第3話 呪術騎士は歩み始める

 回復手段が欲しい、防衛手段が欲しい、あ、上位スキル出てきた。取ろう。


 こんな感じで鑑定スキルを取るのが遅れて、魔物プレイヤーが認識されずに葬られていくのか……。悲しい真実に胸を打たれながら辺りを少し散歩する。自動回復のついでにゾンビを観察してみよう。


「大体弱そうな崩れかけばかりだけど……」


 少し遠くへ目をやると、歩くような、走るような行為をしているゾンビも見受けられる。大体、俺のリスポーン地点から遠ざかるにつれてレベルが高くなっているようだ。つまりは、さっきのはイレギュラーなくらい近かったのか。

 強そうなゾンビが多い方面には、なんか……剣士の石像?が多いな。


 仲間と戦っている体格の良いゾンビや、疾走ゾンビなど、明らかに一段か二段上のゾンビがいる方面には、首がなかったり、朽ちかけだったりする剣士の石像が多い。


 それに反して、反対方向には、十字の墓石が立ち並んでおり、レイスやウィルオウィスプっぽい火の玉が多い。


 他にも、剣士像の右手側には犬ゾンビやカラススケルトンなど、動物系が多い方面には竜の銅像が、左手側にはスケルトンや、体格の良いスケルトンがいるガーゴイルの石像が広がっていた。なんか、ここ、結構重要そうなんだけど……。

 俺は、MMOはあまりやらないが、ゲーム自体はそこそこやっている。そんな俺の勘からすると、ここは中々に……奥が深そうだ。


「明らかにあのゾンビクソ強かったし、これもしかして、俺人間プレイヤーの町からステージ二個くらい離れてる?」


 そうやってここについて少し考察をしていると、急に視界にシステム表示が開かれた。


【一定値のフィールドへの理解を確認】

【フィールドの発見と見なします】

【フィールド情報を一定量解禁します】


『荒れ狂う死霊の舞踏場』

推奨レベル12〜28

ボス:未討伐


「……いや、やばいところすぎるでしょ」


 何処から入るのかさっぱりだが、どうやらここの最低推奨レベルは12だそうだ。種族レベルですら、まだ4だぞ?さっきのは、MAGの値だけなら適正レベル超えてるからやれたのか……道理で一撃が重すぎると思ったよ。

 騎士が盾術使って正面からしっかり受け止めたのに、二割持ってかれるとか、少しおかしいと思ったわ。


 取り敢えず……一番格下っぽいスケルトンとゾンビを呪術、ダークアローのコンボでやるか……はぁ。

 良い狩場で、外部から誰も入ってこないが、これは少々……いや、大分辛い。が、泣き言は言ってられない。置かれた場所で咲きなさい、とはよく言われる言葉だ。このゲームをプレイすると決めた限りは、取り敢えず心折れるまで頑張ろう。そうと決まれば――


「……『魔法耐性弱化』『ダークアロー』」


 連続して放たれた魔法が近くのゾンビに命中すると、ゾンビは音もなく事切れた。


「そういやさっきの戦闘、呪術かけるの忘れてたな……うーん、おごっていた部分もあったか……気を引き締めるかぁ」


 それから10体ほど、周りに細心の注意をしながらゾンビを倒した。職業のレベルを上げるために、呪術をしっかり使い、たまにシールドバッシュをスケルトンなどに使って、漸くレベルが上がった。


【戦闘の終了を確認しました】

【種族レベルが1上昇しました】

【職業レベルが1上昇しました】

【ステータスポイントを10入手しました】

【SPを1入手しました】

【初級呪術のレベルが1上昇しました】

【ドロップアイテム:腐肉】


 よし、ステータス開くか。


ーーーーーーーーー

ライチ 男

シャドウスピリット族 種族Lv5 呪術騎士 クラスLv3

HP 300/300 MP 510/570


STR 1

VIT 130+20

AGI 1

DEX 10

MAG 260

MAGD 210


ステータスポイント10


【スキル】 SP1

「初級盾術2」「初級呪術2」「見切り2」「持久1」「詠唱加速1」「詠唱保持-」


【固有スキル】【種族特性】

「物理半無効」「魔法耐性脆弱:致命」「詠唱成功率最高」「浄化耐性脆弱:大」「魔法威力上昇:中」「MP回復速度上昇:中」「HP自動回復:小」「中級闇魔法1」「変形」「精神体」「影に生きるもの」


