第5話おいしい肉()料理の店
サブマシンガンと超小型のコンカッショングレネード(衝撃手榴弾)の入ったポーチを身に着けたベスは、道を間違えてビッチ通りに迷い込んでいた。
ビッチ通りは、ジャンクタウンの一角にあるビッチ(売春婦、立ちんぼ、アバズレ)とピンプ(ポン引き、ヒモ、女たらし)がひしめき、売春宿が軒を連ねる区画の一つだ。
そんな場所にやってきたベスは、ひときわ目立つ看板を見上げていた。
まず、道路の中央から聳え立ったデカデカとしたバカでかい看板には、
ピカピカ光る下手糞な造形のピンクのネオンで<一発、一発、一発、一発、一発、一発、一発、一発、一発、一発、一発、一発、一発、一発>と書かれていた。
また、右側に建った売春宿のグリーンのネオンサインには<娼婦も男娼もより取り見取り>という文字を輝かせている。
そして、左側の売春宿のワインレッドのネオンサインはというと、
<男同士でも女同士でも楽しめます>だとか<4P、5P、当たり前。連ケツの専門店>などの文字が浮かんでいる。
他には<アニマル、クリーチャー、サイボーグ揃っております>や<ハードでマニアックなプレイをご堪能頂けます>とか、
人間が持つ、あらゆる変態性欲を満足させるとでも言いたげな文句が続いていた。
カラフルなネオンサインに、ベスの視界がチカチカし始める。
来た道を引き返そうとベスは思った。
そんな時だった。
「やあ、お嬢さん」
真横から見知らぬ男に声を掛けられたのは。
「売りに来たのかい、それとも買いに来たのかい?」
「……?」
「おや、素人さんか。ここじゃ、ビッチか客か、そのどちらかしかいないって言いたかったんだが」
ゴテゴテした金ぴかの装飾品を身に着けたガスマスク姿の男が、ベスに言う。
「私はどっちでもないわ。ここには、道に迷ってたまたま入り込んだだけよ」
「なるほど。そいつは失礼した。俺はまたてっきり……」
そこからむっつりと黙って、ガスマスク越しに男がベスに粘つくような視線を向ける。
「それじゃあ、ばいばい」
「ああ、待ちなよ。食事はどうだ。おごるぜ」
「そういって、変なことするつもりでしょ」
「安心しろって。無理強いはしないさ」
「ふーん、それならついていくわ」
「よし、決まりだな」
それからふたりは、レストランの建物へと入っていった。
<合成肉一切なし。本物のミートのみ使用>と書いてあるネオンの看板を掲げた店へと。
**
バイザにとっては、動物のものだろうが人間のものだろうが、肉は肉だった。
タンパク質はあくまでもタンパク質であり、それ以上でもそれ以下でもない。
ただ、合成か天然か、それと味や食感の違いについては、強いこだわりを持っていた。
だからバイザはこだわった。
天然の肉に。
合成肉は一切仕入れず、本物の肉のみ扱ってきた。
これまでは。
そしてこれからもだ。
だが、家畜の肉は高い。今のご時世では、高級品だ。
だからバイザは、さばいた人間の肉をステーキにして売っている。
これならコストもかからない。
客からも美味いと評判だ。
脳みそがスポンジみたいになるクールー病の恐れもあるが、そもそもの話、ここの住人はそんなものは気にしないだろう。
なんせ、ジャンクタウンには生まれた時から、脳みそがスポンジみたいにスカスカな連中がごろごろしている。
それよりも客にとって、重要なのは肉の味と食感、そして鮮度だ。
だからバイザは、熱心に肉の素材にこだわった。
ストリートチルドレンやホームレスは、出来るだけ肉付きがよくて生きのよさそうなのを選んだ。
他にもどこの組織にも属していないようなモグリの娼婦や、ドラッグでオツムのいかれたジャンキー、家出してきて、腹の空かせた少年少女達。
食事と寝床を提供してやると言えば、おおよそ──54%ほどの確率でノコノコついてきた。
そして彼らは、バイザの特製ソーセージとステーキをたらふく味わい、次の日には自分たちがソーセージやステーキになった。
全く、良い商売を思いついたものだと、バイザは自分に感心していた。
人間ならどこにでも転がっているし、タダで手に入れ放題だ。
おかげでレストランを手に入れることができたし、店は大繁盛。
立ち食いの屋台から一年で自分のレストランを持てるようになったのだから、大変誇らしい気持ちだ。
問題があるとしたら、これまで殺してミートに加工してきた人間の中に一般市民も実は紛れ込んでいて、
それがばれて賞金を掛けられ、挙句はハンター達にその首を狙われているということくらいか。
もっとも、バイザ自身はまだそのことに気づいてはいなかったが。
そしてアグニが自分を突け狙っていることも、バイザは知らなかった。
荒野の戦士アグニ──それは幼女という名の物語 @yuyuyu3
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