残り香
麻城すず
残り香
小さい頃の思い出は、沈丁花の花の香りと共にある。
暖かい家の中、冬越しをしたカブトムシ。死ぬ時期を見失い、秋を越えて雪を見る。
そして初春の訪れを知らせる強く甘い芳香に、僕はなぜだか焦りを覚え、沈丁花の花の元、そろそろ弱り始めてきていたカブトムシを生き埋めにした。
生を断ち切る罪悪感より理(ことわり)を狂わす罪悪感から、僕はまだ動いている小さな生き物をシャベルで叩き、沈丁花の花の下に。
これが幼さゆえの残酷さなのだと言うならば、理に恐れを抱いたのも幼さゆえのものなのか。
けれど、冬の終わりを告げて去りゆく沈丁花の残り香はあの頃と変わらないから、きっと分からないままで良いのだろうと僕はそう思うのだ。
残り香 麻城すず @suzuasa
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