最終話 まるでアナタは最後に恋する告白のように

 俺は長い夢を見ていたような気がする。

 中世ヨーロッパのような世界で魔法使いになって世界を救う夢だ。


 高校三年生になった俺は色々な知り合いが出来た。

 メンヘラで有名な真紅に他人をからかうことが好きな博眞に騙されやすい揺季、女の子ばかりでモテ期が来たのではないかと錯覚するが、メンツとしてはなかなか酷い。

 新しい担任の麻美也先生はオカマだし、俺の周囲は強烈な人物ばかりだ。


「あーっ! 見つけたわ! 神矢綴!」


 俺が登校していると、金髪の幼女が俺を指差してきた。

 こいつは最近俺を追いかけ回してくる俺のストーカーだ


「ちょっ、なんで逃げるのよ!」

「お前こそ、なんで俺を毎日追いかけてくるだ!」


 俺は逃げるが、逃げた先は行き止まりだった。


「くっ、ここまでか……」

「寒い演技は止めて欲しいんですけど。私は少しこの矢であんたの心臓をチクッてしたいだけよ」


 幼女は弓につがえた矢を俺に向ける。


「待て待て待て! 絶対チクッとじゃ済まないだろ!」

「私は愛のキューピットよ。あんたを運命の人に会わせてあげるわ」

「生憎だが、俺はすでにハーレムがあるからそういうのは結構です」

「シンクとハクマとユラギのこと? あんなのよりあんたにはもっとお似合いの娘がいるでしょ」

「なんでお前があいつらの名前知ってるんだよ、マジで怖いな!」

「この態度、本気で忘れちゃった訳?」


 幼女が残念そうな表情をする。

 それを見て、俺は彼女に見覚えがあるような気がした。


「ラ……ラ……ラビィ?」


 幼女は俺が思わず呟いた言葉に笑みを浮かべる。


「……思い出すのが遅いのよ」

「わ、悪かったな」


 ラビィは一瞬だけデレたような態度を見せたように思われたが、すぐに真剣な表情に戻ってしまった。


「お前何やってんだよ」

「さっきも言ったでしょ。あんたを運命の人に合わせてあげるって」

「運命の人……」

「もしかして忘れちゃったの?」

「いや、俺は誰かを待っているような気がずっとしていたんだ。でも、誰のことか思い出せなくて……」

「ぼんやりとした感じなのね。それでも、あんたは偉いんじゃない? 例の三人がアプローチかけているのにこれまで靡こうとしなかったし」

「へ? それについてはなんかハーレム気分を楽しみたかったというか」

「優柔不断で相手を決められていなかっただけだったのね……」


 ラビィの言葉は俺の心を見透かしているようで心底軽蔑されているようだった。

 彼女の矢は変わらず俺の心臓に狙いを定めている。


「ツヅリ、実は私、あんたに謝っておかないといけないことがあったの」

「急にどうした?」

「まあ、聞いて。あんたが一度死ぬ原因になった心臓発作は私があんたを謝って狙撃してしまって起きたものだったの」

「俺が一度死んだ? 何言ってるんだ?」

「私はあの時、本当だったら椎名という女の子に愛の矢を撃って、あんたはその娘と付き合うことになるはずだった。キューピットが持つ愛の矢には心にときめきを与える力があるの。でも、その矢は間違えてあんたに当たり、元々、恋でときめいていたあんたの心臓は無理矢理ときめかされて心臓発作になってしまったのよ」

「なんだか頭が痛くなりそうな話だ」

「……その事実はなかったことになって、エロス様は魔獣を永遠に封印したことで告白魔法使いたちを元の世界に帰した。これで、全ては解決したのよ、一人の犠牲によって」


 ラビィは矢を放ち、俺は心臓を矢で撃たれる。


「だけど、あんたが覚えているなら、きっとあの娘は戻ってくるわ。……正直、私はあの娘がまだ怖いけど、あんたは寧ろ会いたいでしょ?」


 心臓が強く昂ぶる。

 それは一目惚れをする時のような――、

 いや、違う。

 この心臓が高鳴る理由は背後にいる謎の気配のせいだ。


「先輩、忘れないって約束したのにどうして今まで気づいてくれなかったんですか。私、先輩が色んな女の子とイチャイチャしている様子をずっと指を咥えて見ていることしか出来なかったんですよ?」

「…………お、怒ってるのか?」


 俺は恐る恐る背後を振り返った。


「はい。絶対に許しません。もう二度と逃しはしませんからね」


 しかし、台詞とは裏腹に、ルミナは優しい口調でそう言って、俺に抱きついてきた。


「先輩、私と付き合ってくれますか?」

「当たり前だろ。長々と返事を待たせやがって」


 俺とルミナは呪文を唱えた。

 それはありきたりで大勢の人がしているかもしれない「告白」という魔法の呪文。


 この告白だけはきっといつまでも忘れられない。



 

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ルミナが恋する告白魔法 Laurel cLown @enban-tsukita

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