第9話 デルタの実力

 管制室を出て、コロニーの偽装を解除しながら入り口とは反対方向に進んでいく。


 


「この崖を降りましょう」


 目の前に崖がある。これを生身で降りるのは至難の技だ。

 なのでデルタに変身する。


 ペンダントを握りしめ「変身」と呟く。

 するとペンダントが俺を包むように、パワードスーツ『デルタ』に変わる。


「スムーズな変身ですね。ではこの崖を降りて、先に進みましょう」


 エルノアのパワードスーツ探しが本格的に始まった。




 バランスをとりながら両足のスラスターと両手を駆使してゆっくり降りていく。

 初めて現実世界で飛んでみたが、現実で体験するのとVR空間で体験するのでは感覚が違う……と思っていたけど、そうでもなかった。


「ダンジョンの中は暗くないですね」

「あちこちに光ってる岩が見えるだろう? あれは光源岩といって、自分から光る岩なんだ」

「どういうふうに光っているか気になりますが……そういう岩があるんですね」




 慎重に降りること数分、無事地面に着地した。

 光源石があると言っても、ここはダンジョンの中。流石に20m先は見えない。

 

「ここから12時の方向、約100m先に生体反応が……12体、あります。そのうちの1体は他と比べて大きいようです」


 気を引き締めて生体反応があるところに向かう。

  



 ギイイィィィ。

 ギシャアア。


 魔物たちのうめき声が聞こえる。

 生体反応の正体は、ゴブリンの群れだ。

 大きい反応は……ゴブリンキングだな。


 ゴブリン達は、突然現れた俺に警戒しているようだ。


「マスター、戦闘準備は出来ていますが、どうしますか?」

「こちらから仕掛けるのはやめよう。もしかしたらこの先の道を……通してくれないようだな」


 言葉は分からないが、ゴブリンキングが部下のゴブリンに対して、指示を出してる感じがする。

 部下のゴブリンたちは俺に向けて、弓や剣を手にしている。

 向こうは戦闘態勢に入ったようだ。


「そっちがその気なら……よし、これがデルタの初戦闘だ」




 俺は右手をゴブリンキングに向け、更に掌を開く。


 プラズマショット。

 野球ボールぐらいの大きさまでプラズマを溜めて、放つ射撃技。

 VR空間でレクチャーを受けた時、威力が弱い牽制技と言われたので、威嚇の意味を込めて、ゴブリンキングの頭に照準を合わせ、プラズマショットを放つ。


 ドカン!

 

 頭を中心にゴブリンキングの上半身が一瞬で蒸発し、俺が放ったプラズマ弾はゴブリンキングの後ろの岩まで貫通した。


 静寂が包み込む。

 ゴブリンたちは、自分の王に一体何があったのか理解出来ていない。

 ただ呆然と、上半身がないゴブリンキングを見つめている。


「あの、エルノアさん? この技って威力が弱いのでは?」

「弱いですよ。パワードスーツ同士で戦った場合ですが」

「じゃあ十分強いじゃん!」

「マスター、目の前のゴブリンたちがこちらに向かってきます」


 王を殺されたゴブリンたちは、意を決して俺の方に向かってくる。

 

「どうなっても知らないぞ」


 ゴブリン全員に対してプラズマショットを放てば、周りががどうなるか全くわからない。

 なので向かってくるゴブリンはもちろん、弓を持ってるゴブリンに対しても近接戦闘を仕掛けるしかない。


 右手を手刀を打つような形に、指の先からプラズマを放出、そのプラズマを剣の刃先のような形にしてプラズマソードを形成する。


 向かってくるゴブリンたちを剣ごと横払いし、次に弓を持っているゴブリンたちに急接近して斬り殺す。


 1分もかからず、ゴブリンたちが全滅した。


「お見事ですマスター。無傷で終わって何よりです」

「なぁエルノア……もしかして、デルタってすごく強い?」

「いまさら何を言ってるんですかマスター。当たり前ですよ。元々あった機能に、あなたの案を付け足したのですから。強いに決まっています」


 デ、デスヨネー。

 正直こんなに強いとは思わなかった。

 つか、ゴブリンキングって結構強いはずだろ?

 なんで牽制技で瞬殺なんだよ!