【装備】

左手 鉄の盾(両手持ち)

右手

頭 騎士の兜

胴 騎士の鉄鎧

腕 騎士の籠手

腰 騎士の腰鎧

足 騎士の足鎧


ーーーーーーーーー


 取り敢えず鑑定を取って……あと、ポイントは普通にVITに振ろう。

 耐久力が上がってきて、下位ゾンビの打撃程度なら一桁のダメージで済むようになってきた。今なら、冷静に戦えば疾走ゾンビもいけそうだと思うが、慢心は禁物だ。MPの自動回復を待って、深呼吸をし、疾走ゾンビを探しに兵士の石像地帯へ行く。


「グオオオォ!!」


「うぉっ……なんだよ、横通り抜けてくのかよ」


 少し歩いていると、叫びながら疾走しているゾンビを見つけた。そのゾンビに向けて、説明通りに鑑定を発動させる。


「『鑑定』」


高位不死者ハイゾンビ LV13』


 鑑定のレベルが1のせいで種族とレベルしかわからないが、分かるだけで事故を十分減らせる。これからは戦う前に鑑定をかけるようにしよう。


「ふぅ……落ち着け。……『魔法耐性弱化』」


 ハイゾンビの後を駆け足で追いかけながら、呪術を使う。呪術の紫色の光がゾンビを包むと、ピタリとハイゾンビがその動きを止め、こちらに全速力で走ってきた。

 それを冷静に見つめて、盾を構えながら魔法を打つ。


「『ダークボール』」


「グガァア!?」


 半身を消しとばされたハイゾンビだが、さすが文字通り腐ってもハイゾンビ、左半身だけになりながらもこちらに近づいてくる。

 バランスを崩しながらも拳を振り上げるハイゾンビ。その崩れた体勢に盾術の『シールドバッシュ』を発動させ、一時的にAGIの値を無視した素早い体当たりをかます。


「トドメだ。『ダークアロー』」


「グォ……」


 空中で錐揉みになるハイゾンビの頭部にダークアローが命中し、そのHPを全損させた。


【戦闘の終了を確認しました】

【種族レベルが1上昇しました】

【職業レベルが1上昇しました】

【ステータスポイントを10入手しました】

【SPを1入手しました】

【中級闇魔法のレベルが1上昇しました】

【ブラックカーテンを習得しました】

【初級呪術のレベルが1上昇しました】

混乱コンフュームを習得しました】

ポイズンを習得しました】

【詠唱加速のレベルが1上昇しました】

【ドロップアイテム:魂のかけら(レア)】


 色々上がったな……ふぅ……。落ち着いて深呼吸をする。気持ちを落ち着かせる。気持ちを……。


「っしゃああ! 勝ったぞおらぁ!!」


 無理無理。喜びを押し留めるなんてのは、絶対無理だ。少なくとも、俺はそんな性格だ。しばらく周りの目を気にせず大声をだして喜びを表現する。

 ひとしきり叫んだら気分が良くなった。いや、もともと良かったのだが、更に良くなったよ。はあ……最高の気分。取り敢えずVITに振って……お、HPがもうすでに310もある。


ーーーーーーーーー

ライチ 男

シャドウスピリット族 種族Lv6 呪術騎士 クラスLv4

HP 310/310 MP 460/570


STR 1

VIT 150+20

AGI 1

DEX 10

MAG 260

MAGD 210


ステータスポイント0


【スキル】 SP1

「初級盾術2」「初級呪術3」「見切り2」「持久1」「詠唱加速2」「詠唱保持-」「鑑定1」


【固有スキル】【種族特性】

「物理半無効」「魔法耐性脆弱:致命」「詠唱成功率最高」「浄化耐性脆弱:大」「魔法威力上昇:中」「MP回復速度上昇:中」「HP自動回復:小」「中級闇魔法2」「変形」「精神体」「影に生きるもの」


