憑いてる彼女の口説きかた
1
「…………っ」
悪寒がして、俺は目覚ましが鳴るよりも早く目を覚ました。寝間着代わりのスウェットは汗でびっしょりと濡れていて、べたべたと肌にまとわりつく。
時刻は七時前。
普段なら二度寝を決め込んでいるが、妙に目が覚めてしまったので、仕方なくシャワーを浴びることにする。
普段であればとっくに戻ってきているはずのカグラの姿がみえない。どこで油を売っているのやら。
すでに事件は解決しているのだから外出の必要はないし、普段ならまず朝は家にいるはずなのだが。
そうして俺はいつものようにテレビをつけた。
『今朝のトップニュースです。神無河県神咲市の神楽町で先月から発生していました怪事件の続報です。昨夜未明、正体不明の生物が多数の住民を襲い、総勢百三十名あまりが重軽傷を負ったとのことで――」
「なっ――」
なんだ、これは。
『重軽傷を負わせた犯人は先日から目撃情報のある銀髪の女性とのことですが、その両腕は獣のように発達しており、人間ではなく新種の生物ではないかとことで調査を進めているとのことです。現場の警察官には発砲許可が――』
解決したんじゃなかったのか。
まさかカグラが戻ってこないのはこれが原因なんじゃ……。
「――っ」
テーブルに放ってあったスマホが振動した。
珍しいことに、電話だ。
しかも、音々から。
不吉な予感に、俺は喉を鳴らして電話に出る。
「……どうした、音々」
「…………、先輩っ」
縋るような声が、震えていた。
「お姉、ちゃん、が……」
「凛になにかあったのか? どうした、一体なにがあった?」
「……病院、で、治療……受けてて……っ」
「……まさか、襲われたのか」
「…………っ」
返ってきたのは息を呑む音だった。
「どこの病院だ」
「怜先生の、ところ……」
「なら、命は助かる。傷も治る。お前を助けて、俺も救った医者だ。それを信じろ」
日本が誇る外科の名医――神座
土手っ腹に風穴をぶちあけた
「すぐに向かう。必要なもんはあるか? お前、飯食ってないだろ。看病すんのに家族がぶっ倒れたら元も子もねぇからな。適当に飯を買っていく」
「……ありがとう、ございます」
俺は電話を切り、すぐさま支度を済ませる。学校には欠席の連絡を入ると、担任が出てくれて、凛の見舞いに行くと告げたら、それで察してくれた。話が早くて助かる。
財布とスマホをポケットに突っ込み、リュックを背負って玄関を出たところでまたも電話が掛かってきた。
「…………っ」
着信相手を確認し、恐る恐る応答する。
「……こんな朝っぱらから一体なんの用すか、賀茂さ――」
「あ、出たわね」
「なっ……」
突然のことに動揺した俺は、思わずスマホを手元から落としそうになる。
そんな、馬鹿な。
「はっ……? 母、さん……?」
「……ああ、残念、照人なのね。その声は」
「な、なんでこの番号から、母さんが……」
あり得ない事態に、俺は動転する。そしてすぐに想像がついた。
「まさか……賀茂さんが病院に……?」
「手も足も動かせないレベルで搬送されてきてね。ようやく意識を取り戻したと思ったら私を見つけては電話してくれっていうから仕方なくこの人のを借りて電話を掛けたの。どういうつながりでこの人と知り合いなのか知らないけど、あんたを呼んでるわ」
「……用件は」
嫌な予感がする。
けれど問い質さずにはいられない。
そして、こういうときの予感というのは十中八九、最悪の形で的中するものだ。
「例の彼女のことで、諸々を説明したい、それに謝罪も、だって」
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