 自分が思ってる以上に、とんでもないモノを手に入れた気がする。




 ゴブリンの群れを倒した後、様々な魔物と戦い無双していった。

 なかには上級者向けダンジョンに生息する、ミノタウロスのような魔物がいたが、プラズマソードで瞬殺だった。

 まれにプラズマに耐性……多分雷属性だと思うけど、それに耐性のあるエレキウルフやエレキゴブリンなどの魔物がいたが、そいつらには格闘戦で仕留めている。


 魔物を何体倒し、どこまで進んだか分からないが、エルノア曰く順調に予測地点まで近づいているらしい。




 デルタに変身して約2時間。

 周りに魔物の気配が無い。

 エルノアに提案し、ここで休憩をすることになった。 

 変身解除し、から水筒をとる。


「マ、マスター! 今どこから水筒を出したんですか!」


 あっ!

 魔法やスキル、マナについて何も言ってなかった。




 魔法というのはマナを使うことで発動できる超常現象や奇跡みたいなもの。

 スキルはマナを使わずに魔法と同等かそれ以上の現象を引き起こすもの。

 マナは人や魔物などの生命体と、大気中に存在するエネルギーである。

 

 また魔法やスキルは大まかに3つに分類され、それぞれ属性を持っている。

 火、水、土、風の4大元素の元素魔法エレメンタルマジック

 光、闇の混沌魔法カオスマジック

 それ以外の無属性オリジナルマジック


 更に魔法やスキルにはそれぞれランクがあり、FからA、S、EXの順で難易度や威力が高くなる。基本的にFが最弱、Sが最強、EXが規格外だ。

 

 ちなみにプラズマなどのは雷属性は、分類的には元素魔法の風属性だ。ただ雷は風の性質を持ちながら、水には強く、土には弱い特殊属性である。




「以上が魔法とスキル、マナの説明になります」

「なるほど……。魔法とスキル、それからマナ。かなり興味深いですね」


 今の説明で納得してくれたようだ。


「一つ質問があります、マスター」

「なんだ?」

「デルタを開発している時に言わなかったのは、私やデルタが、エスティバ出身でもなければ生命体でもない。ゆえにマナを感じることが出来ないから言う必要が無かった、でしょうか?」

「そ、そうだよ」


 本当は言い忘れてたが、それは言わないほうがいいだろう。

 言ったら怒られる自信がある。


「……マスター。以前言いましたよね? マスターの顔は分かりやすいって」

「お、俺が嘘ついてるとでも言うのか? ちょっと心外だなエルノアくん」

「嘘つきましたね?」

「……すいませんでした」


 嘘ついたことを正直に告白し、エルノアに謝った。

 エルノアには嘘つくのはやめよう。そう心に誓った。




「ところで、先程マスターが使ったというものを教えてくれますか? ついでにマスターが使える魔法やスキルとかも」 



 まず俺が使える魔法は、Dランクまでの元素魔法と、無属性に分類される生活魔法のCランクまでだ。

 冒険者に必要な、最低限の魔法が使える。


 それから俺が所持しているスキルは3つ。

ボックス (EXランク):ありとあらゆるものを時間経過なしで保存できる。収納範囲は無限。

マナリジェネ(Dランク):消費したマナを一定間隔で回復できる

鑑定(Dランク):詠唱をすることで、物体や魔物の状態が見れる。



「魔法はともかく、スキルはどれも強力ですね」

「異世界人はこの世界に来た時に、強力なスキルがゲットしやすい。マナリジェネとかボックスがそれだな。鑑定も強力だけど、これはエルフや魔力が高い人も持っているから、他と比べて珍しくないスキルだ」

「鑑定というスキルは詠唱が必要でしたよね? 詠唱を行うメリットってあるんですか?」

「詠唱を行えば、スキルや魔法のイメージがつきやすい。あとは他の人、特に仲間と連携がとれやすいとかかな。もちろん、詠唱をしない無詠唱のほうが優れてる面もあるけど、使い分けというか状況次第かな」




 休憩が終わり探索を再開する。


 そして予測地点まであと半分という所に、巨大な扉があった。


 扉の装飾がすごく作り込まれている。

 もしかして……ダンジョンのボス部屋の扉か?

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ファンタジーな世界だけど、俺はAIとパワードスーツで行きます もんざえもん @_MonZaeMon_

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