2筋の光を君に

@Dorayakiumai

2筋の光を君に

「…………」


「…暇だ」


「...めっちゃ暇だ」


「とりあえず暇だ暇でしょうがない」


...と言ってもここが病院で、僕が入院中の患者であるため致し方ないことだ。


遊びに行こうとしても看護師に止められるだろう


...まぁ、遊びに行くほどの元気はないから結局同じ事なんだけどね。


「………はぁ」


僕以外誰もいない病室で1人ため息をつくのだった。




「………」


暇を持て余した僕はする事が無いので病院の中をうろうろしていた。


かなり大きい病院だから、すべて回ればそれなりの運動になるかと思った


現に、入院してから僕の体力が弱りつつあることからか少し歩き回るだけで身体中が悲鳴を上げていた。


まぁ昔から体力があるかと言われたらそうではなかったのだけどね


「……ふぅ」


立ち止まって息をつく


今僕がいるのは5階で他の患者の病室がある階だ


みんな病室にいるのか、廊下には誰もいなかった。


……1人を除けば


彼女は廊下にある椅子に座っていた。


僕は休憩がてらに彼女の隣に座った。


いや、べつに?下心なんてないよ?…ホントダヨ?


いや、可愛いとはね?うん、思うけどね


でも僕は、看護師以外と会話していなかったから他の人と話したいと思っただけだ。


……はたして僕は誰に言い訳しているのでしょうね。


「…………」


僕がそんなことを考えてる間、彼女はただ正面を向いている。


話をしたかった僕は自分から話しかけることにした。


「こんちわ、少し話し相手になって欲しいのだけどいい?」


「……………」


えぇ…無視って1番しんどいんやけど。


「ね、ねぇ?」


「……………」


ふぇぇ…しんどいよぉ…


声をかけても彼女は正面を向いたままで何も返そうとしなかった。


え、何なのだこの子は?コミュ障ですか?


