最終話


「青井礁瑚。えっと、ショウゴ・アオイ」


 自分の名前を告げてみると、ファロリートは何故か困ったような表情になっていた。


「ええと、ショウゴ。そこに水場があるだろう。ちょっと、自分の顔を見てこい」


 ファロリートに言われるがまま、指さされた方向へと足を運んだ。何故ここに大泉があるのか知っているか聞いてみた。


 昨日、三人はここをキャンプ地としたらしかった。


 それに気づけない自分は、すずむし程度の脳みそを持っているに違いないと思った。


 夜釣りでも寝釣りでも出来そうな、広い大泉だった。


 何かの動物が水浴びしていたのを見て、背筋に色々なもんが走った。もしかしてトラじゃないかって思ったから、ファロリートに声を掛けた。


 万が一の為にバリケードが何か作れないとも聞いてみたが、単なる鹿でしかなかった。


 シカでした。


 そして、私は馬鹿でした。


 大泉は陽光で輝いて、本当に鏡みたいな水面だった。それに映った自分の顔を見て、控えめに言ってかなり驚いた。


「これって……」


 猫のような小さくて、つぶらな瞳。


 アルファベットのWみたいな、にゃんにゃんなにゃんにゃんな口。


 黄色い毛むくじゃらの身体は、何でそんなに黄色いんだよ。


 って思うくらいで、全体的に黒い水玉模様が散りばめられている。


 そして、頭の上には小さな耳。もしかして水面に映っているのは、今の自分の姿なのか。


「そうだ。お前は何故か知らんが、この世界に来て獣人になった」


 いつの間にか後ろに居たファロリートが、背中越しに声を掛けてきた。


「エンシェントクランが、そうなるのは例に無いことなんだが。……今のお前は哺乳族の獣人だ」


 獣人というのは人間族とは違う種族のこと。


 人型だが、猫や犬のような特徴を持つ哺乳族。


 同じく人型だが、ブルガリートみたくトカゲや蛇のような特徴を持つ爬虫族。


 ネズミのようなげっ歯族、魚のような魚族など。


 これらをまとめて獣人だと、ファロリートは言った。


 しかし、哺乳族っていうか、これじゃまるで。


「チーターじゃないか⁉」


 今の自分はチート能力者なんかではなく、動物のチーターになってしまったのだった。



――おしまい


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異世界チーター・アオイ 直行 @NF41B

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