【装備】

左手 鉄の盾(両手持ち)

右手

頭 騎士の兜

胴 騎士の鉄鎧

腕 騎士の籠手

腰 騎士の腰鎧

足 騎士の足鎧


ーーーーーーーーー


「さて、スキルだ」


 どれを取れば良いのかさっぱりわからん。順当に鑑定を入手できたし、ここは有能そうな種族の固有スキルに手を出すか?

 いや、呪術タンクをすると決めた以上、呪術に関するスキルやタンクをする上で有能そうなスキルが良さそうだ。そういや、新しい魔法が出てたな。


 ブラックカーテンは、目の前に真っ黒な霧のカーテンを生み出し、魔法を防ぐ。更に、そこを通ったMOBに盲目を付与する、と。集団戦とか、逃亡戦とかで役に立ちそうだな。後ろに張るだけで時間稼ぎになる。


 あとは、混乱と毒か。ようやく呪術がしっかりとしたデバフをかけられるようになったのか。そういえば、闇魔法の盲目とかあんま使ってなかったな……でも、MPの消費が過剰すぎるし、使わなくても良さそうだ。まあ、これより上位のゾンビやスケルトンを相手にするならボス戦だと思って遠慮なしにぶち込むが。


 毒は一秒にHPの0.5%ダメージ……まあ、説明見る限り低位の毒だしな。ここから猛毒とか致命毒がでるんだろ。さて、混乱は……?

 プレイヤーにかけた場合、鑑定の結果がめちゃくちゃになり、方向感覚と平衡感覚が崩れて、自分の思った操作と逆になる。つまり右足出そうと思ったら引くのか。振り下ろそうと思って更に振りかぶったり……いいね。


 モンスターは一時的に相手がこちらに対して友好MOBになって、周りの敵を攻撃する……有能だ。効果時間は三十秒ほどだが、相手のMAGDが高いと弾かれたり、効果が縮んだりする、と。


「これ、強くね? もう魔法いらないじゃん」


 魔法に対する抵抗レジストは、術者のMAGと相手のMAGD値の差で出来るかが変わると。

 十字墓石方面のいかにも『私、魔法系ですが、何か?』みたいな面子に比べて、こいつら絶対脳筋だし、若干メタってるよな。これからはハイゾンビ狩りが楽になりそうだ。とはいえ、まずはスキルを一つ決めなくては。


 いやぁ、面白いスキルが多すぎて目移りする……大道芸、酔拳……ボケとかツッコミってスキルか?いや、スキルか。

 技術あって初めて面白くなるもんな。じゃなくて、どれにするか、だ。


「……あ、うん? いやぁ……『体幹強化』か」


 多分曲芸師とかの固有スキルに入ってる奴だ。他にもパントマイマーとかが持ってるみたいだな。脳内に、数十分前のハイゾンビとの戦闘が反芻する。盾で受けても、簡単に吹っ飛ばされ、胴体で受けては転倒させられ、体幹が無いという言葉が脳に浮かぶ。そりゃあ、この鎧の中身、空だからなぁ。にしても、タンクとしちゃ致命的だ。


「……よし、『体幹強化』にしよう」


【スキル:体幹強化1を習得しました】


 とっても特に体が変わる、ということはなかった。まあ、体幹だし、攻撃を受けてみない限りはその効果を得ることはあまり無いだろう。うわ、よく見れば『状態異常効果上昇:小』とか、『呪術理解1』とかあるじゃん……取るか。


 状態異常効果上昇は科学者や薬師、呪い師などの固有のスキルで、呪術理解は呪術師の固有スキルらしい。説明を見る限り、術の対象を増やしたり、術の詠唱を早くしたり、呪術を「ストック」することができるらしい。


