第27話 薄霧、雷鳴。

 歩きながらステータスを開いてみると、重大な事実に気づいてしまった。


「やばいな……SP振ってないしスキルの確認もしてない……」


「私はもう振ったわ」


「何に?」


「『筋力強化』『跳躍』『採掘』『歩行術』『曲芸』」


「採掘と曲芸の意味は?」


「振り下ろす時の行動に補正が入るのと、アクロバティックな動き全部に補正が入るからね。本来の扱いにも期待しているけれど」


「成る程」


 俺たち3人は剣闘士のゾーンを抜けて、ガーゴイルの石像が立ち並ぶスケルトンゾーンへとやってきていた。目的は勿論レオニダスの討伐とこのエリアの解放だ。

 剣闘士のゾーンの境界線ははっきりとしており、緑の芝生がその線を描いていた。境界線は武器を持った剣闘士の霊達が警戒しており、稀にふらふらと寄ってくるスケルトンを倒していた。


 それを見ると、戦いの前触れを感じる。取り敢えず少し先に進んでみたが、スケルトンやスパルトイと何度か戦闘があった以外は特に何も見当たらない。戦闘が始まっても、ロードの魔法かカルナの重い一撃で戦闘が速攻で終わってしまう。

 俺自身もダークアローを撃つだけでスケルトンは倒せるので不満はないが。


「またレベルが上がったわ。効率いいわね?」


「スケルトンはあれですけど、スパルトイは一応格上ですからね」


「格上相手にはボーナス入るし、妥当なところだろ」


 レベルがサクサク上がってカルナの機嫌はすこぶる良い。SPも歩いている途中にしっかりと使っているようだ。確か、俺のSPは残り9もある。さらに言えば、禁忌魔法や新しく増えた技についても、あまり理解できていない。ここを逃したらもう休める機会はほぼ無いだろう。今のうちにスキルの詳細を確認しておこう。


 まずは禁忌魔法。説明には「命、もしくは死。その両方を弄び我が物とする傲慢の極みたる秘術」とある。使う事で禁忌度が上がったりしたら怖いが、取り敢えず今使える魔法を見てみよう。


等価交換ライフエクスマキナ

好きな時にHPをMPに、MPをHPに交換できる。


犠牲の門サクリファイスゲート

任意のHPを消費して、相手に消費HPの三倍のダメージを与える。


 今のところ使えるのはこの二つだが、もしかしたら最終的には即死魔法とか、蘇生魔法が使えるようになるのかもしれない。等価交換はMPが欲しい時に便利だが、俺のHPは実質MPなので、使う機会は少ないだろう。普通のプレイヤーだったら死にそうな時はHPに変えて延命、ここぞという時にMPに変えてDPSを稼ぐなど、割とチート級なのかもしれない。


 次は盾術が使えるようになって覚えた三つの技。『ランパート』『サクリファイス』『フォートレス』だ。

 『ランパート』は2×2メートルの透明な障壁を好きな場所に生み出す能力……障壁は俺のVIT依存の個別HP持ちか。

 『サクリファイス』は自分中心で五メートル以内にいるMOB一体のダメージを30秒間全て肩代わりする能力か……究極の防御だな。でも、肩代わりするダメージはかばう相手のVIT依存か。使いどころを間違えると素直に死ねるな。


 『フォートレス』は……自身のHPを5パーセント回復し、半径十メートル以内の敵を大きく挑発するスキルのようだ。混戦に持ち込まれた時に真価を発揮するが……キャストが一分か。そう易々とは使えないな。


 最後は種族固有スキル『命の形』。仮にも種族名を冠しているわけだ。弱いわけがない。


 内容は……全ての攻撃の半分だけ、相手のMPも削るようになる、と。……え、対人最強じゃないか?逆に強すぎて『生存本能』と一緒に弱体化とか修正入らないか心配なんだが。毒などの状態異常のダメージは流石に対象外らしいが、やりすぎ感あるな。ダークアローが一発大体200ぐらい出してるはずだから……同時にMPを100減らせるのだろう?強すぎだ。


 さすがはユニーク種族の固有スキル。このスキル一つの為だけに進化してもいいぐらいじゃないか?

 これで、スキルや技は全部把握できた。魔法相手にメタれそうだ。あとは……余ったSPの使用先だな。


「スキル……どうしようかな」


「SPはいくつかしら?」


「9」


「ライチはプレイスタイルが固定されているのだし、これから何か新しいことに手を出さないのなら、今のスキルを伸ばしたら?」


「やっぱそうなるよなぁ……ふーむ」


 スキルの確認も終わって、スキルを取ろうという段階に入った。が、どれを取るべきか悩む。固有スキル、種族スキル、職業スキル、一般スキル、スキル強化。選択肢は果てしない。


