higansugimade

 ある二人の女の子、KとUという学生の会話は、アスファルトの坂道を下って聞こえてきます。少し肌寒い曇り空の下ながら、アスファルトは昼日中の太陽の光の熱を貯金していて、ほんの少しだけ足下に還元してきます。

「虹と虻って漢字が似てますね」とKは言いました。

「なんで敬語なん?」とUは、Kのその口ぶりに素朴な疑問をつっこみました。

 なんでか? それはたぶん、話題転換に振った勢いの言葉だったからです。どうして話題転換を図ったか? それは、なんとなく気まずい雰囲気だったからです。でも、その気まずさは、KがUと一緒に歩いて帰ることができた喜びから、ついつい、言ってはいけない秘密を、Uに打ち明けてしまったことに、由来していたのでした。Kはあんまりにも嬉しくって、馬鹿正直になっていたのでした。おしゃべりというのは、ときどき、無性に、しゃべらないでおこうと決めたことをこそ、言いたくなるものです。誰が悪いというわけではなく、おしゃべりということはそういうことなのでしょう。しかしだからこそ、人は、いろんな人と、いろんなおしゃべりをするべきなのです。

 ところでKは、結局は、それを言えて満足なのでした。それとはなんだったのでしょう? 私は、ともかく、Kの名誉のために書かないことに決めました。

 Kは、でへへ、と笑い、Uはとりあえずいろんなものをうっちゃって、「なんでどっちも虫偏なんかな?」と、文字を思い浮かべながら、素直に会話を合わせてみました。Uはなかなか、機転が利きます。虹と虻の文字の違いも、ちゃんとそらで頭に思い浮かびます。

「さあ、なんでかなあ?」うふふ、と、Kは笑い、別の事を考えてます。話題を振ったくせに、てきとうなものです。

 Uもそのうち別のことを考えます。あらためて、学校の周囲の木々に目をやっています。そこそこ、鬱蒼としています。虫はけっこういそうです。なんなら虻もいるかもしれません。

 しかし、空に、その時、けっして虹はかかりそうにありませんでした。Uは今までに見た虹のことを考えてみました。雨とか、風とか、空が明るくなってきてからいよいよ出てくる虹というやつが、ちゃんとさわやかに感じられることとかを、自分の記憶の中から取り出してしっかりと思い浮かべてみたら、落ち着き始めた天候の中で、虹は、ちょっとしたプレゼント包装のリボンのように思われるのでした。うん、そういうふうに考えられるな、と、Uは心の中でひとりごちました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

higansugimade @y859

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