第2話 wake up world

「……ふぅ、とりあえず光は消え……え?」


 視界から籠手を退かすと、俺の目に映る世界が先ほどの温かなログハウスから一変していた。灰色の空、荒れ果てた大地、立ち並ぶ墓……そして、それを踏みにじり歩き回る、いくつもの死体。

 おいおい……スタート地点酷くね?


 ハードの電源を落としてデータを消したくなるぐらい酷い。ちょっと視線を上げれば空に浮かんでいるのは青白い火の玉と半透明の何か。

 ……取り敢えず攻撃してこないみたいだな。


 これで攻撃してきたら俊敏性の高くない俺はどうしようもなくリスキルを延々と繰り返される羽目になったので、よかったと言える。


「……あぁ、鑑定が欲しい。レベルわかんないから手出せねえよ」


 急にレベル20とかのゾンビだったりしないよな……。取り敢えず中立か友好な関係なのは間違いなさそうだ。近くにいたスケルトンらしき魔物を指先でつついてみる。ガチャガチャと音を鳴らしながら、俺の指はスケルトンを揺らした。が、スケルトンは特に反応らしい反応をせずにぼーっと突っ立っている。

 取り敢えず……戦う、か。


 このスケルトンを攻撃したら周りも反応する、みたいなリンクヘイトがあったら、確実に死ぬのは俺の方だが……。まあ、取り敢えずスケルトンと一旦距離を取る。


 中級闇魔法と呪術……闇魔法の方はダークアロー、ダークボール、ダークピラー、暗視、沈黙、盲目の六種類が使える。呪術は、魔法耐性弱化の一つだけだ。


「よし……『魔法耐性弱化』」


 少々の間を置いて、紫色の霞のようなものがスケルトンにまとわりつく。その瞬間、スケルトンがこちらを明確に敵と認識したようで、カタカタと骨を鳴らしながらこちらに近づいてくる。その両目には青い炎が爛々と灯っていた。

 それに向かって落ち着いて魔法を放つ。


「吹っ飛べ。『ダークアロー』」


 タイムラグ無く放たれた漆黒の矢が、堂々と直線を描き、スケルトンの頭蓋骨を粉砕した。


【戦闘の終了を確認しました】

【種族レベルが1上昇しました】

【職業レベルが1上昇しました】

【ステータスポイントを10を入手しました】

【初戦闘ボーナス:ステータスポイント10を入手しました】

【ドロップアイテム:朽ちかけの人骨】

【アイテムはシステムから『アイテムボックス』を開ける操作をしてください】


 システムメッセージが脳内に響く。


 ……とりあえず、周りの敵は無反応か。あと、ここのレベルはそんなに高くなさそうだな。

 人間プレイヤーもこんな所に来ようとは思わないだろうし、手頃な敵が沢山いて、日光が差さない上、それぞれと一対一に持ち込める……あれ、ここ凄くいい狩場?

 よくよく考えてみるとかなり恵まれた環境である事がわかったが、やはり腐乱死体が歩き回る場所はかなり辛いと思う。取り敢えずステータスを……うーん、取り敢えずVITとMAGDに振るか。


ーーーーーーーーー

ライチ 男

シャドウスピリット族 種族Lv2 呪術騎士 クラスLv2

HP 280/280 MP 531/570


STR 1

VIT 110+20

AGI 1

DEX 10

MAG 260

MAGD 210


ステータスポイント0


【スキル】 SP0

「初級盾術1」「初級呪術1」「見切り1」「持久1」「詠唱加速1」「詠唱保持-」


【固有スキル】【種族特性】

「物理半無効」「魔法耐性脆弱:致命」「詠唱成功率最高」「浄化耐性脆弱:大」「魔法威力上昇:中」「MP回復速度上昇:中」「中級闇魔法1」「変形」「精神体」「影に生きるもの」


【装備】

左手 鉄の盾(両手持ち)

右手

頭 騎士の兜

胴 騎士の鉄鎧

腕 騎士の籠手

腰 騎士の腰鎧

足 騎士の足鎧


ーーーーーーーーー


 取り敢えず両方に振ってみたけど……補正がかかってんのか凄い威力だったな……相手が弱かったのもあるのだろうが、それを加味してもMAG260は伊達じゃないと思った。


「MP自動回復速度上昇の特性も中々……さて、取り敢えず明日は土曜日だし、レベル上げるか」


 近くのゾンビにも呪術、ダークアローのコンボを打ってみると、頭を問題なく吹き飛ばしたが、HPゲージが僅かに残った。お、ゾンビはレベルが高いのか、もしくはHPが多いのかな?

