第97話 ゲンセンカン主人

1993年の日本映画です。


「網走番外地」などで知られる石井輝男監督が、つげ義春の原作「李さん一家」「紅い花」「ゲンセンカン主人」「池袋百点会」の4話をオムニバス映画として一本にまとめた。


知る人ぞ知るつげ義春を、津部という名にして佐野史郎が演じた。


とても地上波に乗せられるような内容ではないので,観る機会がなかなかない作品でもあると思うし、もともとがマイナーな映画なので、ご存知の読者さまは少ないかもしれない。


4話とも、私はそれぞれ味を感じたが、2話目の「紅い花」は、見事に原作に忠実で、丹念に作られており、初めて観た時からやはり1番好感が持てた。


つげ義春の詩的な感性が見事に生かされており、1970年代にNHKの佐々木昭一郎というディレクターが映像化したものよりもこの「紅い花」に関して言えばずっと良かった。


他の3遍は今回は割愛し、この有名な「紅い花」のあらすじを書こうと思う。


どこともしれない山で、まだ小学校高学年くらいのキクチサヨコは釣り人などに飲み物を売っている。


ある日そこに津部氏が釣りにやってくる。

津部はラムネを飲み、キクチサヨコの茶屋で休憩する。


津部が足を冷やすための水を清流に汲みに来たキクチサヨコの着物の裾を(キクチサヨコは和服を着ている)シンデンノマサジという、サヨコよりふたつほど歳下の男の子が棒でめくろうとする。

「そのような悪さをするのはマサジじゃろ。隠れておってもつつぬけじゃ!」とサヨコは怒る。


「おまえら、このごろ毛が生えとるじゃろ」

「知らん!」

サヨコはマサジに言う。

「そのようないたずらをするならば、客人に言いつけてやる」


客人というのは釣り人のことで、マサジにとっては大切な収入源なのである。


マサジは津部をヤマメの穴場へと案内する。

そして駄賃をもらう。


その帰り道、「腹がつっぱる」と言っていたキクチサヨコが、清流にうずくまっているのをマサジは見る。

「?」

そう思った次の瞬間、マサジは清流を、花が流れるのを見た。紅い花である。


「腹がつっぱる」

とうずくまるキクチサヨコから、

「わしゃ知らんぞ、わしゃ知らんぞ」

と言ってマサジは逃げてしまう。



また店に戻ってマサジはサヨコに言う。

「店を畳んではどうじゃ」


津部が釣りの帰り、山道を降りてゆくと、キクチサヨコをおんぶして山を降りるシンデンノマサジをみかける。


マサジはサヨコに言う。

「のう、キクチサヨコ」

「うん」

「眠れや・・・」

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