そんなことを考えつつももう一度声をかける。


「さすがに無視されると僕のメンタルが悲鳴をあげるのだけど…」


「変な人と話すなと親に言われているので」


「変な人って…君には僕がへんたいふしんしゃさんとかに見えてるの?」


「まぁ、隣で下心がどうとかとブツブツ言っていたので。」


えぇ…あれ声に漏れてたのかよ


「そんな人を、普通の人間と判断するのはかなり無理がありますからね」


「うぅ…そう言われると否定しづらいな」


「いえ、否定しなくていいですよ」


彼女は笑顔でそう言う


…なんというかこの子めっちゃズバズバ言ってくるな、見た目は大人しそうなんだけどな。


「ん?今私の事毒舌女とか思いました?」


なんだこいつエスパーかよ、俺はただの人間にも興味あるから興味ない人のところに行ってらっしゃい……とも言えないのでそれを飲み込んで答える


「思ってないですよ」


「急に敬語になりましたね?図星ですね?」


「えぇ…君怖いのだけど」


あ、やっべついつい言ってもうた。


「凄いでしょ?私の読心術」


「まぁこんなのは読心術とは言えないんでしょうけどね」


「うーん僕には分かんないからな、そういうこと」


「貴方ってここで入院しているの?」


「そうだよ」


「もし暇しているのなら、またここに来ていいですよ?私はいつもここに居るので話し相手になって差し上げましょう」


「僕のような不審者とは話さないんじゃなかったっけ?」


「嫌なら結構です」


「冗談だって」


本当に性格悪いなぁ、この子


「実の所私も毎日暇なんですよ、貴方と一緒で」


なんか僕が毎日暇だと決めつけられたのだが事実なので何も言えねぇ。


「まぁ、別に無理に来いとは言いません」


「いや、また明日ここに来るよ」


そう言って僕は自分の病室に戻った。


こんな適当な出会いだけど、僕達は毎日話すことで関わりが深まっていった。


その時からかな?僕の入院生活が明るくなったのは。


……いや、<人生で>と言ってもいいと思う。




「……………」


「……………」


「いや、なんか話してくれない?」


「不審者は口を開かないでください耳に毒です」


「ひどくね!?」


「というか君が昨日、また来ていいですよって言ったんじゃないか!」


「それはそれ。これはこれです」


「君に国語を教えてあげたいよ……」


「私は高校生なのでその必要はありませんよ」


「ちょっと何言ってるか分からない」


「屁理屈ばっか並べて恥ずかしくないんですか?」


「その言葉そっくりそのまま返すよ」


てな感じで まぁ、内容は空っぽだけどそれを彼女と交していた。


そんな会話だけど久しぶりに看護師以外と話した僕にとってとても新鮮だった。


何よりとても楽しかった。


「それはそうとして、貴方って何歳なんですか」


「何歳に見える?」


「そういう質問すると嫌われますよ?……74歳」


「真剣な表情で考えてそんな心にくること言うな、あと笑顔やめろ」


「えーと、貴方の年齢ですか」


彼女は困った顔をして少し俯き、自信が無いようにこう言った。


「28歳くらい……ですか?」


いや、ちょっと待って俺も高校生なんだが?


しかもさっきよりも真面目な顔で言われたぞ?


俺泣くぞ!泣くよ?


「君に僕の顔はどう見えてるの…僕も高校生だよ」


「……すみません」


……?


