第37話 死刑台のエレベーター

1957年のフランス映画です。


まず、一言でいえば、サスペンス映画の金字塔と謳われ、まさにヌーベルヴァーグの先駆けとなった作品、それが「死刑台のエレベーター」だ。


といっても、ヌーベルヴァーグという言葉をご存じない読者さまもおられるだろうし、私自身、その概念を正確に語れと言われれば、いささか戸惑ってしまう。

そこで少しだけ、ウィキペディアからの引用をお許しいただきたい。



広義には、撮影所(映画制作会社)における助監督等の下積み経験なしにデビューした若い監督たちによる、ロケ撮影中心、同時録音、即興演出などの手法的な共通性を持った一連の作品を指す(ウィキペディアより)



しかしこれはあくまで広義にであって、ヌーベルヴァーグは日本語に訳すと新しい波、つまりは漠然とした意味ではあるが、フランスから、1950年代末に映画界の新しい波がどっと押し寄せた、と思っていただければ、当たらずとも遠からずだと思う。


その、ヌーベルヴァーグの先駆的な作品を作った監督は、弱冠25歳のルイ・マル。


私がこの映画を見たのはもう40年も前のこと。しかしだからといってこれを読む気を失わないでいただきたい。

だって、私は40年も経っても、まだ、その最初のカットを鮮明に覚えている。


それは、人妻ジャンヌ・モローのアップだ。電話で話している。話の相手は恋人のモーリス・ロネ。この映画のモーリス・ロネは最盛期にあったのではないか、と思うほど、実にいい男なのだ。


「愛してる」


これからモーリス・ロネはジャンヌ・モローの夫を殺すのだ。

そしてそれは夫の自殺に見せかけてまんまと成功する、と思いきや、モーリス・ロネはそのあとビルのエレベーターに閉じ込められてしまう。


「殺害はうまくいった。だけど、エレベーターが止まって動かない」

今なら携帯でひと言ジャンヌ・モローに連絡すれば済むところだし、ジャンヌ・モローもなんらかの方法でモーリス・ロネを助け出すことだってできたかもしれない。


しかし、時は1957年である。



ジャンヌ・モローは待てども待てども恋人からの連絡がないため、自分は捨てられたのか、と不安になる。

夜のカフェテラスに座ったり、酒場を、恋人を探して歩いたり、雷鳴の轟く雨の中、ジャンヌ・モローはパリの街をさまよい歩くのだ。


この、人妻の夜の彷徨はとても印象的だ。

そしてここで、ひとつ特筆すべきことがある。

それは、こうしたシーンで流れるジャズの調べである。


マイルス・デイビス(私はこの方をよく知らない)というジャス・トランペッターが、事前の打ち合わせも練習もなく、この映像を見ながら即興で吹いたという全編に流れるトランペットの調べは、ジャンヌ・モローのアンニュイな表情を何倍にも引き立てる。


ルイ・マルという人は、音楽のセンスが抜群なようで、この後の「恋人たち」ではブラームスを使い、「鬼火」では、まだその頃見向きもされていなかったエリック・サティの「ジムノペディ」を使って映画を盛り上げた。


付け加えるなら、あと撮影はアンリ・ドカエという人だ。この人は、のちに「太陽がいっぱい」や「シベールの日曜日」などを撮った名カメラマンである。


さて、ところで、これはサスペンス映画で、最初に殺しがあり、そのあとはさまようジャンヌ・モローばかりが登場するわけではない。二転三転するドラマがあり(これからご覧になる方のために、そのドラマはあえて書きません)、その最後に、2人はどうなるのか?


この映画をご覧になって、ガッカリされるか、面白かったと思われるか、ちょっと読者さまの反応は私には想像つかない。

というのは、私自身、もう40年もこの映画を観てないのだから。


本来なら、これを書く前にもう一度、面白いか、面白くないかくらい、作品を観て確認すべきところなのだろうが、それをしなかったのは、実は少し、久しぶりに観てガッカリするのが怖かったせいもある。


しかしこの旧作はブルーレイで出ている。

仮にさほど面白くなかったとしても、フランス映画史の一端に触れ得ることは間違いない。


尚、今回は、いつもこの拙いレビューを読んでくださる柊さまに、私が取り上げて欲しい映画はありませんか、ともちかけて、柊さまからリクエストをいただいた。

柊さま、どうもありがとうございました。

私としては一生懸命書いたつもりだが、読者さまが満足できるものになったかどうか・・・


というわけで、この映画、私も近々観てみようと思ってます。

懐かしいなあ。


それと・・・読者さまで、この映画を是非取り上げて欲しい、というリクエストがありましたら、コメント欄に書き込んでください。


もしも、もしもですよ、私が書けそうな作品でしたら喜び勇んで取り上げますので。苦手な作品だったらご容赦ください。

それでは、また。

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