わび・さび・ふぉとぐらふ

紅陽(くれは)

4月 『趣味に特別さは必要はない。』

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「写真なんてどうかな!」

「写真なんて何時でも撮れるじゃん。」


俺達はある事情から、これから始められる趣味を模索していた。

ちょっと、趣味というには普通過ぎたのだろうか。


いや、でも…。


そうなんだけど…そうじゃなくって…!


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<<1-1>>

俺達はいつも4人でつるんでいる。

その筈だったけど、今は少し状況が変わってきている。

本当は地元の中学を卒業した後は皆バラバラになる筈だった。

たが、なんと全員受験に失敗。滑り止め先にて4人組は目出度く(?)再結成を果たすこととなった。


それはまぁいい、仕方ない。


でも、問題は他にあった。

皆、希望進路に合わせて別々のクラスと時間割に分けられてしまったのだ。


俺『稲葉聡いなば さとる』は付属大学にエスカレーター式の、一般進学クラス。


頭良い眼鏡『金谷満かなや みつる』は難関大学への進学を目指す、特別進学クラス。


国際交流に興味のある『根本翔ねもと かける』は、国際関係クラス。


運動が得意な『熊谷剛くまがや つよし』は推薦進学を目指す、スポーツクラス。


進路どころか時間割すら異なる中、僕達が集まれる時間は月日を重ねる毎に減っていった。

最初の内は登校から下校まで、授業以外は一緒にいたが、いまや全員で時間を合わせられるのは昼休みぐらいである。


翔「俺達、いつも一緒にいたのにさ、最近全然集まれなくなってきたね。」

俺「時間割バラバラだしねー。」

剛「じゃあさ、理由を作ればいいんだよ。」

満「時間が取れないって言ってるの、聞いてなかった?」


俺達はいつもこうだ。

翔の切り出した話題に対して、剛が思い付きで突拍子のないことを口にし、それに対して満が軌道修正をして…翔が話題をもう一度整理する。

翔は行動派、剛は感覚的、満は思考型…皆見事にバラバラの性格だ。


翔「朝は剛が部活だし、満は授業が一時間多い。

  僕と聡は時間割自体は殆ど一緒だし比較的合わせやすいんだけどね…。」

俺「うーん…。」

剛「別に平日に拘らなくて良いんじゃん?」

俺「あぁ、土日なら皆休みだしね。」

満「いや、俺…。土曜日は午前中授業なんだけど…。」

翔「あれ?剛も午前は部活じゃなかったっけ?」

剛「あぁ、そうだったわ!でも午後から暇だよ!」


あれ?気付いてしまったけど、もしかして俺って暇な高校生なんでしょうか?いいや違う、その分自分探しで苦労してるんだから。


翔「実は僕も、午前は交流会で外出してて登校しない日があるかも。

  午後からなら問題ないと思うけど。」

満「何か、集まることは確定みたいになってる…。」

俺「ねー。」

満「そもそも何するつもりなのさ。

  宿題もあるし、疲れることはしたくないんだけど。」

俺「特進の宿題って、どのくらい出るの?」

満「んー…」


今日までの分だと、古文とリーディングの和訳に、数学の模擬問題、週2回放課後にある小テストの予習…と、満は指を折りながら教えてくれる。


翔「うわぁ。だるいねそれ。僕なら嫌。」

俺「俺も。」

満「で、何したいとかってあるの?」

剛「いや、な~んにも考えてない!」

満「えー…。」

剛「皆で出来て、気楽なもの!」

俺「気楽なものか…。何だろうね。」

翔「ただ駄弁るだけならいつもと変わんないもんね。

  あと、少なくとも身体を動かす事じゃないんだろうね。」

剛「聡は何かやりたいことある?」

俺「うーん、分かんないや。ってか、何で名指し?」

剛「だってさー。一番時間ありそうだし。」


あぁ!傷付いた!どうせ無目的な人生歩んでますよ、俺!!


翔「まぁ剛は今が楽しそうだし、満は忙しいから気が乗ったらで良いんじゃないかな?

