Ⅵ:鬼役

 ――あれから、どれくらいの月日が経ったのであろうか?


 あの後、どうやらネジコは船で無事に逃げ延びたらしい……。


 そして、今では生き残っていた人間達を一つに束ね、そのリーダーとしてこれまでにない鬼への大規模攻勢に出ている。


 そのおかげか、最近は減少の一途を辿っていた人間達の数もわずかながら回復の兆しを見せ始めているくらいだ。


 一方、俺の方はというと……じつはまだ生きている。


 あの命を賭した自爆でもなんとか命だけは助かったらしい。


 もっとも、見てくれはもちろん、価値観やこの戦いに関する考え方もすっかり変わっちまったけどな……。


「ウォオオオオーっ!」


 近くにいた青い色の鬼が不意に大きな雄叫びをあげる。


 その声に青鬼の睨む方向へ目を向ければ、武装した人間達の群を確認することができる。


 その一群の先頭には口元に深緑色のスカーフを巻いた少女――ネジコが小銃を肩に担いで立っている。


「来たか……ネジコ、今日こそおまえ達人間を壊滅させ、おまえも俺達・・の仲間にしてやるぜ……」


 俺は誰に言うとでもなくそう呟くと、赤い皮膚をした筋肉質の右手を高く振り上げる。


 そう……あの爆発の後、次に目を醒ますと俺は人間ではなくなっていた。


 ウィルスに感染するとともに命を取り留めた俺は、人間の生を終えて〝鬼〟へと変化したのである。


 しかも、超希少種の赤鬼だ。


 感染したウィルスもあの赤鬼のものであったし、自爆でバラバラになった俺を救ってくれたのも、どうやらアイツだったようだ。


 その恩に報いるためにも、俺は人間達とのこの戦いに負ける訳にはいかない……。


 この〝鬼ごっこ〟は、この地球ほしの食物連鎖の頂点をかけた、俺達〝鬼〟にとって絶対に負けられない戦いなのである。


「突撃ぇぇぇぇぇーき!」


 俺は雄叫びのような号令を口に赤い腕を勢いよく振り下ろすと、引き連れて来た鬼達を人間めがけてけしかける。


「撃てぇぇぇい!」


 他方、向こうでもネジコがそう叫ぶや人間達は小銃で銃撃を開始する。


 こうして、今日も俺達の〝鬼ごっこ〟がまたはじまる……。


                          (鬼ごっこ 了)

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鬼ごっこ 平中なごん @HiranakaNagon

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