6
夕食を済ませ、宿題をこなすと、もう寝るにはいい時間になっていた。
「自力で起きないとか……」
目覚ましをセットするのも久しぶりだ。
それだけ音々に甘えていたということだろう。己の名誉のためにも、音々がいなくなった途端に遅刻するのだけは避けなければならない。
頭を冷ますためにベランダへ出る。
星辰のきらめきが音となって聞こえてきそうな夜だ。
「……なんだか面倒なことになりそうだな」
こんなにも閑静な街でまたしても霊絡みの事件が起きようなど、夢にも思わなかった。
真犯人を突き止めるべく、カグラは夕食を胃袋に収めるや否や夜の神楽町へと繰り出していった。一刻も早くとっ捕まえてやる、と鼻息を荒くしていたが、はてさて。
すでに賀茂さんとカグラが動いていることだし、俺が案じても仕方がない。
「それにしても……もう三年も経ったんだよな……」
俺がカグラに襲われ、瀕死のところを賀茂さんに救われて。
そして、音々がカグラの眷属に取り憑かれ、除霊ができないからって力業で封じ込めて、それから三年。
音々の病状は完治したとは言い難い。小康状態であることは触診ではっきりした。
いまはまだ賀茂さんがいるからなんとかなっているが、あの人はそもそもこの街にルーツがあるわけじゃない。各地を転々としながら日銭を稼いでいる霊媒師だ。ある日突然に姿をくらますことだって充分にあり得る。
音々に取り憑いたあの化け猫は、いずれまた表に出てくる。賀茂さんをして除霊の方法はないと言わしめるのだから、万一の事態になったら力業で始末するしか手段はない。
だが、それは音々の命の危機にも直結するわけで。
「……それだけは、なんとしても避けなきゃいけないよな」
こんなことを悶々と考えている俺にできることはほとんんどない。
あるとすれば、あの手この手で賀茂さんを神楽町につなぎ止めるくらい。
正直なところ、いま起きている事件には少しだけ感謝していた。
このままなにも起きていなかったら、平穏無事なこの街に愛想を尽かした賀茂さんが忽然と消えてしまうのではないか――ずっと、そう思っていたから。
そんな、不純でどうにも後ろめたい感情を抱いていたからだろう。
この時の俺は知るよしもなかった。
事態は、まったく望みもしない、最悪の方向へ転がり始めているということを。
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