  僕も、一番やりたい事は学校で出来てるし、正直特に希望は無いかな。

  聡、何かやりたいことない?」

俺「俺ー…?」

翔「何でもいいと思うよ。皆合わせるし。なぁ?」

剛「うん!」

満「まぁ…。」

俺「そうだなぁ。」

翔「じゃあ、宿題ってことで!」 


翔が席を立つと、授業5分前を知らせるチャイムが食堂の喧騒を掻き消した。

皆で慌てて食器を片付け、駆け足で各々のクラスへと戻っていった。


俺のやりたい事。

皆でやれる事、か。

旅は…駄目だ。

時間もお金もかかり過ぎる。

バンドとか格好いいかなぁ?

練習大変そうかなぁ?

何か創作する…?

いやいやいやいや…。

この4人、芸術的感性は皆無だ。

そしたら…あっ。

あるじゃないか。

今流行りのアレ!



<<1-2>>

俺「写真なんてどうかな?」

3人「「「は?」」」


頑張って考えたのに、酷く不評だった。


満「写真なんて何時でも撮れるじゃん。わざわざ集まってまでやることでも…。」


まぁ、確かに。

今時写真なんて誰でもスマホで撮れる。

嘗てはプロだけが持てる仕事道具であったカメラは、時代と共に普遍化していき、次第に家族に一台の持ち物へ…遂には一人一台あって当たり前のものになった。

そう考えるとお手軽に見えてしまって、大して特別なことでも無いのだ。


翔「何を撮りたいとかってある?」

俺「えっと、植物とか建物かな?」

3人「「「うーん?」」」

剛「俺、どうせ撮るなら、女の子の写真撮りたい!こーんな感じの。」


剛が体をクネクネし、ポーズを取る。

流線美を表現したいんだろうけど、男がやると何とも気持ち悪い。


剛「なんなら、隣町の畑でセクシー野菜を探す旅!とか?」

俺「いやいや…色々と問題あるから!そもそも言いたいのはそうじゃなくってさ。」

翔「え、まだ続きがあったの?その辺の草花撮って歩くだけなのかと思った。

  もっと詳しく教えてよ〜。」

俺「これ。」


俺はポケットからクシャクシャに畳んでいたプリント用紙を取り出し、皆に配った。


翔「なんだ、準備してあるんじゃん。言ってくれればいいのに…。」


そこにはお城や屋敷といった古風な建物や、池や色とりどりの緑に囲まれた庭が映っていた。


剛「おー、何か迫力あるね。歴史の勉強でもでもしに行くの?」


いや?


翔「あ、これ同じ場所?四季ごとの写真かな?しっかり植え替えられてるんだね。

  なるほど、そこを拠点にすれば色んな草花の写真撮れるってことか。」


まぁ、そうなんだけど…。


満「これ庭園だろ?塾行く途中に横通るんだけどさ。良いよな、粋だよな。」


あれ?予想外の奴が食いついてきた!


剛「庭園って何?普通の庭や山の中と何が違うの?」

満「山の中とは横暴だな。」

翔「よく見ると、なんか地形略図って感じに見えるかも?」

満「そう、例えばこの写真。グレーの砂の部分は枯山水って言って、

  水紋みたいな模様を描いて水の流れを表現してる。池の周りには小さな水路と

  岩肌があって、滝と川の流れを再現しているね。

  周りの植物はそれらを強調する役割を持っていて、日本ならではの松竹梅は勿論、

  桜や紫陽花、カキツバタ、ヒマワリ、コスモスとかを植えておいて季節毎に違った

  表現が出来るようにしてあるんだ。あとは、橋や祠があったり…。」

聡「あ、庭園って写真のやつのような日本式以外に、外国式もあるんだね。

  もしかして、国や地域毎に微妙に違うのかな?日本式だけでも種類がいっぱいあるんだね。」

満「建物の構造も時代の特徴が出ているし、当時流行った宗教・宗派に強く影響を

  受けてたみたい。あと、池の水面には周りの景色が映り込むんだけど、その意味

  はね…」


満が珍しく熱くなっている。

見兼ねた翔は満の肩を軽く叩き、話を静止した。

満はここからがポイントなのに…と口を尖らせている。


翔「ともかく、いいじゃん庭園。土曜の午後に集まって、庭園散歩!

  そしてカメラ持参。そういうことだよな、聡?」

俺「うん、そう。二人はどうかな?」

満「付き合うよ。一度ちゃんと行ってみたいって思ってたし。」

剛「いいよー!」


こうして~

俺達のゆるーい写真活動が始まりを告げた。

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わび・さび・ふぉとぐらふ 紅陽(くれは) @magentsun

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