「敵、二人……スパルトイです」


「任せなさい」


「俺もやるぞー」


 ロードばかりに戦闘をさせては、肝心のエリアボス戦でガス欠になってしまう。俺はMP回復が早い方だし、ささっとやってしまおう。


「『ダークボール』」


「『破砕の一撃』」


 俺のダークボールは二体に避けられたが、避けた先はカルナが振りかぶる大型ハンマーの進行方向だ。凄まじい速さで振り抜かれるハンマーに撃ち抜かれ、一体のスパルトイの体が砕け散る。その隙を手に持つ剣で切り裂こうともう一体が飛びかかるが、そう易々と後衛にダメージは通させない。


「『シールドバッシュ』」


「ナイスね。……っしょ」


「うわぉ、流石の火力だな」


「骨が砕け散って粉微塵になってましたね……」


「……STRに振ってるだけよ」


 俺たち二人に褒められたカルナは、青白い顔を逸らした。照れているのかもしれない。褒められるのには慣れてないのか?なかなか可愛い反応をしたカルナは、さ、いきましょ、と話を逸らした。


 さて、スキルは……うーん。取り敢えずHP自動回復:中をSP2を支払って大に変えよう。あとは……よし、『魔術理解』を取っとくか。最終的には相手がどんな魔法を使ってくるのか『視える』ようになるらしい。

 あとは、僧侶系が覚えるらしい『瞑想』スキルを取ろう。


『瞑想』

立ち止まっている間、HPとMPが通常より早く回復する。


 あまり使うところはなさそうだが、せっかくHP回復量が二倍なのだ。取っておくべきだろう。あとは、パッシブの『耐久強化』と『魔力強化』。


 あと3ポイント……種族固有スキルになんかいいの無いかな。……お、『吸収の一手ドレインタッチ』?直接触れた相手のHPとMPを吸う、と。鎧の隙間から相手の体に触れればなかなか良い奇襲になりそうだな。取っておこう。後は……『硬化』?


『硬化』

一時的に体の表面を硬化させ、本体へのダメージを減少させる。


 地味だが使いやすそうな能力だ。……多分魔法の前にはまるで意味をなさないだろうが、物理に対してはなかなか相性の良さそうなスキルだな。現在防御をあげられるスキルが『ディフェンススタンス』ぐらいしか無いからな。キャスト中のことも考えてもう一つあると楽だろう。


 さて、最後の1ポイントは……うーん。どうするか。……せっかくアンデット特攻の剣あるし、手札を増やす意味で……『剣術』取るか?……いや、ここは我慢してHP自動回復:極大を取ろう。さらば剣の道よ、STR依存なのが悪いんだぞ。


「……よし、取り敢えずスキルは決まった」


「それは良かったわね」


「また、敵です」


「三体かな?」


「霧が妙に濃くて動きづらいわね」


 戦場で目がうまく働かないというのは、とてつもないデメリットだ。霧で敵の確認が遅れるのはもちろん、遠距離武器などに対する対応力が著しく減少することになる。

 スレッジハンマーを担いだカルナが、威勢良く反対の腕を回しながら三つの陰に近寄った。


「スケルトンが2、スパルトイが1ね。サクッとやるわ」


「カバーはするぞ」


「お二人とも、よろしくお願いします」


 そろそろ見つけないと本格的に不味そうだな。若干の焦燥を感じながら、カルナの隣に着く。あんまり近づきすぎると、ハンマーの一撃で俺がスクラップにされてしまう。


 ……なんて事ない敵だ。これまでの道のりでいくつも倒してきた敵だ。数もそう多くない。だから、だからこそ、俺らは油断していたのかもしれない。時間への焦りと、格下という油断が、その一撃への反応を果てしなく遅らせた。


 ゆっくりと、カルナがハンマーを振りかぶる――その大きな体に、金色の槍が音を置き去りにして迫る。それを見た瞬間、それが何なのか理解した瞬間、直感した。間に合わない。声を上げることも、カバーに入ることもできない。ならば、俺の持てる手段は何か。

――リスク覚悟で身を切ることだ。


「ッ!? 『サクリファイス』!! ……ごぁっ!」


「ライチ!? な、投げ槍!?」


「囲まれています……! その金の槍は間違いなくレオニダスさんの物です!」


 盾を一応構えていたが、庇うダメージはカルナのVIT依存だ。物理半減も、防具も、盾も俺のVITも全部貫通して、更には被ダメージだけはきちんと二倍になっている。

 500近いHPの八割……400が一撃で持っていかれた。体の内側で衝撃が跳ねる。思わず膝をついてしまった。


 カルナに投げられた金槍はひとりでに宙に浮き、霧の中に戻っていく。


 この状況に、カルナは何が起きたのか理解できず混乱し、ロードは周りの状況を理解して一気に顔を険しくした。それを好機と見たか、続々と霧の中からスケルトンやスパルトイが現れる。

 そして、俺らの進行方向から、堂々と霧を割って現れたのは――黒い巨体の骸骨。


 太陽を彷彿とさせる金色の盾と、光芒にも似た鋭い金の槍がその手には握られていた。迸る戦意と殺意を持って、それは俺たちに槍を向ける。


「コノ首ホシクバ……キタリテ取レィ!!」


 古き時代の英雄の、その骸が吠えた。システムがその声に追従する。


【エリアボスとの戦闘を開始しました】

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