不可思議犯罪都市 : ミステリア

比名瀬

第1話 : プロローグ

 この街はミステリア。


 人の善意と悪意。

 生と死。

 そして、欲望が渦を巻く不可思議犯罪都市。


 観光外に歓楽街からギャングに宗教団体や心霊スポットなど、どこと変わらぬ街のように見えて、平凡から異常まで、様々な光と闇が詰め込まれた場所だ。


 この街には常識と共に、非常識が常に隣合わせの平穏と危険が両立した不思議な所でもある。


 具体的に言うなら━━━━━━━━━━、


「待て、そこの男ッ!!」


「そこどけ、クソガキイッ!」


 早朝の出勤通学よりも少しだけ早い時間帯、後方から追いかけてくる警官2人の声を怒声を荒らげてかき消し、道路脇の歩道を歩く白衣を纏う女学生を突き飛ばした。

 ここまでなら普通にテレビで景観に密着した特番でも見かけるだろう。

 だが、ここからが違う。


 少女を突き飛ばした直後、追われている男は大きく跳躍した。

 それも、一軒家の建物を軽く飛び越えるくらいに大きく弧を描いて、数十mを軽く跳ねて。


「くそ…っ!超人かよ…!」

「特殊異能隊に早く連絡しろ……!」


 彼の異常な跳躍を見て追い付けないと悟った2人の警官が大声を上げて無線機に応援を要請する。


「アイタタタ……」


 その傍ら、突き飛ばされたは尻もちついていた少女は、ぶつけた尻の痛みに呻きつつ立ち上がると、駆け寄ってきた長身以外に目立たなそうな青年に向けて言い放った。


「おしりいたーい!あいつ、ムカつくからぶっ飛ばしてきて!」


「へいよ」


 少女の代わりに持っていた学生鞄を白衣の少女に放り投げて手渡すと、彼は深く沈み込むと、収縮した膝のバネを一気に解き放つように跳んだ。

 先程逃げさった男の弧を描く跳躍のようにではなく、ただただ逃げ去って男へと一直線に真っ直ぐ、それも物凄い勢いで。


「は!ははっ!逃げ切っ………あ?……がはッ」


 ギュオンッと遅れて風が巻き上がるほどの轟音を伴って逃げ切ったと安堵しかけた男の背中を貫くように勢いよく青年の突き出した拳がめり込んだ直後、拳の軌道を逃げようとした男もろとも勢いよく振り下ろして硬いアスファルトへと叩き付けるように殴り飛ばした。



 このような、平穏に見えた異常な事が平然と起こったり起こらなかったりする、それがこの街、不可思議犯罪都市 : ミステリアなのだから。

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