「な、なんですか?」


「いや、急に素直に謝ったから驚いて。」


「私だって謝る時は謝ります!」


「まぁ、そうだけど…」


「はい!今日の会話はここまで!不審者は自分の部屋に戻ってください!!!」


「…拗ねた?」


「貴方のせいです」


「ごめんちゃい」


そう言って僕は席から立ち上がる、その刹那


視界が白く染まる。


自分が立っているのかすらも分からない程に。


「…………!」


彼女が何か言っているようだがぼんやりして聞き取ることが出来ない。


……まぁこうなるのは初めてな訳では無い。


以前にも何度か起こっていた。


まぁ、この子の前では初めてだけど


以前までは体調が優れない日によく起こっていた。


だけどこれはそこまで、心配ではないことを僕は知っている。


10~20秒もすればこの状態は直るから。


今日のだって例外じゃなかった。


現に段々と視界が戻ってくる。


そしていつも通りのように直り彼女の顔がはっきりと視界にうつった。


「大丈夫ですか!?」


「うん。大丈夫だよ、ごめんね心配かけて」


「あんまり無理したらいけませんよ?貴方だって病人なんですから」


「何も患っているのかは知りませんが」


「…知りたい?」


「それを知るのはあまり良くないでしょう?」


「ありがとう…助かるよ」


「じゃあ、僕は病室に戻るね。明日は話に来れないかもしれないけど心配しないでね」


「まぁ、貴方の心配なんてしませんけどね」


「こういう時は嘘でも心配するお約束でしょ…」


「冗談ですよ、ゆっくりしてくださいね」


「うん、ありがとう」


そう言い残して僕はその場を去っていく。


正直言うとかなり気分が悪くなっていた。


それにここ最近あの症状の頻度が上がっている


「はぁ…1度先生に相談した方が良いのかな?」


そう言って僕は病室へと向かうのだった




「………」


「………」


「…そのさぁ?初め無言なのは意味があるの?」


「意味があるからするのでは無いのですよ、する事全てに意味はついてきます」


「ん?大丈夫?頭でも打ったの?」


「1度でもいいからポエムっぽい事言ってみたかったんですよ」


「言っちゃ悪いけどポエムかどうかは微妙なところだけどね」


「てか、どうしてポエムを言いたくなったの?何?高校生にもなって厨二病拗らせてんの?」


「うっせぇな!」


「口調変わってんぞおい!」


てな感じの会話をいつも通り交していた。


もう僕達がこの階のこの場所で会話しているのはお馴染みの光景になっていた。


「ところで…」


彼女が真面目な顔して口を開いた。


「貴方、昨日倒れてましたけど大丈夫ですか?正直今日は話に来れないのかと思ってました」


「あーそれなんだけど今は分からない。と言うのも朝先生に相談してみてもらったから今は結果を待ってる感じだね」


「あぁ、なるほど…何事もないと良いのですが」


「お、心配してくれてるの?」


「貴方は私をなんだと思っているのですか?」


「少し口の悪いツンデレかな?」


「はっ倒すぞこのやろう」


「だからたまに口調変わってるんだけど!?」


「まぁぶっちゃけ、私もここまで素で話せるようになるとは思ってませんでしたよ。」


「それは同感だね」


あの日ここに来てよかったと僕は思う。


もし来てなかったら僕は変わらず一人で病室で寝続けていたとこだろう。


「だって初日があんなやりとりですからねぇ」


「8割は君に非があると思うけどね?」


「え?当たり前じゃないですかぁ」


「なんだそりゃ」


そんな感じで僕達は、馬鹿なやり取りを続ける


もっと続けたいけど今日はそうもいかない。


今朝受けた検査の結果を医者から聞かないといけないから。


とはいえ、今何時か僕には分からなかった。


そんな訳で僕は彼女に聞くことにした。


彼女の腕には腕時計があったから。


「ねぇ、今何時か教えてくれない?」


「………」


彼女は何も言わず時計を見つめる。しかしどれほど待っても彼女は教えてくれない。


「えっと…何時なんですか??」


「…申し訳ないのですが見てくれますか?私認知症を患っているので時計の読み方を忘れてしまって」


そう言うと彼女は僕の前に腕時計をかざした。


僕は時刻を確認した後


「ほんとに?」


と、心ないことを言ってみた。


本当だったら失礼だからねまぁないと思うけど


「嘘です」


「うん知ってた」


本当にこの子性格悪いなぁ


だからこそ会話するのが楽しいのだけど


…別にMじゃ無いよ?


でも今日はここまでか


早いとこ医者のところに行かないといけない。


「それじゃ時間だから医者の所に行ってくるよ」


「貴方に何も無い事を祈っています」


「それもポエムの1つ?」


「本気ですよ?」


「いや…まぁありがと」


嬉しかった、僕のみの心配をしてくれる人は周りに居なかったから。


彼女にはいい報告が出来るといいなぁ。


何もなかったという報告を。


そんなことを考えながら医者の話を聞いた。


でも…現実はそう思うようには動かないのだ。


僕が医者に告げられた言葉は


「余命2ヶ月です」


最悪な一言だった。




「………」


僕は今自分の病室で横になっていた。


昨日告げられた余命宣告。


なんだかなぁ


自分は死の宣告を受けた訳だけど、いまいちピンと来てなかった。


だって僕は死ぬとか考えれないほど元気だった


だけど、医者が言うには次にくる発作が山場となるらしい。


発作ってのは視界が白くなるやつね?


最悪な場合次の発作で死んでしまうらしい。


うーんよく分かんねぇな。


正直言うと死ぬ事に恐怖心は殆どなかった。


小さい時から入院生活だった僕にとってそんな日々は死んでいるようなもんだった。


僕が幼い時は友達や親も毎日お見舞いに来てくれた。


だけど年月が経つにつれ友達が見舞いに来ることは無くなっていた。


友達だけでは無い、親でさえもだ


本当、自分の親だけど信じられない。


まぁ、今更来ても鬱陶しいだけだ。


僕にとって彼女との会話は看護師以外と話していなかった僕にとって意味のあるものだった


こう言うのを有意義な時間というのだろう


そんな楽しかった会話もあと2ヶ月で終わりか…


「ははは……はは」


乾いた笑いと同時に僕の目からは涙が出ていた


あぁ…そうか 今分かった


今までは死んでもいいと思っていた、話し相手もいない退屈な日々だったから


でも…今は違う


今僕には彼女がいる


毒舌で性格が悪いけど僕のことを心配してくれる素を出しながら馬鹿なやり取りを出来る彼女が


そんな彼女がいたから僕の人生は生き返った。


あの日の病院の5階の椅子で


だからこそ僕は思う


「死にたく…ないなぁ…」


今までの僕が持つことのなかった感情


それが涙とともに出てきたのだ


「うぁ…」


僕は嗚咽を漏らす


こんな思いをするなら彼女に出会わず以前のように病室で籠っているべきだったのか?


