10.7.出発進行


 六匹はやることが決まったと駆けまわる。

 匂いを嗅いで確認しながら、兄弟たちと連携を取りながらあっちだこっちだと動き回った。


 そして、六匹はベンツを取り囲んだ。


『!? ど、どうした……?』

『『お父さん聞きたいことがあるの!!』』

『『凄い大事な話!!』』

『う、うん……』


 自分の子供たちの勢いに圧倒されて引き気味に小さく頷く。

 何をこんなに躍起になっているのだろうか?

 また妙な会議を開いてテンションが上がっているのだろうかとも思ったのだが、最近はセレナ以外の子供たちは会議に消極的だった。

 だというのに何だこのやる気は。


 何かよからぬことをしようと思っているのだろうかと、ベンツは心配する。

 だが次に子供たちから発せられる言葉を聞いて、やる気の原因を理解することができた。


『あのねお父さん。リーダーの好きな物って何かな?』

『ん? 好きな物?』

『そうそう! なんだっけ、ぷれ……ぷれなんとかってのをあげたいんだ!』

『あげる……か……。なるほどね』


 話の内容を聞いて何となくやろうとしていることを理解したベンツは、納得したように頷いた。

 つまるところ、この子たちはオールにお礼という形で、何かをあげたいのだ。

 だがオールは自分の好きなものについてなど、あまり話しはしない。

 だからこうして弟である自分の所に話を聞きにきたのだと、理解することができた。


 とはいえ、自分もオールが好きな物を熟知しているわけではない。

 好きな物といえば、子供たち。

 特に小さな子供が大好きだ。


 あとは……あとは……。

 特に思いつかなかった。


『んー……。お前たちが選んだものなら、兄ちゃんは何でも喜ぶだろうけどなぁ……』

『でもちょっとでも喜んでもらいたいから、できれば好きな物がいい!』

『そうかぁ……』

『……何話してんだお前ら』


 ベンツが悩んでいると、子供たちに囲まれているベンツを見て訝しんだガンマが近づいてきた。

 これはしめたと思い、今度はシグマとラムダがガンマの前に立つ。


『『お父さん! リーダーの好きな物って何!?』』

『あ? 小さな子供』

『『じゃなくて!! 他に何かない!?』』

『ほ、ほか? んー……』


 よく考えてはみたのだが、ない。

 ガンマからしても、オールの好きな物は本当に子供たちだけだということしか思いつかなかった。

 困ったようにしながらベンツを見るが、こうして聞かれているということは、ベンツも子供たちを納得させるだけの答えを出すことができなかったのだろう。


 二匹はこれは困ったと思いながら、もう少し考えることにした。


『ベンツ、兄さんが好きな物ってマジでなんだ? 俺子供しか知らねぇんだけど』

『僕もだよ。あ、でもロード爺ちゃんが作ってくれた木の実は美味しそうに食べてなかった?』

『できれば作れるものか、獲ってこれるもので考えようぜ……』

『た、確かにそうだね……』

『『……んんーーーー……』』


 魔物の肉はシャロが焼いて美味しく調理してくれていた。

 だがそれも子供たちに多く分け与えるので、どの肉が好きなのかは分からない。


 何かを作ろうと思っても、オールはほとんどの物を作ることができるだろう。

 恐らく、自分たちが考えて作る物など、貰ってもあまり嬉しくはないはずだ。

 なのでここは、何か獲ってくることができる物を選ぶべきだろう。


『あっ』

『? 何か思いついたのか?』

『ん~……でもなぁ……』

『なんでもいいから言ってみろ。それで俺も何か気付くかもしれねぇし』

『そっか。えーと……』


 ベンツは昔のことを思い出して、何かに気付いた。

 それをガンマに共有する。


『あの……魔力総量が増える獲物……』

『あ!! あれか!!』


 昔、オール、ベンツ、ガンマで協力して、食べると魔力総量が増えるという魔物を狩りに行ったことを思い出した。

 リンドは回復魔法の使い過ぎで、魔力総量がどんどん減っていってしまっていた。

 だから三匹でその魔物を狩りに行こうと決めたのだ。


 だがあれは狩るのに時間もかかるし、珍しい魔物。

 すばしっこく連携が取れなければ絶対に狩ることはできないだろう。


 しかし……子供たちが協力して、オールの減少している魔力総量を増やす魔物を狩ってきたとなれば……泣いて喜ぶはずである。


『お父さん、なにそれ?』

『……ガンマ、どうする?』

『俺はいいと思うぜ。やるかどうかはこいつらに任せるがな』

『『ん?』』


 子供たち全員が首を傾げた。

 ベンツとガンマは一度顔を見合わせて小さく頷き、子供たちに魔力総量が増える獲物の詳細を教えることにした。

 だがその前に、確認しなければならないことがある。


『あったぞ、兄さんが喜ぶ物』

『なになに!?』

『とある魔物だ。兄さんの病気を治す特効薬』

『『『『『『そんなのあるの!?』』』』』』

『だけど……狩るのも見つけるのも難しい。君たちにできるか?』


 子供たちは顔を見合わせる。

 六匹は力強く頷いてベンツの目を見た。


 ここまで意志が強いのであれば、任せても大丈夫だろう。

 ベンツはようやく詳細を教えた。


『魔物の大きさは君たちよりも大きい。俺たちは一年でようやく狩ることができたけど……多分今なら君たちでも狩れる。何処にいるかは分からない。だけど動く水辺の臭いがすれば、それがその魔物の臭いだよ。すばしっこいからすぐに分かると思う』

『姿は頭に角があり、大きな腕と細長い尻尾。牙は小さく、顔は細い。四足で走るが後ろ脚は兎の様に発達している。色は灰色だ。一番特徴的な角は青い。綺麗だからすぐに分かるだろうな』


 真剣に聞いている子供たち。

 やる気は十分のようだ。


 しかしいる場所が分からないとなると、流石に辛いだろう。

 なのである程度の予想だけは伝えておくことにする。


『あいつがいる場所は……第二拠点の周辺だ』

『え、そうなの?』

『一度レイが狩ってきた事を覚えてる。多分いるはずだ。水辺にいることが多いから、その辺を探すのがいいだろう』

『『分かった!!』』

『『お父さんありがとう! 行ってくる!!』』


 子供たちはお礼をいった後、まずは本拠地へと戻ることにした。

 今のベンツの子供たちであれば纏雷が使えるので、本拠地まではそう時間はかからないだろう。

 シグマとラムダは少し大変かもしれないが、そこはセレナたちが合わせてくれるようだ。


『よーし、出発進行ー!』

『『『『『おー!』』』』』

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