 もしかしたら、闇魔法耐性があるのかもしれない。丁度いい、盾で少し攻撃を受けてみよう。

 首を無くしたまま近寄るゾンビに、両手で盾を構えながらこちらも近づく。腕の届く距離になると、どうやって判断しているのかは不明だが、ゾンビは大ぶりな一撃を放ってきた。


「っぐ!……重いけど、そんなに死ぬほど辛いって訳じゃないな」


 ステータスを開いてHPを確認すると26のダメージを受けていた。十発ほど食らえばHPが全損するが、適当に戦ってもそんな事態には陥らないだろう。

 取り敢えずMPが勿体ないので、盾を使った体当たりでゾンビを吹っ飛ばして倒そうとする。……が。


「よい、しょっ。よし、倒したな……あ」


 ゾンビを体当たりで吹っ飛ばし、そのHPを削り切った。までは良かった。勢い余って吹き飛ばしたゾンビの死体がバラバラに分裂して、石飛礫のようにして周りのゾンビに軽いダメージを与えてしまった。

 数にして五体。一斉にこちらに歩いてくる。しかも、その中の一体は上位種なのか、走ってくる。


「うわぁ、マジで気持ち悪い!!『ダークボール』」


 焦った衝動のままダークボールを打ち込んだ。ダークボールはその暗黒の体で二体のゾンビを恐らくドロップアイテムごと消しとばしたが、他のゾンビは殆ど無傷だ。


「お、落ち着け……『ダークアロー』『ダークアロー』」


 二発のダークアローで、多少傷ついていた一般ゾンビは倒した。が、一際腐敗が進んでいない個体がこちらに体液を撒き散らしながら走ってくる。魔法を使おうにも、ゾンビはすでに拳を振りかぶっており、仕方なく盾を構えた。


「グガァア!!」



「かかって来いやぁ!……っごぉっ!」


 盾の中央で受けたはずの一撃が、しっかりと俺のHPを削った。衝撃で後ろに若干仰け反る。


「っく『ダーク……」


「ォォオオァア!」


 取り敢えず一撃を入れようとしたが、詠唱の隙をついてゾンビがワン、ツーと俺の胴体に拳をねじ込む。取れかけの腕で打たれたとは思えない攻撃に、思わず後ろに吹っ飛ばされた。


「アアァア!!」


「っく!吹っ飛べ」


 すかさずのしかかろうとするゾンビを盾で殴るが、STR1の悲しみか、全くダメージを与えられない。鎧の重さを使った体当たりと、筋力で盾を振る殴打では、ダメージ計算が全く違うらしい。


「ぐわぁぁあ!首に噛み付くなぁ!」


 何かのスキルだろうか、無防備な俺の喉への素早い噛みつきが、大きくHPを減らした。

 ステータスを確認すると、HPは100を割り、80に達していた。特性があるとはいえ、このままではまずい。首に噛み付くゾンビに、平常心を保ちつつ魔法を放つ。


「『ダークアロー』……ッチ!『ダークボール」!」


 ダークアローはゾンビのHPの三割を削ったが、あと二、三発も打っている時間は無い。仕方なく近距離でのダークボールを放つ。


「グ、グオオオォ……」


「……よし、どうにかなったか」


 急に現れた闇の球体に、体をバラバラにひきさかれながら、ゾンビは消失した。側にいた俺にも、若干ダメージが入ったが、どうにか倒せて良かった。HPが低いせいか、視界が明暗を繰り返している。


