第20話 文学っぽい例えだな。
「みゆり、今起きたみたいだな」
午後の休み時間、直人は僕の席にやってくるなり、口にした。おそらく、また、SNSでメッセージでも来たのだろう。僕にはなかったけど。
「そうなんだ」
「とりあえず、透が今日来ることは伝えおいた」
「で、返事は?」
「『そうですか』だってさ」
「微妙な反応だね……」
「まあ、前の『何で、透先輩が来るんですか?』よりはマシなんじゃないのか?」
「それはそうだけど」
僕は言うなり、机に突っ伏した。
「みゆりは僕のことをどう思っているのか、全然わからなくて……」
「前に、『別に、嫌いじゃありません』って言っていたからさ、そこらへんは気にすることじゃないんじゃないのか?」
「でも、本心はわからないと思うし」
「だったら、本人に聞いてみればいいんじゃないのか?」
「そんなこと、変に誤魔化されて、答えてくれなさそうだし」
「透さ……」
直人は呆れたような声をこぼす。
「少しは自分に自信を持ってもいいと思うけどな。みゆりとSNSするくらいになったんだからさ」
「まあ、それはそうだけど」
「前にも言ったけどさ、透とみゆりが付き合うことになっても、俺は特に反対とかしたりしないからな」
「また、その話?」
「だけどさ、みゆりのこと、嫌いじゃないんだろ?」
「まあ、うん」
歯切れ悪く答える僕に対して、直人は笑みを浮かべる。
「ならさ、聞きたいことは聞けばいいと思うけどな。みゆりだってさ、それで嫌いになることはないと思うしな。まあ、冷たい言葉で帰ってくるかもしれないけどさ」
「それだよね。僕のことを嫌ってなくても、言葉がナイフみたいに僕の胸に突き刺さる感じが痛いんだよね」
「おっ? 文学っぽい例えだな。さすが、これから小説を書こうとしてる奴は違うな」
直人は言うと、僕の背中を何回も勢いよく手で叩く。僕は咳き込んでしまうと同時に、体を起こして、直人と顔を合わせた。
「とりあえず、何かミステリーっぽいものでも書いてみようかなと思ってるよ」
「おう、頑張れ。俺も何か書いてみるか」
「じゃあ、同じタイミングでみゆりに読んでもらう?」
「いや、それはいい。みゆり、けっこう厳しくコメントしそうだしな。俺はそういうのいいしさ」
「そうなの?」
「何となくそう思うだけだ」
「いや、僕も何となくは感じてるけど、実際そうなると」
「だからさ、応援してるぞ。透の小説をさ」
直人は言い残すと、僕の席から離れ、教室から廊下へと出ていった。多分、トイレだろうけど。
僕はおもむろに黒板の上にある丸時計へ視線をやる。
「後数時間でみゆりと会うのか……。何か、嫌になってきたな……」
つぶやいた僕は、再び机に突っ伏してしまい、眠りこけてしまった。
次の授業、数学の先生に教科書で頭を叩かれる間まで。
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