…………いや


「違うな」


違うに決まっている


彼女との出会いは間違いな訳が無い彼女のおかげで僕の人生は楽しい光に包まれたのだから


彼女との会話はすべて楽しかった


なら最後まで楽しもう


彼女との会話にシリアスなんて要らない


だからこそ…


僕は自分の余命については伝えない。


そろそろいつも会話しに行く時間になる


当然今日も行く別に体調が悪い訳でもないから


まぁ、涙で酷くなったこの顔を何とかしないとね。


はっ 流石にこの顔では会いに行けないなぁ


そんなことを考えながら僕は立つのだった。




「やっほー」


「えぇ…どうしたんですか?頭ぶつけました?」


「まぁなんだ、人生楽しんだもん勝ちだと思ってね」


「なんか知んないけど、その感じだと昨日の診断結果は良かったみたいですね」


「…うん ただの貧血でめまいが来てるだけだって」


「そうですか 本当に良かった」


彼女は嬉しそうにそう呟いた


正直言うと心が痛い心配させないとはいえ、今僕は嘘をついているのだから。


それに…2ヶ月後に…僕は


それを知った彼女の反応が目に浮かぶようでとても辛い。


「…………」


「どうしたの?」


「少し、聞いて欲しいのですが」


「うん?」


彼女は重い表情でこう告げる。


「実は…私も昨日は診断結果を聞く日でした」


「その結果が実を言うとあまりよくありませんでした」


「よくなかったって?」


まさか…余命宣告とか無いだろうな?


そう思いつつ問いかける。


「診断結果の前に貴方に言う事があるんです」


「言うことって?」


「実は私…」


「ほとんど目が見えないんです」


「………え?」


その一言に僕の思考は停止した。


彼女からの告白に僕は驚きを隠せなかった。


だって、今まで普通に話し合えてていた。


「28歳…くらいですか?」


「…申し訳ないのですが見てくれますか?私認知症を患っているので時計の読み方を忘れてしまって」


…あぁ


今思うとあれらもそういう意味だったのか。


僕が考えてる間にも彼女は語る。


「正直言うと貴方と初めて会った時には顔も見えない状態でした」


「分かるのはそこに貴方がいるかどうかくらいでした」


「それは…治らないのか?」


「………」


聞かない方が良かったと思う


治らないのならその質問は彼女を傷つけるだけだった。


どうして何も考えずに口走ったのか。


何か言おうとして声を掛けようとしたその時彼女は言った。


「このままではほぼ失明するだろうと医師に言われました」


「ほぼ?」


「移植手術を受ければ治るそうです」


「それなら!!」


僕は思わず声を荒らげる


「そんな簡単にはいきませんよ」


そう、移植するということはドナーが必要だからそんな簡単な話ではない。


「もう良いんです、失明しようが今と大差ありませんから」


彼女はそう言い微笑んだ


でもその声は震えていた


「諦めたらだめだ、まだドナーが見つかるかもしれない」


「慰めてくれるんですか?大丈夫ですよ、目が見えなくても貴方とはこれまで通り話せますから私はそれだけで満足ですよ」


「……」


そんな彼女の言葉で僕の目に涙が浮かぶ。


僕だってこのまま話していたい


…だけどそれは出来ない


この会話もあと2ヶ月で終わるのだから


でもそんなことを彼女には伝えれない


そんなことを言うとまた彼女を傷つけてしまう


でも伝えなかったら僕が突然死んだことを酷く悲しむだろう。


僕は…一体どうしたらいいんだ?


