第4話 男と女



1966年のフランス映画です。


これをお読みになってらっしゃる作家さまは、小説を書く時、細かい部分まで綿密に練り上げてから書かれるほうだろうか。それともざっくりと、大筋だけ決めて、頭の中で即興的に物語を組み上げながら書かれるほうだろうか。


映画でも、大きく分けてそこの所は2通りあるようだが、私はこの映画に限っては、相当に計算し尽くし、練り上げて演出したのだろうと漠然と思っていた。


ところがDVDを借りてたまたまそのメイキング映像を見た時、初めて逆であった事を知り、驚いた。


どうやらクロード・ルルーシュ監督は、細かい点はあまり決めないで、即興での演出や俳優たち(子供も含めて)の演技を重視して作ったらしいのだ。


それを知って改めて見ると、俳優たちが自然で生き生きとしている気がする。

どこか、弾むような軽やかさがある。

そしてそこに、あの有名な、ダバダバダというスキャットが重なって、この名作は生まれたのだ。


映像も、白黒の画面を多用しているが、何よりも見た目に美しく、洗練されている。


創作というものは、何を、どのように描くか、ということが問題だが、何を、はさておき、どのように描くか、という点で、この作品は物語も含めて完全に成功した。


で、その何をだが、それは男と女の心の機微を、ということになると思う。


最後になったが、物語に簡単に触れておくと・・・


過去に事故でスタントマンの夫を失ったアンヌ(アヌーク・エーメ)は、ドービルという町にある寄宿学校に娘を預けている。一方、妻を自殺で失ったカーレーサーのジャン・ルイ(ジャン・ルイ・トランティニャン)も息子を同じ寄宿学校に預けていて、ある日曜日、ふとしたきっかけで、ジャン・ルイの車にアンヌはドービルからパリまで乗せてもらうことになる。


つまり、互いに伴侶を失ったという心の痛手を負っている男女の、出会いと交流、そして心を通わせるまでが細やかに描かれている。


つい最近、この作品のスタッフ、キャストが再結集して、53年後の2人を描いた『男と女 人生最良の日々』という映画が公開された。


果たして、正直なところ53年後なんて描いてほしくなかったと思い、私はまだ観ていない。

老いた2人を見て、ガックリするのが恐いのだ。

観たい気もする。

迷うところなのである。

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