっと、話しかけても大丈夫かな?  傍から見たら何も無いところに話しかけている変な人に見えるかも! それは痛い! ああ、でも本当に格好良いなあ……。


 黒のロングコートには紋章入りの銀ボタンが付いていて、所々に銀糸で刺繍が施されており、とても上品な印象になっている。中に着ている詰襟も同じ素材で作られていて、肩から胸まで飾り紐が吊るされている。そのタイトなシルエットに、ハルのスタイルの良さがよく分かる。


 私の横ではマリアンヌが同じ様に見惚れていて、「軍服……尊い……っ」とブツブツ呟いていてちょっと怖い。でもマリアンヌも同じものを見ているからこのハルは幻じゃ無かったようだ。

 しかし、こういう服を「軍服」って言うんだ。確かに騎士の衣装とはかなり違うものね。マリアンヌは物知りだなあ。


 私に気付いたハルが笑顔でこちらに向かって歩いて来た。だからその笑顔反則っ……!


「ミア、すごく綺麗だ……! そんなミアを見ることが出来てとても嬉しいよ! 今日はよろしく」


 軍服と笑顔と褒め言葉と言う合わせ技で既に瀕死状態の私に、ハルは止めとばかりに私の手を取り、手の甲にそっと口づけた。


 きゃあーーーーーーーーーーーっ!!!!!


 叫ばなかった私を褒めて欲しい。これは褒賞ものだと思う。頑張った! 私頑張ったよ……! もう少しで腰が抜けるところを何とか踏ん張ったよ……!


 もう既に何かをやりきった感に、晴れ晴れとした気持ちになる。だが、本番はここからだ!

 それにしても今日は長い一日になりそうだなあ……と、何故かそんな予感がした。





* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


☆や♡、フォローに感想、とてもありがたいです。心の栄養剤です。


次回のお話は

「116 ぬりかべ令嬢、飛竜に会いに行く。」です。


相変わらずストックは溜まってないので、更新時期は未定です。


それなのに短編アップしました。文字数に苦労した作品です。(ドヤァ)

時間つぶしに是非どうぞ!5分で読めますぜ?(ゲス顔)


メン×コイ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054934011585


「ぬりかべ令嬢」共々、どうぞよろしくお願いいたします。

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