いのり

烏神まこと(かみ まこと)

1

 タオルで髪を拭きながら風呂場を出ると、リビングからピコピコと軽快な電子音が聞こえた。Tシャツに短パンという軽装のままリビングを覗くと、コントローラーを握りしめたままソファで眠っている永野くんが居る。今日も昼は学校、夜は訓練で疲れてしまったのだろう。

 ゲームコントローラーを机の上に除けて彼の体を持ち上げる。――重たい。出会った頃はもっと簡単に持ち上げられたのに時の流れは早いな。先月、十二歳の誕生日を祝ったばかりだ。


 なんとかベッドの上まで運び、布団をかけていると幸せそうな寝顔が目に入る。

 支援担当として、優秀なパイロットの彼を見ていると忘れがちだけど彼はまだ小学生だ。目の前の的を狙う真剣な彼も好きだけど、本来の人懐っこくて前向きな彼も大好きだ。これからもそうであってほしい。彼が実戦に赴くことがなければいいと思う。


「谷原さん……」


 髪を乾かすためにその場を離れようとしたとき、彼が俺の名前を呼んだ。愛しさに思わず笑みがこぼれる。


「おやすみ」


 俺は若さゆえの丸みのある彼の頬にそっとキスをしてその場を離れた。

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