第8話 戦い
走って走って、やっと城に着いた。
「ルファ!!」
扉を開くなり、声が勝手に出た。
「え、エリィ!? 国を出ろと」
「わたし、来たの。」
頭が回らないわたし。
ルファは困ったような表情を浮かべている。
「そうじゃな。来とるな。」
「あなたともう一度友達になるために!」
「そ、そんなことのために来たのか!?」
「うん。そう。あと、戦争を止めに。」
「帰れ。」
冷たい言葉のようだけれど、その言葉に棘は感じなかった。
「ねえ、ルファ。どこに行くの。」
ルファの手に縋る。
「敵国の魔導士を皆殺しにしに行くのじゃ。」
「どうしてそんなこと」
「こうするしかない。死にたくなければ出ていけ。」
振り払われた手を、もう一度ルファへ向ける。
「ルファはそんなこと出来るような人じゃないでしょ!? 本当はこんなことしたくないんだよね?」
その言葉にはわたしの願望が入り交じっていた。
「黙れ! お主に妾の何がわかる!?」
「分からないからここにいるのよっ!」
今度こそは離さない。そう思って、手により力を込める。
「ルファ! お願いだから、誰も殺さないで!」
そう言うとルファの動きが止まった。
「妾はもう随分人を殺しておる。じゃが·····償えるか?」
「償おうよ。はやくこの戦争を止めて。」
差し伸べられたルファの手を取ろうとすると、急に苦しみ始めた。
「ルファ!? ルファ!?」
「ーーーっ!」
声にならないような唸り声をあげて、ルファが倒れ込んだ。
誰かを呼ぼうとした時に不意にルファが立ち上がった。
「ルファ、良かった、大丈夫なの?」
返事が帰ってこない。
顔を覗き込んでみようとした瞬間、突き飛ばされた。
驚いていると、わたしに向けて、水魔法が撃たれる。何度も何度も。
もう何が何だか分からない。
「防御魔法! ルファ! どうしたの!」
不安でドクドクはやる心臓を押さえつけたかった。
口から臓器でも出そうなくらい、気分が悪い。
「雷撃。」
それだけ撃つと、外へ出ていってしまったルファ。
このままじゃ、戦いが始まってしまう。
同時に攻撃を止めてもらわないと、どちらかがやられてしまう。
「ここで考え事とはいい度胸ですね。」
「だ、だれ!?」
赤髪赤目の男の人が現れた。
「私の名前はコリード。大魔導士の1人です。」
「大魔導士の·····。」
「先に殺してから食べましょうかね。それでは、さようなら。炎魔法。」
杖が遠くにある。間に合わないっ!
目を瞑った。
·····。
死んで、ない?
わたし、生きてる!?
「よォ、半人半魔ァ。」
目の前に剣を構えたエスポワールがいた。
「え、エスポワール!? どうしてここに」
助けて、くれたの?
「お前、もっと言うことねェのかァ?」
「あ、ありがとう。」
「で、何やってんだよォ。殺し合いかァ?」
「違うわ。この、コリードっていう人がわたしのこと殺そうとしているだけで·····。」
再び剣を構えるエスポワール。
コリードを睨みつけた。
「悪ィけど、コイツを殺すのは俺なんだよなァ。」
「野蛮ですね。これだから人間は嫌いなんですよ。」
「俺だって魔導士は嫌いだ。」
「エスポワール。」
「ほら、さっさと行けよ。集中できねェだろォ?」
「あ、ありがとう。」
エスポワールに背を向けて走り出した。
わたしは両軍の魔法道具の中枢の宝石を同時に割ることにした。
出来るか分からないけど、やるしかない。
当てもなく城の中をうろうろしていた。
この間のを参考にすると、噴水かしら。
でも、何処へいけども宝石は見つからない。
「何を探しているのお?」
間延びしたおっとりした声が聞こえてきた。
振り返ると赤い髪の魔導士が立っていた。
手には宝石が握られている。
「もしかしてこれが欲しいのお?」
「そ、そうよ。」
「だぁめ! これは神官様がワタクシに預けてくださった大切なものだからあ。」
「わたしにも大切なものなの。」
「じゃあ、殺すう·····!」
気がついた時には赤髪魔導士はわたしの後ろにいた。
「しまった!」
「水流波。」
「防御魔法!」
間一髪防ぎきれた!
相手は多分、水魔導士ね。
「少しは戦えるようですねぇ。」
美しい笑みを浮かべ、呟いた赤髪魔導士。
水には植物が1番効く。でも、そんなものはこの城にはない。
「水爆。」
「もう一度、防御魔法!!」
すごいスピードで飛んできた小さな水は、わたしの近くへ来ると大きな爆発を起こした。
「しぶとい。しつこい。」
やってみるしかないわ。
「成長魔法!!」
相手の手に向かって魔法を撃つ。
「どこに向かって撃ってるんですかぁ? 気でも狂ったようですねぇ。」
「それは、どうかしら。」
「っ!?」
わたしが放ったのは手に向けてじゃない。持っている宝石に撃った。
みるみる大きくなる宝石が手に負えるはずもない。
「はやく、手から離しなさい!」
「いえ·····!」
とても驚いた。
どんなに宝石が大きくなっても手から離さないの。
やがて、支えきれなくなった宝石は、赤髪魔導士の手を敷いたまま、床にめり込んだ。
「あなた、何をやっているの!?」
「この命、神官様のために·····!」
この宝石を回収するには、この人を殺すしかない。
でも、そんなこと。
「宝石が欲しいのなら、殺してください。」
「·····。」
「神官様のために、生きてこられて、死ぬ時も神官様のためですう。」
わたしは、臆病者だから。人を殺せるはずがない。
でも、ルファ·····。
これで、友達に戻れるのなら。
目の前のこの人は眉ひとつ動かさず、その時を待っている。
「·····│
「なに、をお·····」
手から力が抜けていくのが見えた。
殺せなかった。苦肉の策で、コレを一か八かで使った。
「意気地ないよね·····。」
甘いな。わたしも。
わたしはここを後にした。
半人半魔の冒険譚 〜世界を救う旅へ〜 桜乃ありす @546alice
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