「たとえこの目に光がなくても貴方が私の心の光なんですよ」


「そんなこと!」


「ちょっと…ポエムぽく言ったんだから突っ込んでくれないと困りますよ」


彼女はそう笑顔で言って明るい話をし始めた。


だけどその笑顔は作ってるようにしか見えなかった。


なんというか…毒舌で表面上の性格は悪いけど内面は優しい子だと僕は思う。


明るい話に切り替えたのも彼女なりの優しさなのだろう。


そんな感じで僕達はいつも通りになる。


だけど僕達の目には涙が浮かんだままだった。




「……」


彼女との会話を終えて僕は病室に戻っていた。


余命2ヶ月と言われただけもあり体力の低下が凄まじい。


でも、そんなことはどうだっていい


彼女。あの子の事が気になって仕方がない。


どうにか出来ないのか?


「移植手術を受ければ治るそうです」


「もう良いんです、失明しようが今と大差ありませんから」


絶対にいいわけがあるか


失明を逃れる方法はある。


だけど僕がドナーを見つけるのは不可能な話だ


「たとえこの目に光がなくても貴方が私の心の光なんですよ」


それは僕もだ。


彼女の存在は僕の人生の光と言える存在だ。


そんな僕が彼女の光になっていたとは思えない仮に僕が彼女の光でもこの光はもうすぐ…


……いや…そうか。


僕が彼女の心の光でいることはないんだ。


僕が…


僕が……


彼女の本物の光になればいいじゃないか。




そう考えた僕は早速医者に相談した。


「僕が死んだ後彼女に僕の目を移植させて下さい」


だけどその相談を医者は簡単に許してはくれなかった。


…それでも僕は1ヶ月間頼み続けるた


何度も何度も


彼女にはその事を告げずに


彼女と何気ない日々を送りその後頼み続ける


そんな日々を1ヶ月過ごした。


そしてある日


移植する事を認めてくれた。


と言っても、僕の目が彼女に適合するかは検査をしないと分からなかった。


そして僕はその検査を受けた。


結果は遅くても1週間後に分かるらしい。


つまり僕の余命はあと3週間という事だ。


良かったと思う


僕のタイムリミットには間に合いそうだ。


…だけどもうひとつだけ問題がある


それは彼女の目のタイムリミットだ。


僕が医師に頼み込んでる間に彼女から聞いた話だと


目が光を感じなくなった後…


つまりは失明した後に移植しても意味が無いらしい。


移植は失明する前でないといけないらしいのだ


だけど僕は彼女からいつ失明するかを聞くことが出来なかった。


それに彼女自信が目の話をしたくないようだったから。


医者に聞いても個人情報だと言われ教えて貰えなかった。


当然だと思う


これから移植するとはいえ今はなんの繋がりもない赤の他人同士なんだ。


だから彼女の目のタイムリミットに間に合うかは一種の賭けとも言える。


正直言うと不安だ。


僕の目が適合するのか、彼女の目が失明するまで耐えれるのか。


この2つが解決しない以上は安心できない。


そんな事もあり、僕はまだ彼女に移植の話は出来ていない。


…まぁ


「焦ったってしょうがないか」


そう自分に言い聞かせるように1人病室で呟くのだった。




「それにしても私と貴方が出会ってもう1ヶ月くらいですか…時の流れは速いですね」


「そう思うのは歳のせいかもね」


「は?」


「こっわ、俺泣くぞ?」


「勝手に泣いてろ」


「辛辣すぎん?」


僕達の会話はあれからも毎日続いてる。


彼女と会話していると僕の不安は紛れていくようだった。


きっと僕もこの会話を楽しんでいるからだろう


それでもこの会話があと一ヶ月後と考えると辛くなるけどね。


「そういえば…」


彼女はそう言って真剣な表情で僕に聞いてきた


「貴方はいつ頃退院出来るんですか?」


「…っ!」


言葉が詰まった。


なんと返すべきなのか?


