第19話 ポジティブだね、直人は
翌日。
昨日みゆりと別れた十字路に行けば、直人しかいなかった。いつもなら、ここで落ち合ってから、揃って登校をするのだけれど。
「みゆりは?」
「今日は休むってさ」
直人は言うなり、僕とともに学校の方へ向かって、歩き始める。
「何か徹夜してたみたいだな」
「ああ、なるほど」
「何がなるほどなんだ?」
「いや、昨日の夜、みゆりとSNSしてたから」
「そうか。で、どうだったんだ?」
「別にまあ、小説のことでちょっと話しただけ」
「ちょっとで徹夜してまでSNSするか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「ってことは小説を書いていたのか」
「みゆりから聞いたの?」
「ああ、昨日聞いた。それで、透の小説を読む交換条件で投稿サイトのアカウントを教えるとか言ってたな」
直人の言葉に、僕は笑みをこぼした。
「こうなると、ますます、小説を書かないといけない状況になってきたね」
「もはや後戻りはできないってことか?」
「まあ、僕はそうする気はないけど」
「で、小説はどうなんだ?」
「とりあえず、みゆりおすすめのラノベは一冊読み終わった」
「何読んだんだ?」
「『黒の境界線』」
「それか。二重人格のヒロインが幽霊やストーカーを相手に事件や揉め事を解決していく奴か」
「読んだ?」
「前に読んだな。読後感はまあ、色々続きが気になるってところだな。みゆりは最後まで読んだらしいけどさ」
「そうなんだ。次の巻もあるなら、借りてみようかな」
「何なら、帰りに家寄るか?」
「いや、いいって」
「むしろ、寄ってもらいたいんだけどな。みゆりを元気づけるっていう意味合いでさ」
「僕はそんなことできないと思うけど」
「できなくてもさ、来てもらわないよりはマシだと思うけどな」
直人の声に、僕はおもむろにため息をこぼしてしまう。
「直人も大変だね」
「まあな。まだ、不登校になっていないだけ、大丈夫だろうと思うけどさ。俺だって、学校が好きというわけじゃないしな」
「それ、僕が同じことをみゆりに言ったら、怒られたね」
「みゆりの場合は、体調が悪くなるぐらいだからな。俺たちと違って、デリケートなんだろうな」
「だね」
「だからさ、放課後、家に寄ってくれ」
直人は両手を重ねて、お願いしてくる。僕は「わかったよ」と返事をし、スマホを取り出す。
「みゆりからメッセージがある」
「俺にはなかったな」
「えーと、『透先輩のせいで徹夜してしまいました』ってある」
「そうなのか?」
「まあ、間接的には」
「そうか」
直人は言うなり、僕の肩を軽く叩いた。
「とりあえず、気にするな。むしろ、SNSで気分転換をさせてあげたんだからさ、むしろ、みゆりにとって、よかったかもな」
「だけど、今日は学校休みなんだよね?」
「それはそれだ。無理に学校行かせて、逆に不登校なったりするよりはな」
「ポジティブだね、直人は」
「そう考えないとさ、みゆりと向き合えないからな」
真面目そうに答える直人は僕と目を合わせてきた。
「だからさ、放課後にみゆりと会う時は色々と相談とか乗ってもらってほしい。まあ、本人がそういうことを透に言う段階ではないかもしれないけどさ」
「そういえば、照り焼きチキンパン、まだ奢ってもらってないんだけど?」
「透さ、ここでそういうこと言うか?」
直人の声に、僕は「冗談だよ」と言葉を返す。
「僕にとっても、みゆりとは真剣に向き合おうかなって思っていたりするからね」
「さすが、透。腐れ縁だけはあるな」
「それはあんまり関係ないと思うけど?」
「細かいことは気にするな」
直人は口にすると、表情を綻ばした。
にしても、みゆりはどういう小説を書いているのだろうか。僕は放課後、家で会う時に聞いてみようと内心で抱いていた。
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