【戦闘の終了を確認しました】

【種族レベルが2上昇しました】

【初級盾術のレベルが1上昇しました】

【アーツ:シールドバッシュを習得しました】

【見切りのレベルが1上昇しました】

【ステータスポイントを20入手しました】

【SPを1入手しました】

【ドロップアイテム:腐った唾液×2】


 ……あれだけダメージを受けて、手に入れたのが腐った唾液……?立ち上がって首筋を撫でれば、鎧に歯型が残っていることがわかる。胴体にも、若干の凹みが残っていた。


「割に合わねえよ……はぁ。ステータスは……げぇ」


ーーーーーーーーー

ライチ 男

シャドウスピリット族 種族Lv4 呪術騎士 クラスLv2

HP 60/280 MP 370/570


STR 1

VIT 110+20

AGI 1

DEX 10

MAG 260

MAGD 210


ステータスポイント20


【スキル】 SP1

「初級盾術2」「初級呪術1」「見切り2」「持久1」「詠唱加速1」「詠唱保持-」


【固有スキル】【種族特性】

「物理半無効」「魔法耐性脆弱:致命」「詠唱成功率最高」「浄化耐性脆弱:大」「魔法威力上昇:中」「MP回復速度上昇:中」「中級闇魔法1」「変形」「精神体」「影に生きるもの」


【装備】

左手 鉄の盾(両手持ち)

右手

頭 騎士の兜

胴 騎士の鉄鎧

腕 騎士の籠手

指 無し

腰 騎士の腰鎧

足 騎士の足鎧


ーーーーーーーーー


「いや、ズタボロじゃん」


 HPもMPも減りすぎだ。あのゾンビめ……一応物理ダメージ半減が入っているはずなのだが、それでもこれとは恐れ入る。おそらくかなり格上の相手なのだろう。まあ、元のVITがタンクを名乗るには著しく低いというところがあるのも原因の一つだろうが。

 ……取り敢えずステータスはVITにぶち込むか。魔法の威力は多分問題ない……上の、いかにも魔法使います的な奴には喧嘩売らないつもりだし、MAGDはちょい放置かな。


 VITに20ポイントを振っておく。一瞬STRに振ってゾンビぶん殴ったろか、という邪な考えが過ったが、落ち着いて振った。

 種族か職業のレベルが3の倍数を超えたので、SPが1ポイント貰えた。スキルを一つ覚えられる。SPでどのスキル取ろう。やっぱ鑑定かなあ……剣術、てめえはさっきのでダメージが入らねえと分かったから無視だ。


 結局STR依存では仕方ない。諦めてほかのスキルに回すべきだ。スクロールしていくと、植物学や大工、中には演説や弁護なんてマイナーなスキルもある。


「やっぱ鑑定に……ん?」


 自動回復していくMPをみて、ふと思う。


「俺、HP回復どうすんの?」


 ヒールをかけて貰う。光魔法っぽいし絶対に死亡する。

 ポーションを飲む。精神体にポーションが効くのか不明。てか、どこが口?

 寝て治す。治らなそう。あとゲームの中でまで寝たくない。

 回復できる場所を探す。取り敢えずここには無い。


 ……不味い。どうにかせねば。


 スキルの欄をスクロールしつつ、良いスキルを探す。瞑想、なんて良さそうなスキルがあったが、残念なことにHPは回復できないようだ。


「……あ、『HP自動回復:小』。固有スキルの欄にあったのか」


 他にも、影中移動速度上昇や、日光耐性:弱、透明化など、便利なスキルが並んでいる。くっ……鑑定は職業レベルが3になった時に取るか。


【固有スキル:HP自動回復:小を入手しました】


 何かに負けた気分だが、いかんせんしょうがない。HPを見てみると、本当にちょっとずつ回復している。MPの自動回復速度に比べると、尋常じゃないくらい遅い。


「次に取れるスキルの欄に『中』が出たな……くぅ、迷う。……にしても回復マジで遅い」


 ミジンコレベルで回復していくHPに、この先大丈夫か?と心配になった。

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