真実を伝える事は出来ない。


考えがまとまらなかった僕は曖昧な答えにしかならなかった。


「もう少しで退院出来るらしいよ」


「もう少しって…具体的には分からないですか」


「それは…1ヶ月後……くらいかな?」


何を思ったのか余命を伝えてしまう。


「……そっか」


「じゃああと1ヶ月でお別r」


「ごめん、僕もう戻らなきゃ」


「また明日」


そう言って僕は逃げるようにその場を立ち去る


事実僕は逃げた


彼女の口から出る言葉が分かったから。


そんな空気でいつも通り話せる自信がなかった


本当は何か声を掛けるのが正しいのだろう。


でも僕にはそんな余裕がなかった。


むしろ僕も涙を流していたかもしれない。


「…はっ、ほんと情けないなぁ…」


僕はそう零して病室へ向かうのだった。




1週間後




……


もうそろそろ彼女と会話する時間になる。


だけど最近体の調子が良くなかった。


まぁ余命1ヶ月切ってるから当たり前か。


そういえば、僕が目の適合検査受けてから1週間になるな。


そろそろ結果が分かるんじゃないか?


そう思ったとき


「……」


静かに医者が病室に入ってきた。


医者はベットにいる僕の元に来て言う。


「貴方の目、彼女に適合しました」


「!それじゃあ!!」


「はい、彼女が同意すれば移植出来ます」


やった!あとは彼女に伝えるだけだ!


こうしてはいられない。


早く彼女の元に行かなくては!


そう思い勢いよく立ち上がったその刹那。


……?


あれ?なにも見えない…


もしか…して僕は…死ぬのかな…?


