第12話 明日からしばらく家出してもいい?

 ショッピングセンターから家に帰った後の夕方。

 スマホにて、直人から電話があったので、出ることにした。自分の部屋にあるベッドに寝転がりつつ。

「今日はありがとな」

「いや、別に」

「大変だったな」

「まあ、うん」

「小説を書くとか、透、そんな趣味ないだろ?」

 直人にウソをあっさり見抜かれ、僕は笑うしかなかった。

「ちなみに、みゆりはウソだと思ってないみたいだからな」

「そう、なんだ」

「で、実際は趣味とかあるのか?」

「いや、ないね……」

「だろうな」

「みゆりって、本とか読むんだっけ?」

「まあ、ちょちょくな」

「そうなんだ」

「ちなみに、本当は趣味がないことを白状するのは?」

「それはちょっと……」

「まあ、確実にみゆりに嫌われる、いや、もっと嫌われるだろうな」

「そこのあたり、直人がフォローできたりとか」

「難しいな。みゆりさ、けっこう、透の小説を読むの楽しみにしてるっぽいからさ」

「そんなに?」

「ああ。家からの帰りでも、『透先輩がどういう小説を書いているのか、すごい気になります』とか言ってたからな」

「ねえ、直人」

「何だ?」

「明日からしばらく家出してもいい?」

「唐突だな」

「これから、みゆりと顔を合わせるのがいつもより嫌になってきて」

「なら、ウソだと白状して、謝るしかないんじゃないか?」

「それはそれで」

「俺が何かしらフォローするからさ」

「……ごめん。そういう勇気、僕にはない」

「なら、小説を書くのか?」

「それしかないかなって」

 僕はため息をつき、ベッドで仰向けになり、部屋の天井を眺める。

「それに、これをきっかけにそういう趣味を始めてもいいかなって」

「おっ。急に前向きな言葉が出てきたな」

「無理矢理でも、そういう気持ちにならないといけないかなって」

 僕は言うなり、勢いよく起き上がった。

「ってことで、何とか書いてみるよ。小説」

「そっか。まあ、頑張れ」

「ありがとう」

 僕はお礼を伝えると、後は適当な雑談をして、電話を切った。

 枕に頭を埋め、そばにスマホを置いてから、僕は頭を巡らす。

 とはいえ、まずは小説を書くにはどうすればいいのだろう。

 小説を書く力が必要なのだから、まずは本をひたすら読まないといけないのだろうか。小説家って、みんな猛烈に読書を親しんでいたとか、現代文で聞いたことがあるような。

「ということはまず、本を読むところか……」

 僕は口にしてから、本当に小説を書くことができるのか、不安になってきた。

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