10.10.ありがとう


 ライドル領に大きなワープゲートが一つ出現した。

 それを見た人間たちは驚いたようだったが、そこから出てきたのがセレナたち兄弟だったのを見て安心する。


 六匹はそのまま獲物を運び入れ、オールの元へと運んでいく。

 ずいぶんな重量があるが、六匹も居れば運ぶことはできる。


『リーダー喜ぶかなー!』

『お父さんたちが提案したんだから大丈夫でしょ!』

『ん! だねー!』


 どんな反応をするのだろうかと思いながら、六匹はリーダーの元へと向かっていった。



 ◆



『こ、これは……!』

『『『『『『プレゼント!』』』』』』

『おお……』


 懐かしい魔物が、今俺の前にある。

 魔力総量を回復させることができる魔物。

 そう簡単には見つからない珍しい存在だったが、俺たちはこれを何度か狩ったことがある。


 だがあの時は魔法の腕も上がり、体も大きくなって運搬も簡単だった。

 しかしこの子たちは自分よりも大きな魔物を協力して狩ってきたのだ。

 俺のために……!!


『ありがとう、お前たち……。マジで嬉しい……』

『な、泣かないでリーダー』

『す、すまんすまん……。でも誰からこのことを聞いたんだ?』

『お父さん!』

『ああ』


 なるほど。

 確かにあいつらくらいからじゃないと話を聞くことはできないわな。


 まったく、一日姿が見えなかったから心配したぞ。

 ベリルも心配していたんだ。

 一言くらい言ってくれとは思ったが、まさかサプライズとしてこいつを持ってくるとは思わなかったな。


『リーダー! 食べて食べて!』

『あ、そうだな。じゃあ頂こう』


 今狩ってきたばかりの新鮮な肉だ。

 俺にとっては薬かもしれないがな。


 頭を咥えて持ち上げ、一口で平らげる。

 骨ごといったが、まぁ俺であれば問題はない。

 俺からしたらこの獲物は小さすぎるからな。


 四回だけ噛み、あとは簡単に飲み込んだ。


『……』

『どう? どう?』

『う、美味いな……! さすが新鮮だけあって、いい味がする。礼を言うぞ、お前たち』

『『へへへー!』』

『さぁ、セレナはベリルの所に行きなさい。心配してたぞ。他の皆はお兄ちゃんお姉ちゃんとして、他の子供たちの世話を頼む』

『『『『『『はいっ!』』』』』』


 六匹はすたたたーと指示された場所へと向かっていった。

 全員が遠くに行ったあと、俺は舌を出す。


『まぁっず……』

『『『え???』』』

『なんだこれ……超絶不味い……』


 なんだこの苦さは……!

 良薬口に苦しとはいうけども、これはあんまりだろ……。

 いや確かに内臓も一緒に食ったけど、それにしてもひどすぎる。

 もう肉が生ごみ。

 こいつ雑食か……?

 何食ったらこんな肉になるんだよマジで……。


 だ、だけど母さんにこの獲物をあげた時、皆で一緒に食ったことを覚えている。

 その時はこんなに不味くはなかったはずなんだけどな……。

 これは魔力総量が減っているから、こんな味になってんのか……?


 ……え、俺たち……母さんにこんなもの食わせてたのか……?

 ご、ごめんよ母さん……。

 当時の俺たちは、あの肉美味かったんだ……。


『お、どうだった兄さん』

『ガンマか……』

『ど、どうした……』

『あの魔物の肉、しっかりと食ったが……くそ不味かった……』

『……え? そうなのか?』

『ああ……』


 こんな肉食ったことねぇわ……。


『で、でも魔力総量の方は……』

『……。増えなかった』

『は、はぁ?』

(当たり前だ)


 オルオードが呆れたようにそう言った。

 ガンマにはこいつの声は聞こえていない。

 なので俺が何かを話すのを待っているようだ。


 だがまずはオルオードの説明を聞きたい。


『オルオード?』

(あの魔物は体の異常を味覚で教えてくれるだけの普通の生き物だ。それをいつしか薬だと勘違いする奴が多くなり、魔力総量を回復させるものだという風に伝わっていった)

『……そうなのか』

『お、おい兄さん……増えなかったってどういう……』

『言葉の通りだ。あの魔物に魔力総量を回復させる力はない。ただ味覚で体の異常を教えてくれるだけなんだ』

『……じゃ、じゃあ……母さんは……』

『俺たちの善意を、無下にしたくはなかったんだろうな。さっきの俺も……そうだった』


 誰も悪くない話だ。

 子供たちがあの魔物の話を聞いて、俺のために狩りに行ってくれたというだけで俺は幸せだよ。


『……笑えねぇ話だな……』

『そうか? でも俺は嬉しかったぞ』

『はぁ……。魔物のことを教えた手前、あれは間違いだった、とは言えねぇなぁ……』

『墓場まで持っていってくれ。今後回復魔法が使える奴がいて、そいつが俺みたいになったとしても、あの魔物のことは今まで通り伝えていってくれ』

『意味ねぇのにか?』

『いや、意味はあるんだ』

(……そうだな、意味はあるな)


 これは当事者にしか分からないものかもしれない。

 だがこれは……伝え続けていた方がいいはずだ。

 今まで同じことをやってきた奴が悲しまないように、な。


『……すまん、ガンマ』

『なんだ急に』

『そろそろかも、しれん……』

『は?』


 あの肉を貰ったばかりで倒れるのは、申し訳ねぇなぁ……。

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