第40話 さらばわが愛/覇王別姫

1993年香港映画です。


アジアの映画で、これほどダイナミックで、圧倒的な美しさと力強さを持った作品を私は知らない。


物語は、1920年代から70年代にかけての中国の時代背景とともに、京劇の名作「覇王別姫」を演じる女形で同性愛者の蝶衣と、男役の小楼、それに元娼婦の小楼の妻を通して、愛と憎しみを正面から描いた大作だ。


この映画は、何よりもカメラワークが素晴らしい。構図や色彩は勿論、その鮮烈で生き生きとした画面の動きが、作品に稀有の躍動感を与えている。


そして女形の、当時人気絶頂だったレスリー・チャンと、中国のトップ女優コンリーなど、出演者たちの魅力も特筆に値する。


同性愛の方は、これを見てレスリー・チャン演じる蝶衣の苦悩と嫉妬、孤独と愛に特に深く共感されるのではないだろうか。


物語を簡単に書くと、娼婦をしている母親が、9歳の少年蝶衣を京劇の俳優養成所に連れてくる。少年は指が6本ある多指症のため、入門を断られるが、母親は無理やりその指を一本切り落とし、養成所に置いていってしまう。


養成所では毎日想像を絶する厳しい訓練が行われていたが、その中で少年蝶衣は、男らしい少年小楼に何かとかばわれ、面倒を見てもらい、いつしか愛情に似た気持ちをいだいていく。


やがて大人になった2人はコンビを組み、京劇「覇王別姫」で大成功を収める。

しかしその直後、蝶衣は金持ちの老人に犯されてしまう。


2人の「覇王別姫」は、北京で大人気を得たにもかかわらず、この頃から小楼は芝居と実生活を切り離して考えるようになり、遊女である菊仙(コンリー)を妻にめとる。


蝶衣が激しい嫉妬に苦しんだことは言うまでもない。


やがて日中戦争、そして共産党の台頭、文化大革命へと変化していく時代の中で、日本軍の将校との関わりや、文化大革命の中での紆余曲折など、3人の愛と憎しみ、菊仙の流産、周りの人々との関わりとドラマが綴られていく。


いつか、激動の時代が過ぎ去り、平和がやってくるのだろうか。


この映画は、決して日本を悪く描いていないところにも好感がもてたし、こうした映画は、今の時代、もはや言論統制が厳しすぎてとても作れないと思う。


またいつか、こうした名作を作れる時が来るのだろうか?


カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した。


同じアジアの名作という意味では、オススメの1本です。

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