……いや、必須級だろ。取り敢えず呪術と闇魔法のデバフ関連を強化して、嫌がらせ度を上げて、タンク性能を地道にあげよう。


「さて、レベリングに戻るか」


 UIを開くと今の時間は九時半。出来たとしても一時間半かな。うちの母は特にゲームについて厳しく無いんだが、目の下に隈を貯めている父は、日を跨ぐ前には寝なさいとよく言っているので、それくらいだ。まあ、九時半にゲームやめて十時には寝ろ、とか厳しい家もあるらしいし、十二時までなら何しても許されるうちは良い方か。ハイゾンビ……見つけた。レベル16……高いな。


 俺の前を血液を撒きながら走るハイゾンビのレベルは16。モンスターによってレベルが違うのか。もしかしたらレベルが一定値に行くと進化するのかもしれないな。取り敢えず……。


「『魔法耐性低下』『ダークボール』『ダークアロー』……やっぱり残るか」


 一連のコンボを叩き込んでも、若干余裕のありそうなハイゾンビは、ちぎれかけの腕を斜めに振りかぶった。

 見切りのレベルが上がったからか、ゾンビの細かい動きがわかるようになってきた。しっかりと腰を下ろして、進路方向に盾を構える。


「来いやぁ! ……ぐっ……軽いぜ『シールドバッシュ』『ダークアロー』」


 たしかに一撃はとてつもなく重いが、体があまりぶれなかったので、しっかりと攻撃を受け止められた。続けてシールドバッシュで吹き飛ばしてアローを決めると、ゾンビはバラバラになりながら消えていった。


【戦闘の終了を確認しました】

【種族レベルが1上昇しました】

【職業レベルが1上昇しました】

【ステータスポイントを10入手しました】

【持久のレベルが1上昇しました】

【体幹強化のレベルが1上昇しました】

【ドロップアイテム:状態の良い腐肉】


 VITに振って……お、さっきの一撃、16しか食らってないな。もろに食らって40から60くらいで、完璧に防ぐと20くらいだったから、中々。

 それに、体がブレないから、戦闘中のミスも減りそうだ。それに、さっきからよく種族やスキルのレベルが上がってるな、思ったが、よく考えれば、自分よりレベルが10上の相手の攻撃を受け止めたり、魔法をかけたり、倒したりしているからだろう。正直、パワーレベリング気味だな。まあ、同レベル帯になったら落ち着くか。


 取り敢えず狩ろう。一時間をかけて、ハイゾンビを8体ほど倒した。種族レベルと職業レベルが2ずつあがり、SPが2貰えたので、呪術理解と状態異常効果上昇を取っておいた。

 他にも盾術と呪術、鑑定のレベルが1あがり、一定時間VITが上がる『ディフェンススタンス』と、『盲目』の術を覚えた。

 鑑定は相手の有利な属性と不利な属性が見えるようになった。それでゾンビを見てみると、やはり闇に対する耐性があった。幸いハイゾンビもゾンビも、耐性は恐らく小か中くらいだと思われる。


 ステータスは取り敢えずVITに10振って、今後に控えてMAGに10振っておいた。若干魔法の威力が上がった気がする。


「レベルが9になって、キリもいいし、今日はここで……」


 ログアウトでもするか、と呟いたその時、俺に影がかかった。レベルの上がった盾術のお陰か、反射的に後ろを振り返って盾を構えると、強化された体幹を否定するかのような重々しい一撃が盾に打ち込まれ、俺の体は空中を横殴りにふっとんだ。


「っがあ! ……一体――」


 吹き飛ばされた先にあった剣士の石像にぶつかり、石像にヒビが入る。まだ俺は攻撃してねえはず、と記憶を掘り返していると、思い当たる節があった。


「同胞に襲いかかっていた、ゾンビ」


 顔を起こして攻撃してきた相手を見る。その体は、とてもただの『歩く死体』だとは思えなかった。もはやそれに「適応」した、新しい生き物……。


歴戦高位不死者グレーターゾンビレベル――


 25。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る