ゾンビは酷い目にあっても平気!
関谷光太郎
第1話
おい、おい! 俺の後頭部を思いっきりどつきやがったのは誰だよ! しかもあれだ、それなんて言うんだ。あれ、あれだよ。そうシャベルだ。シャベルの平べったい部分で思いっきり叩きやがって、ベコって音がしたぞ。ベコって。これ、完璧に後頭部がへこんだ音だよな。
でもよ。後頭部を確認したくても、全身がかったるくて腕をあげられねーんだわ。そうだよ。腕をあげて傷の確認をするくらいなら、目の前の肉を貪るためにエネルギーを使う方がずっと価値的なんだよ。
おい、こらぁ! お前、またシャベルを振りあげてんぞ!
ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。今度は顔面かよ~! 嫌な音がしたぜ。グシャって。ベコっのあとのグシャはキツイだろ。わお! 鼻がめり込んじまったじゃねーか! どうしてくれんだこの状況を。
その時、これまたいい音を聞いちまったんだ。
パコーン。
新手が突然駆け寄って来て、金属の棒を一振り。これ、金属バットだよ。あのさ、俺はボールじゃねーんだけど。
お、おおおおお。金属バットの衝撃で、俺は腰から地面に砕け落ちちまった。
くそくそくそ! なんで誰も手を貸してくれないんだ。同じようにボロボロに裂けた皮膚を垂れさげて仲間が歩いているってのに。少しでも助け合いの精神ってもんがあれば、協力して奴らの肉にありつくことができるはずなんだけどな。
ちくしょーっ。もう首の骨では頭部を支えられない。かくなる上は、両肩の中央でグラグラ揺れる振り子よろしく、頭の存在を忘れてしまおう。……いや。だめだめ。それじゃ肉が食えないからだめだよ。やっぱり頭は中央にデンと鎮座していただかないと、肉に噛みつく醍醐味がない。肉にむしゃぶりつくあの瞬間こそが、このうえない生きる喜びなんだよなぁ。
じゃあどうする。こんな俺を見てくれる医者なんているか? 無理だろ。そもそも俺は死んでんだぜ。死人を治療する酔狂な医者なぞこの世には存在しなーい!
わわわ、なんだ、なんだ。俺をこんな目にあわせたやつに襲いかかってる誰かがいるぞ! ちえっ! ところがこれが見えないんだよな。支えをなくした俺の頭はだらりと胸の前で垂れ下がっているから、自分の胸しか見られないんだよ。
ややっ、グワーッて叫んでる。襲われてる奴らも恐怖に悲鳴をあげて、いい感じで進行中だ。
俺も仲間に加わるぞ!
思わず垂れ下がる頭を両手で挟んだ。そうだ。これだよ。両手で頭をささげ持って顔面を獲物に向けるんだ。ヒャッハー! 見える、見える。潰れた鼻からドバドバ血が吹き出したけど、視界は良好。顎は問題なく動くので、心ゆくまで獲物の肉を食いちぎることが可能だぁ!
え、ええええ?
グワーッて襲いかかってたはずの誰かさん。バコーンって音と共に背中から倒れちまったよ。眉間からぽわ〜んって煙がたち昇ってる。この野郎、今度は拳銃を持ち出しやがったな!
けっ! いい度胸じゃねえか。俺に狙いを定めたか。ホレホレ、撃ってみやがれ。言っとくが俺はゾンビだぞ。どんなに酷い目にあっても平気なんだよ。
バコーン!
あんたいい腕してんね。眉間に一発。
おっ、血で詰まってた鼻がスースーしてきた。これも眉間に撃ち込まれた弾のおかげだな……っておい!
俺、倒れちまったぜ。はは。大丈夫、大丈夫。俺はゾンビだぞ。どんなことがあっても死なねえってのが売りだ。
くそ、こらぁ! 仰向けに倒れた俺をまたぐんじゃねえ! 銃口を向けるな! パンパン撃つんじゃね〜よ!
パンパンパンパンパンパン!
思い出したよ。ゾンビの弱点が頭だったってこと。笑っちまうよな。頭半分がなくなっちまってから思い出すんだもんな。
おお、意識が遠のいていく。
それにしても……あんた撃ちすぎ。
もう、頭全部が粉々だよ。
……スイカじゃないんだから。
ゾンビは酷い目にあっても平気! 関谷光太郎 @Yorozuya01
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます