第1章 不思議な少女、懐かしい歌声
島に来てから、1週間が経った。
生活にも慣れ初めて楽しく過ごしている。
元々都会暮らしだった俺は、生活に馴染めるか不安でしかなかったがこの島に来て最初に思った様にみんなが優しすぎる。聞いた事には親身になって教えてくれるし、しかも嫌な顔一つしない。
この島に来て正解だな……………。
そこで、少しだけ嫌な過去を思い出した。遠い昔の事だ。
「…………………」
いいや、ここに来てまで考える事じゃない。
「閃君~~!買い物行ってきてくれる〜?」
「あぁ、はい。全然構わないですよ」
俺は読んでいた本をパタンと閉じた。
二葉さんの所へ向かうと何故か申し訳なさそうに買うべき物のメモとお金を渡してくる。
「ごめんね………私も家事があるから買い出しに行けなくて……閃君が居て助かったわ」
「いえ、俺も暇だったんで。それじゃ、行ってきます」
家を出て、一本道を進む。よく買い物に行っている店はこの道を直進した所にある。
特に考える事も無くぼーっと歩いていると、急に強い風が吹いた。
「うっ…………!」
その途端、ポケットに入れずに手で握っていたメモが飛ばされる。
「あっ……!」
ひらひらと舞って飛んでいったメモはやがて地に着く。
メモを1人の少女が拾った。
「…………これ、君……の?」
「………あ、あぁ!ごめん、ありがとう」
返してもらおうと手を伸ばすと、少女はメモを引っ込めた。
「……………え?」
思わず声が出た。
予想外の行動には人間驚くものだろう。
「……………て……」
「………ん?」
「……………私の家に来て……」
「…………なんで?」
「この材料なら……私の家でも、売って……る…」
「でも、俺は行きつけの店が………」
「………………来て、くれない………の?」
少女が涙目になる。今にも雫が溢れそうだ。
「わ、分かった!行く!君の家に行くよ!………ほら、これ」
ハンカチを少女に差し出す。少女はそれを受け取り涙を拭う。
ツヤのある黒髪を肩の辺りで止めた、いわゆるショートカットだ。身長は恐らく150cm程だろう。
「ありがと……お兄さん………」
ハンカチを返そうとする少女に俺は首を横に振る。
「いいや、これは君にあげるよ。出会いの印ってやつだ」
少女は、それでも申し訳無いと言ってきたが俺はちゃんと断った。俺は、この島の人との関係を作っておきたいんだ。
それから、少女の家に行く事になった。買うはずだった行きつけの店を通り越し角を曲がる。そこに、1軒の家というか店があった。
「えーっと、じゃあこれとこれとこれを…………」
メモに書いてある物を取りお金を一緒に差し出す。
「はい……お兄、さん……ありがとう、ございました!」
なんか、こうも笑顔で渡されるとまた来たくなっちゃうな………。
「うん、こちらこそありがとう。ここだけの話、君の家の野菜の方が全然美味しそうだ」
囁く様に俺は笑いかける。
「じゃ、俺はもう行くよ。またね」
そう言いながら手を振り、俺はその場を後にした。
辺りは日も落ちていて、すっかり暗くなっている。
…………二葉さん、心配してるかな……。
家に帰ったら、ちゃんと謝ろう。
そう、俺が決心すると………………、
「――――――♪――――――――♪♪」
「………………ん?」
どこからか、透き通る様な美しい声が聴こえてきた。
こんなに澄み切った歌声は聴いた事が無い。
声の主を探そうとしたが、歌が終わってしまった。
一体、あの歌は……………。
どこか遠い昔に聴いたことがある様な無い様な。
とにかく、物凄く懐かしく感じてしまった―――。
蒼穹のメモリア 雪境 ユキ @Sakino1214
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