まだ…彼女に…移植…のことも…おわ…かれも…


言えて…ない…のに


……まだ…死んだら…駄目なの…に。




「……!!!」


僕が目を覚ますとそこはいつもの病室だった。


でも、身の回りにかなりの違いがあった。


点滴、心電図、チューブなどが僕の体に装着されていた。


僕の命はもう雀の涙ほどと言えるだろう。


でもそんなことはどうだっていい


意識を取り戻した僕にはすべきことがある。


彼女に会いにいく。


勿論こんな状態だ、動けばどうなるかなんて分かったものじゃない。


点滴やチューブを外さないと動けないのだから


だけど僕にとって最重要なのは自分の命より彼女の目だ。


もうすぐ死ぬ僕の命より、まだ生きられる彼女の目の方重要だった。


そんな思いが僕を動かす。


ブチブチとそんな音が病室に響く


点滴が刺さってた腕からは血が滲んでた。


だけど僕はそんなこと気にしないで、倒れそうな体に鞭を打ち彼女のもとに向かうのだった。




いつもは数分で着く通路も今日はとても長く感じる。


遠ざかる意識を繋ぎ止めながら足を運ぶ。


1歩……1歩。……確実に。


そして…


いつもの何倍もの時間をかけて僕はやっと彼女の元にたどり着いた。


彼女を目にした僕の目には涙が浮かんでいたがそれを悟られないように語りかける。


「こんにちは」


「……!」


彼女はハッとした表情で返事をする。


「良かった…今日はもう来てくれないかと思ってました」


「……え?」


「だって、いつも会いに来てくれる時間をもうとっくに過ぎているんですよ?」


「…あぁ、ごめんね?少し医者と話していたの」


発作を起こしてぶっ倒れたなんて言える訳がない。


「医者と…ですか?」


「…今日退院する事になったんだ」


不意にそう言ったがある意味正解とも言える。


「今日ですか?なんとも急ですね…おめでとうございます…」


彼女はそう笑顔で返したがどこか悲しそうな表情をしていた。


「それで…1つだけ聞きたいの……目はまだ見える?」


唐突な質問に彼女は困惑しながら答える。


「目ですか?…まだ、何とか見えてます」


「そっか…良かった……間に合ったったんだ」


僕は安堵の声を漏らす。


そんな意味のわからない言葉に彼女は困惑している。


だが僕は気にせず言葉を続ける。


「君の目は移植すれば治るって言ってたよね」


「それはそうですが…ドナーが…」


「ドナーがいるとしたら?」


「え?」


「ドナーが見つかった、だから移植できる」


「だから早めに同意書にサインして貰わないといけないんだけど」


「え?ちょっと待ってください」


「ドナーが見つかったって…そんな簡単に見つかるものではないと思うんですけど」


「それに…どうして貴方が?」


「……それは」


彼女の反応は当然だ、僕でもそう思うだろう


でも僕が君のドナーなどとは言えない。


答えに困っていると彼女が口を開く。


「もしかして、そのドナーになる人はあなたの知り合いですか?」


「それなら私なんかより移植すべき人が沢山います」


「私の目なんてどうだっていいんです…だから」


「ふざけんなよ!!!」


「!?」


僕の努力を無下にした彼女への怒り…というよりは、彼女が自信を大切に思ってないことに対しての怒号だった。


僕は言葉を続けた


「私なんかじゃない!君の目…君のことを大切に思っている人に失礼だろ!!」


大きな声を上げたせいか視界がぐらつく…だけど僕はまだ死ねない。


「君の親だって君の目が見えるようになることを願ってるんじゃない?」


「……せに…」


「!?」


「何も知らないくせに!そんな分かったこと言わないで!」


彼女の目には大粒の涙…今まで見たこともなかった彼女の姿だった。


「私の親は…私の事なんて気にしてない!」


「親だけじゃない!友達だって初めはお見舞いに来てくれたのに今では全く来なくなった…きっとそういうことなの!」


…知らなかった。


彼女がそういう状況だった事なんて。


このタイミングで分かった2人の共通点だった。


「私の事を大切に思ってましたくれる人なんて存在しない!知らないくせ知ったようなこと言わないでよ!」


「それに目が治ったらそんな人達の元に帰ることになることも嫌なの!」


「僕がいる!!!」


「…!」


「大切に思ってる人がいない?僕は君の事を大切に思っている!」


「だけど僕はずっとこの病院にいることは出来ない…現に今日退院する」


「退院すれば君の力にはなれない……だけどもし移植して君の目が見えるようになったら僕は安心して…いける」


「……」


「だからさ」


「……」


「…分かりました」


「移植手術…受けます」


「……ありがとう」


「それにしても…こんなに感情をさらけ出したのは何年ぶりでしょうか」


「僕だって…久しぶりだよ」


彼女が移植を受ける事になったからか…繋いできた意識が今に飛びそうだ。


だけど彼女の前で死ぬ訳にはいかない。


最後の力をふりしぼり彼女に伝える。


「じゃあ…僕はもういくね…移植成功するように祈ってるから」


「まって!その前に1つだけ!」


「……なに?」


「移植が終わったら、また会いに来てくれませんか?」


「……うん」


「また会えることを楽しみにしています」


「……うん、じゃあね」


僕は涙でぐちゃぐちゃになった顔でそう言ってその場を去った。


点滴とかをはずしてしばらくしたせいかもうろくに動けない。


彼女が見えなくなったところで腰を下ろす。


もう僕の五感は消えかけていた。


「また会えることを楽しみにしている…か」


事実もう彼女とは会えないが…まぁ、あの子なら大丈夫だろう。


ここまで自分の気持ちを言えるのだから。


……それにしても我ながら酷い別れ方をしたなぁ


まぁ、人生最後くらい…カッコつけても…いいか


そんなことを思いながら僕の意識は…静かに…落ちていった。


「さようなら…僕の唯一の光」








それから1ヶ月がたった


私は彼の説得を受けて移植を受けた。


結果私の目には光が戻りつつある。


移植して日が浅いためかまだ若干のぼやけがあるが。


………


私に光をさずけてくれた人。


私にとってその人は2人いる。


1つ目は私の【目】に光をさずけてくれた人。


術後、その人の顔を見させてもらったが、死んでいるにもかかわらずその顔はとても安らかで安心したような面立ちだった。


そしてもう1人は、私の【心】に光をさずけてくれた人。


彼は私が移植を行う前に退院してしまったため、しっかりと顔を見れなかった。


だけど……


私たちはまた会う約束をした。


彼の連絡先も何も知らないので待つことしか出来ないが、楽しみで仕方がない。


「さて、いつ会いに来てくれるのかなぁ?」


そんなことを、夕焼けを見ながら一人で呟くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2筋の光を君に @Dorayakiumai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