第2部 資料やDVDを観て

第36話 カッコーの巣の上で


1975年のアメリカ映画です。


さて、どこから書いたものか。


刑務所での強制労働を逃れるため、精神錯乱を装い、オレゴン州立精神病院入院した主人公と、入院している患者たちとの関わりと繋がりを描いた作品だ。


病院はラチェッド婦長を中心に統率されており、その意味では抑圧や管理体制への反発、あるいは権力への反抗と捉えることもできるだろう。


しかしあえて紹介すると、ミロス・フォアマン監督は次のように言っている。


『この作品で私が描きたかったのは、体制告発でも精神病院の恐怖でもない。人間とその存在の素晴らしさだ』


実際、映画の中で、ラチェッド婦長は主人公に対し、そこにいる皆は強制入院ではなく、自ら進んで入院しているのだということを明かす。


強制入院であれば、物語としても私は体制批判の匂いを感じつつ物語の鑑賞をすすめたかもしれない。

しかし、皆が自らの意思で入院しているとなると、ミロス・フォアマン監督の言葉通りに受け取るしかない。


たとえば、その言葉を証明するように、実際ジャック・ニコルソン演じる主人公は、病院に来るなり、皆でワールド・シリーズをテレビ観戦することを提案する。

それが婦長によって阻止されると、皆でバスケットに興じるだけでなく、自ら突発的に皆を乗せたマイクロバスでドライブし、そのままクルーズ船を乗っ取って沖に出て皆に釣りを教えて大騒ぎする。

人間らしい、皆の素顔が素直に共感できる。

ミロス・フォアマン監督の言葉を、ここでは実感せざるを得ない。


その結果、主人公は治療の一環として電気ショック療法を受けることになるのだが、その時大男チーフと特別深い繋がりと互いの理解が生まれることになる。


主人公はある日大男チーフに、一緒にカナダに逃げよう、と持ちかける。


しかし旅立ちの夜、ガールフレンドたちを病院に呼び込んで酒を飲み、大騒ぎの一夜を過ごし、皆は喜び楽しむのだが、とんでもない結末へと一気になだれ込んでんでいく。


私が初めてこの作品を観た時、ちょっと印象深いが実際何かを批判するような作品とは思わなかった。

今回見てみて、やはり印象深い映画ではあるが、最初に書いた通り、体制批判の映画とも、現代社会の批判とも思わなかった。


つまりは管理社会の歯車になり、体制の中にしっかり組み込まれ、物を消費し、マスコミに踊らされ、それでもそれを当然と思って生きている自分がここにいる。そしてこうした映画を観ても、それを何とも思っていない自分がここに確かに生きている。

そのことを強く実感させられるだけで、とはいえだからどうということもないのがちょっと恐い。


そして、実は、心の奥底では、それが寂しい限りなのだ。


この作品は、アメリカン・ニューシネマの傑作として、アカデミー賞5部門を受賞した。今でも不朽の名作と称えられている。

しかし私はヒューマニズムみたいなものは全く感じなかったことを付記しておきたい。


付録


付録というのも少し変だが、このレビューを公開後、以下のようなコメントをいただいた。烏丸千弦さまが書かれたものだが、アメリカンニューシネマの解説としてとても簡潔だと感じたので、烏丸さまに了承を得て、ここに掲載させていただくこととした。


〈烏丸さまのコメント〉

アメリカン・ニューシネマが話題になっていたようですので、私もちょっと失礼して浅学ながらコメントさせていただきます。


アメリカン・ニューシネマの時代って、アメリカはヴェトナム戦争が昏い影を落としていて、ヒッピームーブメントなどもあって反体制の空気が濃かった時代ですよね。そんななかで、ある枠組みからはみだしたアウトローな登場人物たちが、アメリカは決して夢の叶う自由の国じゃない、これが現実だ、ってところで悩み足掻く様子を見せつつ、それでもたくましく生きていこうとする様を描いたものが、当時の若者にはリアルで受けたんじゃないのかなと思います。そのへんは、〈カッコーの巣の上で〉よりも〈イージー・ライダー〉や〈真夜中のカーボーイ〉あたりのほうがわかりやすい気がします。

なんというか、退廃のなかで開き直っている感じが好きなんです(バッドエンドが多いですが。。。。

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